表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、5億を渡された。  作者: ザクロ
第三章~金持ちたちの代理戦争~
50/57

家族と絆

進くんの過去がそろそろ来ます。その下ごしらえです。

「ゆ……うと……?」


────頭が真っ白になる。何も考えられない。目の前の事実が入ってこない。


 記憶は混濁していく。様々な記憶が混ざっていく。記憶は漂白されていく。真っ白に、何もなかったかのように────


────そうだ、それが僕の身を守る術……


「旦那! しっかりしろ!」


 漂白されかけた記憶が色を取り戻す、混ざりかけた記憶がまとまっていく。幼いころに見た誰かの影と重なって、目の前に立っていたのは佐倉さんだった。


「進、帰ってこい!」


 佐倉さんはしゃがんで、俺を激しくゆする。何か呆れたようにため息をつくと、はっきりと告げた。


「優斗は死んでない、ただの麻酔銃だ!」

「えっ……?」

「見ろ、こいつ血を流してるか?」


 落ち着いて現状を見る。優斗は眠るように横たわり、胸には穴が開いている。しかしそれは貫通したようには見えず、ましてや出ている血は致死量と言うには少ない。

────本当に、麻酔銃なのか?


「やっぱりなぁ、こいつ。撃たれる対策はしてねぇわ。だろうと思ったんだけど」

「……佐倉さん? わけがわからないです」


 佐倉さんは俺を見ると、悪い悪い、と簡単に謝りながら、俺を落ち着かせるように説明を始めた。


「すまねぇな。こいつを殺させるわけにはいかなかった。だから狙撃させてもらったってわけ。このままいけば、優斗は死んでいた。それは、大切な情報源をなくすことになる。こいつにはいろいろ吐いてもらわなきゃいけないんでね」

「佐倉さんは、オーア……の一員だったわけですよね。知らないこととかあるんですか?」

「今の内部事情は、俺も椿も知らねぇよ。そもそも、いろいろ繋がらないところがある」

「いろいろ……繋がらない?」

「あぁ、例えば……一般人の旦那を殺すことは朝飯前だ。だがそれを、17年間も実行しなかったのはなぜか」

「影山家の脅威になったら殺せ……ですかね」


 先ほどの優斗のセリフを思い出す。あれは俺の中でも引っかかっていた。


「矢崎進、俺はお前を殺すんだ。出会う前から、そう決めていた! お前は影山家の脅威だ。社長としてお前が動き出した今……記憶を取り戻そうとしている今、俺はお前を今度こそ殺さなきゃいけない!」


 すると佐倉は一言口にする。


「だったら、旦那は17年前が一番脅威だったんですがね」

「……え?」


────17年前が、一番脅威。それは俺が記憶を無くした時と一致した。だが俺に今まで、影山家なんて存在は頭になかったわけだし、そうなったのはつい最近のことだ。

 だからこそ、俺は命を狙われる理由がわからないし、何が脅威なのかもわからない。


「まぁ、旦那はいずれ思い出すから、そこはいいや。ここまでくれば、旦那が思い出すのは時間の問題。すべての真実に気づいて、それでも前に進めるか。いずれ問われるだろうよ」


 それよりも……と言って、佐倉さんは周りを見た。そして、近くにいた真希の縄をナイフで切る。


「救急車は呼んでおいた。今は妹のそばにいてやるんだ。優斗に関しては俺が何とかする。俺が片付ける問題だ」


 まだ事態に頭がついていかない。ナイフで傷ついた体は痛むし、現実は何も片付いていない。優斗だって心配だし、俺のことだって何もわからない。でも俺は、もっと大事なものがある。

────なぜか心が叫んでいる。二度と家族を手放すなと。それは父さんのことなのか、もっと別のことなのかわからない。それでも、その気持ちだけは本当だ。


「真希……しっかりしろ、真希!」


 意識のない真希を抱きかかえ、必死に呼びかける。脈はある、息もある。ないのは意識だけだ。今はその腕の中の家族が、生きていることを実感する。


「死んでいなくて、よかった……」


 俺はそっと、その体を抱き寄せる。すると、耳元で微かに声がした。


「お兄……ちゃん……?」

「真希、大丈夫だ。救急車は呼んである、俺だってそばにいる」


 まだ戻ったばかりの意識で、真希の手は俺の腕に伸びていく。俺はその手をしっかりと握り、離さなかった。


「いくらだって俺を恨めばいい。いくらだって俺を憎めばいい。俺が真希にしてあげられたことなんて何もないんだ」


 それでも、その先に未来があるのなら────


「それでも……それでも俺は、真希のそばにいたい」


 記憶の奥底で、何かが蠢いている。俺はきっと、もっと大事な家族を失っている。誰かはわからない、でもその家族を失った痛みを、俺は思い出した。それは知り合いの死よりも、ともに幸せになりたい人の苦しみよりも、はるかに重い物。

────家族を失う痛みに変えられるものはない。少なくとも、俺の中では。


「なら……一人にしないで、お兄ちゃん。私が一番、悪かったんだから……」


 真希の目には涙が浮かんでいた。弱弱しい涙、それでもそれに嘘はなかった。真希は自分が悪いと心から思っている。そんなこと思わなくっていいのに。俺が狂っているのが悪いんだ。そんな現況を作ったのは、真希じゃない。きっとそれは俺の過去なんだ。


「真希は悪くない、悪いのは俺だ。だからもう俺は、真希を一人にしない。家族としてそばにいる」


 そしてもう一度、俺は真希を抱き寄せた。そして、耳元で微かな声を聞く。


「お互い様だね、大好きなお兄ちゃん」


────それは、16年かけて、ようやく心からわかりあえた瞬間だった。もう二人の間に嘘はいらない、俺は昔のように、真希のそばにいよう。それは使用人でもなく、罪人でもなく、兄として。きっとこれからは、兄として真希のそばにいられるだろう。


 その花のような優しい微笑みを、俺はこれから、一生忘れることはないだろう。俺も最大限の笑顔で答えるんだ。


「────大好きだよ、真希」


 今日は日差しが温かい。その絆を祝福するように、温かい日差しが降り注ぐ。きっと俺たちの春は、近いだろう────



……それから数日後、事は何とか落ち着いた。真希も無事に退院することができ、俺と真希は一緒に母さんのお見舞いに行った。

 今回の騒動は、大体母さんに伝えてある。真希が誘拐されて、少しだけ入院することになった。幸い大きなけがはない……って感じに。


「あら……二人で来たのね。真希、退院おめでとう。オーアからの襲撃で無事で済んで、本当によかったわ」


 病室のドアを開けると、母さんはベッドから起き上がっていた。まるで俺たちを待っていたかのように。そして俺は、オーアに襲われたなんて一言も言っていないのに、母さんはそれを知っていた。不思議だと思った。それでも今は、もっと前を見る。

 そして顔は真剣そのもの。何かを伝える気なんだと一瞬でわかった。だからこそ、俺は先に言う。


「母さん、前に言ったよね。私が過去を隠さなければ、あなたの心はきっと歪まなかったって。それは母さんの過去なの? それとも、俺の過去?」

「……どちらもよ。まずは真希、私は謝らなければいけない。私は真希に、進の行動がお父さんの死に繋がったって言ったわね?」


 真希はうなづく。俺もその通りだと思った。俺が星が見たいといったあの日、父さんと俺と幼かった真希は、一緒に車に乗って、山を目指していた。つまりは俺の言動が、父さんを殺した。だからこそ真希は俺を恨む。当然だと思った。


「あれはね、私の嘘なの」

「え────」

「お父さんは事故死じゃない。落石は本当よ、でもそれは「人為的な落石」だったの」


 言葉の出ない俺に、母さんは俺の言いたかったことを突き付ける。


「お父さんは殺されたの。オーアにね……」

「なんで……なんで私に嘘ついたの、お母さん!」


 俺に代わって声を出したのは真希だった。張り詰める空気を、母さんはもろともせず話を進めていく。


「お父さんが殺されたと、私たちは気づいちゃいけなかったの。気づけば、オーアに私たちは殺される」

「どうして? お父さんのことを知っちゃいけないの? お父さんは何をしたの!?」


 問い詰める真希に、母さんは真実を口にする。それは、俺にだって、今起こるすべての問題にだって、無関係でないことはわかった。


「────矢崎誠一郎は、影山家、華山家、オーアを繋ぐ架け橋だった。影山家、華山家、そして矢崎家を大切にした彼は……すべての問題を一度沈下させるために、自ら死を選んだの」


 そして、そう言って、母さんは俺を見た。


「進、あなたが過去を受け入れるかどうかで、この先の多くの人の命が左右される。椿から聞いたわ、あなた「森下幼稚園の園章」をもらったそうね」


 そう言われて、俺は胸ポケットにいれられていた、写真と校章を出す。これは、森下幼稚園の園章だったのか。


「それは、私がように預けたものだったんだけど、返されちゃった。だからこそそれを持って、影山明に会いなさい。会って、その園章の意味を確かめなさい」


 俺はそれをぎゅっと握りしめる。周りは過去を言えなくても、俺に思い出させようとする。それは俺の意思とは関わらず、強制的だ。しかし、無理やりにでも俺は思い出さなきゃいけない。それが俺にできることなんだ。いや、やらなければいけないことだ。


「お母さん、お兄ちゃんの過去をほかの人が知るとどうなるの?」

「真希だったとしたら……やっぱり殺されるわね。これは口封じとして、私たちが結んだ約束だから」

「お兄ちゃんは……過去に何かしたの? 悪いこと?」


 母さんは目線を下に落とすと、聞こえないほど小さな声でつぶやいた。


「何もないわ────以外」


 そこが聞こえなくても、俺は過去に、誰かを苦しめたことがあるようだ。未来のためにも過去を見よう。俺が失ったものは何か、俺が手放したものは何か。俺自身が問われる戦いが、始まろうとしていた。

幼稚園まで遡るのか……普通の人なら忘れてるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ