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ある日、5億を渡された。  作者: ザクロ
第三章~金持ちたちの代理戦争~
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親友としての最後の言葉2

今回4500文字なんですけど、わけようにわけれなかったんで、許してください……いよいよ、戦いの時!

 その頃、望と佐倉はある場所に向かっていた。そうは言っても、望はどこに向かっているのか知らない。知るのは、ただ前を見つめ続ける佐倉だけだ。


「佐倉、いったいどこに向かっている」

「……さぁねぇ。だが、一つ言えることは、そこに何があっても、坊ちゃんは車から出ちゃいけませんぜ」


 車から見える風景は、次第に海沿いへ向かっている。遠くには、コンテナがたくさん置いてある場所が見える。


「あのコンテナ置き場……確か今はもう使われていないと聞くが」

「えぇ、そういうところにオーアはいるんですよ。旦那には言ってませんがね。仮に旦那が目指したとしても、このそばの海浜公園でしょうよ」


 その言葉が意味すること。それはつまり、このコンテナの場所は、他の誰にも告げていないということだ。そこへ向かうのは、佐倉と望。望は、佐倉が何かをしたいことはわかった。だが、それ以上は分からない。もしも、オーアのメンバーがここにいるなら……


「佐倉、もしかして、一人で戦うつもりか?」

「さすが坊ちゃん、察しがいい。その椅子の下、覗いてみてくだせぇ」


……椅子の下。この車の収納スペースだ。望はその蓋を開け、中を覗く。暗い中で、黒光りするそれは……


「……なんだこの銃……! いくつある!?」

「まぁ、背中に2つ背負って、腕に2つだから……4つ、予備でもう一つありますかね」

「銃刀法違反だろう? どうしてこんな……」

「ご安心ください坊ちゃん。その銃では人は殺せない。そいつは物騒な麻酔銃なんですから」


 麻酔銃……それにしては、いくつも種類があって、使い分けができそうだと、望は思った。長いものから短いものまで、おそらく距離に合わせている。


「坊ちゃん、3年前の夜。初めて会ったのを覚えてますかい?」

「あぁ……覚えているとも。あの日、僕は救われた。そう思っている」

「坊ちゃん、一つ言わせてください。あの日、坊ちゃんに会ったとき、俺はこの関係は誰にも言わない、秘密と言いましたよね」

「そうだったな。つい最近まで、お前の存在は守られていた」


 佐倉は一つ間を置くと、たった一言告げる。


「すべて、明お嬢のおかげなんですよ。俺がこうして生きているのは」



────それは3年前の夜のこと。あの日を忘れたことはない。社長になり、姉との距離が遠くなったと感じたあの頃。その孤独を埋めるように、望の前に、佐倉はやってきた。


「影山望……まぁ、坊ちゃんですねぇ」

「なんだ、お前……突然やってきて」


 もちろん、いつの間に部屋にいたかもわからない、見知らぬ男だ。警戒心を抱かないわけがない。だが、対する男は、そんな気は知らないといった様子で、話を続ける。


「一つ、取引をしましょう。俺を坊ちゃんのボディガードにしてください。それも、影山家に極秘で」

「……何?」

「その代わり、ですが。俺が明のお嬢よりも、そばにいてやりますよ」

「僕に一つもメリットがないぞ……」


 すると、男はわかってないなぁ、と言いながらため息をついた。


「やれやれ全く。坊ちゃん、あんたに足りないものは何だと思う?」

「それは……姉さんにはない才能か?」

「そりゃ無理難題。才能は人によって差がある。それを努力で埋めることは難しいんでっせ? だからこそ、坊ちゃんには明のお嬢に近づくために、必要なものがあるんですよ」

「……なんだ、それは」

 

 警戒心を抱いた望は、男の言うことなど信じていなかった。だが男の暗闇で光る真っすぐな目は、嘘をつかないということを、即座に理解した。


「坊ちゃんには、人との関係が足りねぇ。人と共にいることで養われるはずのものが、育たねぇ。坊ちゃんには、人の心がねぇんですよ」


────それは嘘ではない、真実だ。望はそれを痛いほどわかっていた。だからこそ、初対面でそれを突いた彼を、たった一言で信じてしまったのだ。今思えばそれは、進を見たときと同じ感情だったと言える。

 彼と一緒にいれば、自分は成長できるかもしれない。姉さんを超えられるかもしれない。邪魔者を排除できるかもしれない。淡い期待を抱いた。だが、目の前にいるのは、正体不明の悪魔だ。それも同時に認識しなければいけなかった。


「一つ聞かせろ。お前といれば、僕はどうなれる」


 男はニヤリと笑う。その白い歯が、闇夜に照らされた。


「きっと、今より上の場所へ」


 それがとても怪しいことはわかっていた。だが、それでもそれに手を伸ばした。なんでもいい、今は自分を支える柱が欲しかったんだ。

────例え危ない橋を渡ることになろうとも、彼のことを何も知らなくても、少しでも足が前に進むなら────


「……わかった、お前を極秘にボディーガードとしておこう」

「何なら、秘書でもいいんでっせ? 秘書兼ボディーガード、最強でしょ?」


……ここに、悪魔の契約は完了した。望はその存在が、嘘をつかないと確信していた。どれだけ怪しくとも、そこに闇があるようには、微塵も見えないのだ。

ぼんやりと光る、その存在はきっと三日月。かすかだが光り、道を照らす。闇夜に現れた悪魔は、確かな 実績をこの3年間で残した。もちろん影山家に存在が知られることもなく、どんな危険からも身を守り続けた。

 印象深いのは、交通事故だ。不注意で道路に飛び出してしまった望を、彼は身を挺して助けた。その時の彼の言葉を、望はずっと忘れない。


「全く、坊ちゃんは昔からぼんやりしてますね。でも、死ぬなんて許さないですよ」


 まるで昔から見守ってくれていたかのような言葉だ。その温かさは、その存在を知らない親のようだった。彼が親だったなら、どれだけよかっただろう。

────望はこの3年間、男が何者であったかを完全に知ることはできなかった。それでも、絶対に彼は自分を裏切らないと信じていた。彼から感じる優しさを、充分に理解していたからだ。


 今に時を戻す。佐倉は運転しながら振り返ることもなく、話を続けた。


「旦那の前で、坊ちゃんが義理の弟だって教えたとき、あったでしょう」

「あぁ、覚えている。何か知ってそうだったな、姉さんも、佐倉も」


 その時の、姉さんと桜の会話を、望は思い出す。


「影山家にとって、矢崎家がどう大事だったのか、それを知るのはやっぱりお嬢でしょ?」

「いやいや、佐倉こそ。望のボディーガードを3年やってるんなら、その過去を調べるなんて簡単でしょ?」

「まぁいいや、お嬢もやりますねぇ」

「佐倉ほどじゃないよ、本当に3年も黙ってるなんてね」


 それを思い出したうえで、望は佐倉に聞いた。


「あれは二人が全部知っているからこそ、成り立った会話だろう。お互いに聞きだし合うような素振りを見せて、本当は……」

「気づいてほしかったんっすよ、坊ちゃんにも「旦那にも」ね。二人がどんな存在かってね。でも、あんなのじゃ気づかない。旦那の記憶は、相当複雑に閉ざされていたなぁ。まぁ、坊ちゃんはそもそも3歳だったんだから、仕方ないとして……」


 佐倉は車を止める。周りは古びたコンテナで囲われていた。遠くには、この前の海浜公園が見える。


「坊ちゃん。もうおしゃべりしてる暇はないみたいっすね。まぁ、ここにいたら、嫌でもわかるかもしれねぇですわ。ただ、車から出るな……それだけ言っておきます」

「……待ってくれ、佐倉。まさか一人でオーアと戦うつもりか?」


 すると、佐倉は高く笑う。まるで突き放すかのように、不気味に笑い続けた。


「いいや、坊ちゃんをここに連れてきたのは、オーアたちのためです。悪かったですねぇ、オーアだった人間を信頼したのが間違いだったんですよ」

「……何? どういうことだ、答えろ、佐倉!」


 しかし佐倉は答えることなく、車を降りる。そして後ろの荷台から、武器を出し、そして装備した。荷台を占めると同時に車にはロックがかけられ、望は外に出ることができなくなった。


「出せ、佐倉! 裏切るのか、佐倉っ!」


……その悲痛な叫びは、佐倉には聞こえていた。


「一人にするな、佐倉……僕たちは、何のために3年間も一緒にいたんだ!」


 どれだけドアをたたいても、どれだけ叫んでも、望は佐倉の元へ行くことはできない。佐倉はただ、望をじっと見つめるばかりだ。


「佐倉、僕をどうするつもりだ。言え、言うんだ……」


 望の瞳からは、気づけば涙があふれる。3年前の今頃なら、きっと流すことのなかった涙だ。佐倉と一緒にいることで、望はほんの少しだけ、人間らしさを得ることができた。


「佐倉、行くんじゃない!」


 その言葉に、佐倉は静かに微笑む。それは、今まで見たこともない優しい笑顔だった。そして、ガラス越しに、望と手を合わせる。そして、佐倉の口元が微かに動いた。


「さよなら、坊ちゃん」


 そして佐倉は、両手に武器を持ち、前へ前へと進んでいく。気づけばその行く先には、仮面をつけた黒い人の集団があった。不気味にそろうその人の数────それは、望でもわかった。あれが殺し屋、オーアだと。


「やれやれ、坊ちゃんも泣き虫だ」


 銃に弾を詰めながら、佐倉はつぶやく。その動作は手慣れていた。その佐倉の前に、仮面をつけたフードの男が立つ。その手には鋭利なナイフを持っていた。しかし、それで動揺するような佐倉ではない。


「約束の品は持ってきたか、咲夜」

「あぁ、オーアの隠し子だろ? そこの車だ。隠し子を差し出せば矢崎真紀を手放す。矢崎進からも手を引く、そういったな」

「俺たちは嘘はつかない。お前もオーアに戻してやる」


 すると、佐倉は拳銃を仮面の男に向ける。


「────何の真似だ、咲夜」

「悪いがそれは……後継者であるお前の言い分であって、お前の親父……雄飛ゆうひの言い分じゃねぇよな。この状況を見てわかったよ」

「……何故だ?」


 佐倉は笑う。笑いながらも、銃口は決してブレない。


「わかってねぇなぁ。死神、あんたは殺したくないって気持ちが強すぎるんだよ。雄飛ならこんな回りくどいことはしない。お前が殺し屋として、甘ったれてる証拠だよ!」

「黙れクソジジイ! お前に何がわかる!」


 死神のナイフを振り上げたその手を、佐倉は軽く蹴り飛ばす。軽く蹴ろうとも、死神にその一撃は重く、ナイフは手から離れ、思わず吹き飛ばされる。


「聞こう、後継者たる死神。お前に命を懸けるものはあるか。何かを殺してでも、守りたいものはあるか」

「……そんなもの……!」

「そんなもの、そうか……お前にはないんだな。いいか、俺にはある。教えてやろう────信念のない者に、人の命は奪えない!」


 拳銃から放たれた弾。それは4つある銃の中で、唯一の────実弾だった。しかし、死神は何とかかわす。佐倉は舌打ちをして、装備していた麻酔銃を構えた。


「まぁ、ただで殺せたら20年も苦労しねぇや。だが……お前ら一人残らず眠らせてやる。ここに坊ちゃんを連れてきた理由は、お前らなんかに渡すためじゃねぇ────俺の最後を看取ってもらうためさ」

「死を覚悟して来たか、咲夜。お前は何のためにオーアを抜けた。1つ2つの理由じゃないな」


 死神は身構える。目の前にいるのは、かつて死神と呼ばれた存在。そう呼ばれた時間は短くとも、自分よりもはるかに上の実力を持った、オーア最強の存在だったもの。


「俺には守りたいものが3つある。訳ありで増えちまってな……約束と、愛と────望だ!」


 咲夜は3つの弾丸を放つ。それは外れることなく、3人の団員に直撃した。まるでそれを合図にするかのように、100対1の戦いは、ここに始まったのだ────

ただものじゃないんですよ、佐倉咲夜さん。

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