親友としての最後の言葉3
「親友としての最後の言葉」は4本立ての予定です。また4000文字と長いです。
────そのころ、俺は海浜公園についていた。しかし、オーアがいそうだと聞いて来てみたものの、周りは穏やかな公園だ。冬であれ、花は咲き誇り、太陽は暖かい。こんな穏やかな場所に、殺し屋がいるとは到底思えなかった。
それでも、咲夜さんの言った場所だ。一応注意しながら、周りを見てみよう。そう思って、俺はバイクを降り、芝生のある場所へと向かった。
「懐かしいなぁ! 高校時代、ここに来たような……」
いいや、本当はもっと昔に来ていたのかもしれない。それでも俺の中にある最新の記憶は、高校時代、ここで優斗とキャッチボールをしたときだった。
あの時、学校帰り、バイトがなかった日。優斗は俺を遊びに誘った。と言っても、俺はそもそも遊んだことが少ないので、こういった時どこに行けばいいのかわからなかった。
「ならさ、そこのスポーツセンターで、ボールとミット買おうぜ。あ、気にすんな、おもちゃな」
「え、キャッチボールでもするの? 優斗と俺が?」
「それ以外何があんのさ。男は黙ってキャッチボール! すすむん、お代は俺が出すからYO!」
そう言って、学校の近くのスポーツセンターで、なかなか安っぽいボールとミットを優斗が買ってくれたのを覚えている。それを持って、俺のスクーターの後ろに優斗を乗せて、この海浜公園まで来たんだ。
「やー! いいねぇ、海風ってやつ?」
「バイクが痛むなぁ……まぁいいか、やろうぜ優斗!」
海風の吹く、この海浜公園で、俺たちはキャッチボールを始めた。最初は肩慣らしに簡単なボールを投げていたが、次第にそのボールは球威を増し、気づけばその球速は、高校球児並みになっていたことだろう。それを平然と取る俺たちは、今思えばどうかしてた。
「はえー! すすむん剛速球じゃん! 野球部入ればエースだぜ?」
「そういう優斗もな! こんな才能たぶらかすのは勿体ねぇよ」
気づけば、ボールを取るたびにしゃがんで、剛速球を受ける……野球部さながらの練習のようになっていたのは間違いない。しかし、それは楽しかった。何かに打ち込んでいるような感じがして、部活が楽しいって言っている人の気持ちが、なんだかわかる気がした。
「なぁ、すすむん。一つ聞いていいか」
「あぁ、何だよ」
俺は優斗からの剛速球をしっかりと取りながら聞く。俺がボールを投げようとすると、優斗はしゃがもうとしなかった。ボールは投げずに、優斗の言葉を聞く。
「俺たちって、親友だよな」
「そうだな、優斗が言ったんだろ」
そういえばそうか。そういって、優斗はゲラゲラと笑い始めた。俺は訳が分からず、ただ苦笑いしかできない。
「おいおい、どうしたんだよ優斗」
「いいや、お前は昔から、俺に優しいよなって思ってさ」
「そりゃそうだろ。お前が俺と友達になってくれたんじゃないか。俺だって、優斗にできることがあるなら、何かやるのは当たり前だろ?」
その次の言葉が、俺はなぜか頭に残っている。会話の流れからして、少し不自然だったからだろうか。
「あぁ、だから俺は俺でいられるんだよ。ありがとな」
優斗の笑顔は、なんだか照れているようだった。いつもチャラくて、余裕の笑みを見せる優斗が、この時ばかりは、どうもいつもと違う顔をしていた。
「そうそう、お礼に一つ教えてやる。あそこの、コンテナ見えるだろ?」
「あー……なんか古そうなコンテナ、いっぱいあるなぁ」
何故それを急に言い出したかはわからない。だが、俺はそれでも優斗の話を聞いた。それは、少し遠く、海にもっと近いコンテナ置き場。遠目に古そうなのはわかる。なんだか、不良のたまり場になりそうな場所だ。
「あのコンテナの上、乗れるんだよ」
「えっ!? マジで?」
そこから俺は、優斗に連れられて、そのコンテナ置き場へと向かっていった。その道筋を、俺は今でも覚えている。
……今、俺の目の前には、過去の優斗が見えている。それが幻なのはわかっている。だが俺は、その過去の優斗についていくことにした。俺は優斗に呼ばれている気がする。そうじゃなきゃ、今の俺にこんな幻は見えない。
「助けなきゃ、優斗を」
待っててくれ、俺は必ず────どんなお前でも助けるから。
その頃、望は車内から佐倉の戦いを見ていた。佐倉はたった一人で、100人ほどを相手にする。劣勢に立つことはなく。縦横無尽に駆け回り、常に優勢であり続ける佐倉は、強かった。
しかし、最初100人ほどと思われていた人数は、どんどん増えていく。コンテナの中に隠れていたようで、その数は到底数え切れるものではなかった。
何もできないかもしれない、自分は力不足かもしれない。それでも佐倉を見ればわかる。佐倉は、自分を守るために戦っているのだと。
「ここで車内から出るのは馬鹿だろうな。だが……」
車内で見つけた二つの物。それは車からの緊急脱出用ハンマーと、予備の銃だった。
「ここで戦わないのは、もっと馬鹿だ」
望の立てた作戦は、緊急脱出用ハンマーで窓ガラスを割り、その隙間からこの銃を構え、援護射撃をするというものだった。もちろん、窓ガラスが開くということは、どこかから狙撃される可能性があるだろう。それでも、見ているだけなんてできなかった。
「……やるんだ。佐倉のために!」
望は勇気を振り絞り、ハンマーで窓ガラスをたたき割った。そしてすぐさまその隙間から、銃を構える。もちろん、銃を持ったことなんてない。それでも何故か、いける気がしたのだ。頭で知らなくても、体が覚えている、と。
……長距離の銃を構える。集中し、敵を睨みつけた。
「……行け」
────放たれた3発の弾丸は、次々と団員の首元に命中していく。これはいける、そう確信したその時だった。
チェーンソーによって、反対側のドアが無理やりこじ開けられる。銃を構え、遠くを見ていた望にとっては、隙を突かれた出来事だった。
「よぉ、望。まだなんもしねぇからよ、出てこい」
入れ墨だらけの顔、左耳の3つのピアスが印象的な、明らかにガラの悪い男がそこに立って行った。望は銃を構えながら車を降りる。どっちにせよ、車の中にいたって殺されるだろうと思ったからだ。なぜなら、腰にはまるでアクセサリーのように、拳銃がぶら下がっていたのだから。
「おいおい、そんな銃を構えて、警戒しちゃってさぁ……」
「お前が親玉なのは、見ればわかる」
「あ、結構鋭いなぁ。流石は────」
次の言葉に、望は言葉を失う。
「流石は、俺の息子だよ。望、17年ぶりだなぁ……」
「あっ……あぁ……」
「嘘だとでも言いたいか? じゃあ耳を触ってみな。薄っぺらい耳たぶ、俺と一緒だろ?」
触らなくてもわかっていた。ピアスの開いていない右耳の形は、鏡でいつも見る自分の耳の形によく似ている。福耳の姉さんとは大違いなことは、十分知っていた。
その耳の形が……まさか血縁を証明するとは思わなかった。だが、まだ耳の形しか似ていない。自分がまだ、目の前にいる男の子供と決まったわけじゃない。
「まぁ、証明するもんはねぇよ。だが、お前は俺の息子だ。お前の両親を知っているか? お前がなぜ影山家にいるか知っているか? 俺は知っている、すべては影山高信から聞いた」
「お義父さんから……?」
「あぁ、高信はある人物から、この子供は将来、影山家を守る存在になると言われたそうだ。その頃から、ぼんやりと……ではあるが、お前が俺の血を引くって思ってたんだよ」
だが、と言って男はチェーンソーの電源を切り、話を続けた。
「だが……確信がなかったんだ。だから17年間ほど、泳がせたんだよ。そうしたら……」
男はぐふふと汚い笑いをこらえる。だが、こらえきれなくなったのか、チェーンソーを投げ捨て、体すべてを使って笑い始めた。
「へへへへっ……あはははははっ……!! 咲夜は俺に捨てられたお前を守りたかったんだろうなぁ……3年前にお前に近づいたんだ。その時確信したよ、お前は俺の子だって!」
────それは皮肉なことだった。オーアのメンバーであった佐倉がそばにいたことが、彼らにとって、一番の証明だったことを。
「そして、現に咲夜はここにお前を連れてきた。まんまとハマりやがったぜ! あぁ、会いたかったよ……第四の後継者、我が息子……望!」
「嘘だ……嘘だ嘘だ、嘘だぁ!」
望は一心不乱に、銃を撃つ。しかし、どれだけ打っても、その弾が貫通しているようには思えなかった。思い出す、咲夜の言葉を。あれは進に向けて言っていたが、望だって確かに聞いていた。
「オーアの下っ端どもは、だいたい防弾チョッキを着ていない。殴れば殺れるやつらばっかりだ」
つまり、今目の前にいる男は、下っ端ではない。防弾チョッキを着ているんだ……!
「なるほど……心は乱れているが、銃を撃つ才能があるな。銃を持ったこと、ないだろ? どうして銃が打てるんだと思う?」
「そっ……それは……!」
男は拳銃を構えた。やはり、その拳銃はアクセサリーじゃない。ちゃんと動く、本物だ!
「お前が俺の息子────殺し屋の血を引くからだよぉ!」
────終わりだ。望は目を静かに閉じ、運命に身をゆだねた────
「────させるか!」
頭に響いたのは、女性の声。目を開けると、目の前には見慣れた女性が立っていた。
「冬馬……?」
「望様、お逃げください。ここは私が!」
どうやら、男が持っていた拳銃を蹴って弾き飛ばしたようで、男は痛そうに手を抑えていた。
「……ってぇなぁ……影山家はこんな強い女を持ってんのか。聞いてねぇぜ」
「でしょうね。私はただの執事ですから」
「だが、今の蹴り……体を後ろ向きにし、回し蹴りの要領で足を高く振り上げて蹴る。その精度、高さ、申し分ない……この蹴り方は、オーアのやり方だ」
望は思わず動揺する。それでも冬馬は、警戒を続け、戦闘態勢を崩さない。
「その様子じゃ、実戦は初めてだろうな。しかし、かなりの練習を積んでいると見た……なるほどねぇ、椿や咲夜は、こんな人材まで育てたのか」
「っ────!」
僅かに動揺した冬馬を見て、男はニヤリと笑う。投げ捨てたチェーンソーと、飛んで行った拳銃を拾い上げると、最後に一言叫んだ。
「後継者、そしてオーアの「花嫁」 いつか必ず迎えに行くとも。また近いうちに会うさ……それまで────簡単に死ぬんじゃねぇぞ」
そう言って、最大の敵はあっさりと去っていった。命を狙わない男に、二人は思わず呆然とする。その顔が満足げだったことを知るのは、冬馬と望のみ────
オーアの「花嫁」……? ついに明かされてしまいましたなぁ、望くんが何者かが!




