反逆と運命
今回は佐倉と明の回。そろそろ、明と冬馬、冬馬と佐倉の回も書きたいですね。
……あれから数日経った。佐倉は明より「進くんと真希ちゃんが退院した」と聞いて驚いた。矢崎真紀はまだケガがないから当たり前だが、進が退院はおかしい。早すぎる……いや、意地でも治したのか!?
「矢崎の旦那が退院は、早すぎやしねぇかい?」
ここは、影山グループ本社の地下。暗く恐ろしいほど静かな通路を、佐倉は明とともに歩いていた。冬馬と望は、しばらく外出を控えるようにしている。最上階の部屋で、二人だけの穏やかな生活をしているだろう。
その間、動き続けることになったのは、この佐倉と明だ。正確には、明が指示し、佐倉が動く状況である。佐倉は予想などしていなかった。まさか影山グループの社長と、こうして歩くことができるようになるとは……
「うーん、進くんの退院は早かったね。超人かな、彼は」
そんな佐倉の心情など知ってか知らずか、明はのんきに答える。だが、それには佐倉も同意であった。傷が思ってたより浅かったか、彼の回復力が早いかのどちらかだ。
「しかし、佐倉。こんな風に二人で歩けるなんて、思わなかったね」
「……見透かされてますかい」
「もちろんだよ。僕だってこうなるとは思わなかった。明るい道を歩く人間と、影で動く人間が、一緒に歩けるはずないもんね」
影山家とオーア。その関係性を佐倉は知っている。影山家が光なら、オーアは影である。この二つはお互いに協力し合い、共鳴することで発展してきた。オーアの財力は影山家によるもので、影山家の権力はオーアによるものだ。
その関係はもはや血縁にさえ影響しており、佐倉の父の姉は、影山家に嫁いでいる。それによって生まれたのが、影山高信。影山高信と元木雄飛は、いわゆる従兄弟に当たり、より一層その関係性は深くなっていった。
「そうでしょ、従兄弟のおじさんだから……なんて言ったらいいかな。まぁいいや、咲夜おじさん!」
「皮肉ですかい、痛いですねぇ」
「そんなことないよ、皮肉なら守ってないとも」
「そーでしたね」
佐倉は半ば棒読みで答える。事実、明が佐倉を守っている。こればっかりは嘘ではない。なんせ理由を聞けば……
「父への反逆……なんかあったんですかい」
「問題はありまくりだよ。僕は父さんを恨んでいるとも。だから僕は、大金をはたいて、オーアの半分……それ以上の勢力を従わせた。いつか来る、父さんとオーアとの戦いに備えてね」
その恨む理由を、何かは言わなかった。しかし時折見せる真剣な顔は本物だと、佐倉は実感する。最終目標、オーアを打ち倒すという点では、佐倉と明の意見は一致する。しかし、あくまで相乗りのようなもので、明が乗せてくれているようなものだ。
オーアを倒すまで……そこまでは協力をしてもらえるだろう。しかしその後がどうなるかはわからない。明が父親を打ち倒す、その先に待っているものは何なのか、それは明にしか見えていないはずだから。
「しかし、オーアはいつ反逆するかわかりませんよ。そんなやつらばっかりです」
「どうかな、佐倉や椿の件がある。今のトップに不満を抱く団員は多いよ。元団員も引き連れて、向こうの半分を削ることに成功したんだ」
そこまで言うと、明は佐倉の前に立ち、無邪気に笑う。
「ありがとう佐倉。君という反逆者がいなければ、オーアの中に反逆の渦は巻かなかっただろう。27年前、君が犯したルールは、こうして今、僕の味方となっている。大勢の反逆者としてね」
そうして明は、冷たい手で佐倉の手を握った。優しい手だ、何物にも染まってない、青白い手。
「君はルールを犯して、たった一人の女性を守ることを決めた。そこから守るものは増えただろう。失ったものも多いだろう。それでも、その女性だけは守っている。君は優秀な騎士だ」
「────それなら俺は、どうして誠一郎さんを救えなかったんですかい。優秀なら、どうして……」
「優秀であっても、すべてをこなせる優秀な人間はいない。君は────冬馬陽菜を守ることにおいて特化した騎士だ。それ以外が手から滑り落ちても仕方ない」
そんな手を、明は小さな手で包み込む。片手だというのに、明の両手では包み込めない。
「ほらね、僕だって、佐倉の手を両手を使ったって包めないよ。君はそれ以上に、自分自身を誇りに思ったほうがいい。君の行動が、自分自身の味方になったのだから」
「……お嬢がいなければ、その味方を引き込むことはできなかったんですがね」
「ほら、僕は影山家の跡取りだし、オーア同士の架け橋だってしなくちゃね」
そして、明は笑う。それを見ても、佐倉は笑えない。
────無理をした笑顔だ。体か心か、わからないがどこかで無理をしている。こんな小さな体に、すべてを押し付ける大人は、やはりおかしい。本当に彼女が背負うべきだったのか、佐倉はどこか罪悪感に駆られる。
「申し訳なく思わなくていいよ、佐倉。これは僕が「選ばされた」道だ。死ぬまで全うするとも。それよりもだ」
明と佐倉は、とある部屋の前につく。前には二人の警備員がいて、中を厳重に守っているようだった。明は社員証を見せると、顔パスでその警備員の前を通り過ぎていく。佐倉は若干ためらいながらも、その前を軽くお辞儀しながら通った。
「僕が通れたなら、佐倉だって通れるのに」
「いや、俺……社員証持ってないですよ」
すると、部屋に入る前に、明はポシェットに入っていたものを、佐倉に手渡す。それを見て佐倉は驚いた。
「社員証……」
────3年前、望にひっそり近づいた佐倉だが、明にはバレバレだった。なんでも明は、あの部屋に自分で盗聴器を仕掛けているらしい。
明が言うには「その日は父さんの仕掛けた盗聴器を全部取ってたからよかったものの、父さんの盗聴器でバレてたらどうするつもりだったんだい?」とのことだ。
あの部屋は、今でも時折、影山高信の仕掛ける盗聴器がある。その盗聴器を外すために盗聴器を仕掛けているそうだ。ここからでも、親子の不仲は見て取れる。
「いいかい、佐倉。君の存在を、僕は父さんに黙っておくよ。その代わりだ、君の知るすべてを僕に教えてほしい」
3年前の夜、そうやって交換条件を持ち出してきた明を、佐倉は忘れることがなかった。そこから二人は情報を交換するようになった。望の気持ちを明が理解しているのも、そのためである。そして、オーアの内部事情を知ったのも、佐倉との関わりあってこそだ。
そして二人は、とある約束を結ぶ。つい最近、進が影山家に関わるようになってからである。
「佐倉、僕に協力してほしい。進くんの記憶を甦らせたいんだ」
「そのために俺に協力しろと?」
「もちろん、影でね」
この3年間、明と佐倉は協力してきたが、あくまで光の影の関係である。佐倉は影山家の中で守られ、明はさらに見透かす能力を手に入れた。その関係があるからこそ、佐倉は社員として認められることはない。あくまで影の、暗躍者である。
社員証に驚いた佐倉を見て、明はしめしめと笑っている。
「いやぁね、この戦いが終われば、光も影も関係ないだろうなって思ってるの。だからその時は、望と冬馬を守る社員になってほしいなって思ってね!」
「明……お嬢……」
佐倉は思わず笑みを浮かべた。それはきっと、何かに安心する笑み。
「なんか、報われたなぁ」
「まだまだ、戦いは続くけどね。そうでしょ、佐倉」
あぁ、そう言って佐倉は返事をすると、明とともにとある部屋に入っていく。覚悟はできている。ここから先は、いつもの暗躍する佐倉だ。
「やぁやぁ、調子はどうだ────死神」
いつもの調子で、大きな影は問いかける────椅子に縛り付けられた、死神、優斗に向かって。
ここまで来ると4章は佐倉中心の話になって、5章で決着がつくかな。予定より長くなりそうです。




