反逆と運命2
最近4000文字超えるんですよ……本当にごめんなさい。読みにくいですよね。明ちゃんのぶっちゃけ回
「調子はどうだ……じゃねぇぞ、クソジジイ」
ずいぶん弱った様子だが、それでも噛みつく犬の如く、歯をむき出して怒りをあらわにする。
「なぜ俺を殺さなかった! 殺してくれなかったんだ、クソジジイ!」
悲痛な叫びが、痛いほど佐倉にはわかる。あの状況下、もはや彼に帰る居場所はない。彼は矢崎進を殺せなかったのだから。死神としては失敗作の殺し屋だから。
ならばいっそ、殺してくれたほうが楽だ。あとで社会的制裁を受けるよりも、一人でオーアと戦い続けるよりも、あの場で死んだほうがずっと楽だろう。だが────
「殺すわけねぇだろ。今、内情に詳しいのはお前だ。お前から聞かなくてどうする」
「喋らすために生かすか……はっ、だろうよ。なら俺は死ぬまで話さねぇ。このまま餓死してやるよ」
実際に何も口にしていないのだろう。優斗の体はやせ細っており、今にも死んでしまいそうだということは目でわかる。このまま何もしないことは、彼を殺すことになってしまう。
「だいたい、お前らには会いたくねぇって言ったのに、何で来たんだよ。俺が死ぬまで来なかったらよかったのによ」
「まぁね、何も手みやげ無しで来たわけじゃないよ」
そういうと、明はポシェットから、スポーツドリンクを出す。そして、小型ナイフもだ。
「僕の話聞いてくれたら、縄を解いて、このスポーツドリンクあげるよ。確かオーアのメンバーは、食塩水があれば最低1週間は生きれるんだってね」
「要するに、お前の話を聞いたら、俺はそれが飲めるってことか」
「そういうこと、悪い話じゃないんだけどな、聞く?」
「聞かねぇよ、聞いたら飲むのは強制だろ」
なかなか意地を張っている。死神も舐めたものじゃないな、と佐倉は感心していた。少なくとも自分より後は言うほど落ちぶれていなかったようだ。
情報を割らない心もしっかりしている、生き抜く訓練もしている。あいつが……雄飛は手を抜かなかったことがここでわかった。
「じゃあ、聞いてねー」
「俺の話聞いてた!?」
だが、そんな彼に、明はお構いなしである。無慈悲だ、ある意味。
「まず一つ、進くんは退院したよ。あんな血が滴るほどのケガをしておきながら、数日足らずで退院したのが不思議だけど、とりあえず無事だよ」
────その一番最初の言葉が、一番効果があったようだ。優斗はからっからの体から、一滴涙を流す。どれだけ体が乾いても、どれだけ心が荒んでも、彼にとって矢崎進という存在は、命より大切なのだ。その一滴の涙が、体を生命の危機に晒したとしても。
「ほら、それ以上泣くんだったら、体から水分抜けたらまずいでしょ」
明は優しく声をかけながら、縛られた縄を解いていく。そしてスポーツドリンクを開けた状態で差し出した。
「いい、このまま泣いて死ぬ」
それでも意地を張る優斗に、明は強制的にペットボトルの口を押し付けた。すると、体とはやはり素直なもので、すぐさま手を伸ばし、一生懸命、水を欲した。飲み切るのは早く、飲み切った後はぜぇぜぇと息を切らしながら、もう一本と口にした。
「やっぱりねー、進くんのためには死ねないもんね。警備員さーん、回復食持ってきてあげてくださーい」
それらもすべて予測済みだったのか、部屋には警備員が机を持ってきて、そこにおかゆと食塩水を差し出した。優斗はすぐさまそれに飛びついて、流し込むように口にする。食べるとき、彼は泣いていた。泣きながら、ガツガツとおかゆを口にし、食塩水で流し込む。その涙は、喜びだろうと、佐倉は思っていた。
どれだけ死を望んでいても、食べ物にありつけたありがたみは、きっと人類共通だ。そして、それ以上に、矢崎進が無事だったことが何よりもうれしいのだろう。
……すべて食べきるのに、時間はかからなかった。ぜぇぜぇと息は荒く、もちろんこのままいくのであれば、一度病院に行くことをおすすめするが、すぐに死ぬという状況ではなくなった。
「生きた心地はする? 優斗くん」
「鬼みたいな質問だな。さっきよりかは、するかもな」
死にたいと思う人間には、生き閻魔かもしれない明だが、自分の方法ではおそらく、優斗を喋らせることはできなかったと佐倉は思った。同じことを言っていても、信用度合いが違うだろう。
「で、話ってなんだよ」
「それだけだよ。君はそれが聞ければ充分でしょ」
優斗は呆れたようにため息をつく。だが、同時に笑っていた。一本取られた、そういうように。
「なんだよしゃちょー拍子抜けだぜ。だが、俺を生かすことに成功した。そうだろ?」
「だね、僕の目的は一つ達成。そして、今からするのは、これからの話だ。あ、佐倉、椅子になれる? 僕疲れた」
「は?」
佐倉も優斗も、一瞬驚いたが、佐倉は仕方なく片膝を出す。優斗も頭を抱えて、それを見ているしかない。
「いやぁ、佐倉は体が大きいからね。ちょうどいい椅子だよ」
「俺のことなんだと思ってるんです、お嬢」
ごめんごめん、と軽く謝ると、明は話を始める。
「さて、僕が今から話すことは、これからの話だ。僕と佐倉は、これより反オーアのメンバーを連れて、オーアのトップである元木雄飛と、僕の父親である影山高信を打ち倒す。方法は死でも制裁でも構わない。ともかく与えるものは、二度と僕らに関わるなという事実だ」
「……なるほど、要するに影山家として、オーアと縁を切るわけっすか」
「そういうことだね」
そこでだ、と言って明は腕を組んだ。
「優斗くんが知っているオーアについて、いろいろ教えてほしい。もちろんその間の身の安全は確保しよう」
「そんだけでいいのか?」
「いいや、本当は戦ってほしいけど。進くんを守るためにもね」
そう言われると、優斗は少し不思議そうな顔をした。そして思わず明に聞く。
「俺には最後まで分からなかったんだ。なんで進は狙われる立場にあったのかが」
「そういえば俺もっすね。大方そうじゃないかという予想はついてるんですが……真実を誠一郎さんは話してくれたことがなくて」
「あー、そうだよね。もう冬馬は知ってるんだけど、二人にも話しておかないと。その前に佐倉、だいたいでいいけど、矢崎誠一郎は「影山高信とどんな約束を結んだか」知ってる?」
唐突に話は佐倉に振り切られる。佐倉は顔をしかめ、不思議に思いながらも、思ったことを情報提供の一つとして口にした。
「あぁ、知っているとも。ここに「望」という名の少年を差し出す。この少年は将来、影山家を守る存在だ。だから、矢崎家に関わるのはこれっきりにしてほしい。「進」に手を出さないでほしい。これで手切れにしよう、と」
そこで絶句したのは、優斗だった。開いた口がふさがらず、しばらくし、やっとの思いで声を絞り出す。
「おい……じゃあ望をオーアから引き離し、身元を隠して影山家に手渡したのが……進の父親だって言いたいのか!?」
「あぁ、俺もそこは知っていた。そこで影山高信はその条件を飲んで、矢崎家に手を出さないことを約束した。だが簡単に破られたね。進には手を出さなかったが、誠一郎さんには手を出した。結果、誠一郎さんは落石による事故という形で死んだ。何が約束だ……!」
佐倉は悔しそうに拳を握り締める。だが、事態はそこではない。そういうかのように、明が話に入ってきた。
「そうだね、矢崎誠一郎の結んだ約束は「望を差し出す代わりに、進に手を出さない約束」だ。でも、どうしてそんなもの結んだのか、優斗くんはわかる?」
「いや……わかんねぇよ。そもそも、どうして望と進が交換条件に上がるんだ?」
そこで、佐倉は記憶を繋ぎ合わせる。過去と今、その様々なセリフが繋がり、そこにある事実を浮き彫りにさせていく。まさか、とは思っていたが、本当にそうなるとは思っていなかった。
「まさか……な。考えられる理由としては一つ。社長になりえる可能性があったということ。それは当時天才少年だった、進の旦那を見ればわかる」
佐倉は思わずそれを口に出してしまった。それは、進が狙われるには十分な理由だ。今は記憶を失った影響でそれは見られないが、少なくとも少年時代、矢崎進は社長の座を脅かすほどの天才であったことを佐倉は知っている。
「そうそう、佐倉はずいぶん近い答えを出してくれたね。進くんが狙われる理由、それは────」
────静寂の中、明はその事実を口にする。知るのはこの現場の三人、そして過去に約束を交わした大人たち、そして冬馬。二人は理解する、矢崎進が何者であるかを。そして恐れる、彼が記憶を思い出したとき、彼が命を狙われる存在になることを。
「あぁ、そうそう。二人にも言っておこう。知っている人間が多いほど動きやすい」
だが、それでは終わらないと言わんばかりに、明はもう一言、新たな事実を話した。それはここにいる三人と、冬馬しか知らないこと。
「────っ!? お嬢、そんな……」
それは衝撃だった。突き付けられる、信じがたい、信じたくない事実だ。佐倉は思わず頭を抱え、優斗は唇を震わせた。佐倉はまだ声を出せただけマシだった。優斗には、1分ほど声を出そうにも出せないほどの衝撃だったのだ。
「どうして、そんなに簡単に……喋れるんですか、お嬢!」
「んー? だってもう避けようもないことだからね。だからこそ、僕は進くんにもう一度会いたかったんだ」
その顔は、運命に立ち向かう顔だった。どれだけ逆らおうとも逆らえない運命を前に、明はそれでも平然とした顔をしている。その平然さが怖かった。そしてそれでもなお立ち上がり、戦い続ける彼女は、尊敬に値する。
────無理な話だったのだ。彼女が背負うべき現実じゃない。運命を大きく捻じ曲げたのは、きっと────
「こうなったのも全部、父さんのせいだしね。父さんが僕を社長にしたかったから。ただ一人の、愛というわがままの前に、この会社は沈むんだ」
平然と笑顔で言う明は、もはや狂気としか思えない。そんな明を見て、ようやく優斗は口を開けた。
「じゃ……じゃあ……しゃちょー……俺のやってきたことは」
明はそんな彼を見かねてか、耳元で優しくささやいた。
「あぁ、そうだ。間違いじゃなかったんだよ」
受け入れたくない現実は、歪んでいた人生さえも正してしまう、強力なもの。それを前に、優斗はまた一滴、涙を流すのだ。
────俺は、間違ってなかったと。
間違いさえ正すほどの真実ってなんぞ……?




