親友としての最後の言葉
事件は現場で起こってるんだー!いよいよ山場です!
「……遅いな」
「確かに……ちょいと今日は遅いですねぇ」
校門の前で、どうどうと待ち伏せする二人の男。望と佐倉である。ぶっちゃけ、目立ちまくっていて迷惑でしかないのだが、それでも二人は待ち続ける。
今日は学校の都合上、午前中授業。よって二人は、あまり暖かくない太陽の下で、寒い思いをしながら立っていた。
「坊ちゃん、今日は真希ちゃんとどちらへ?」
「どこでもいい……あいつが望むならな」
しかし、その望が待っている、矢崎真紀は現れない。いつもはもう校門の前に立っていておかしくないのに、今日は一向に現れる気配がない。感じたこともない不穏な空気を、望は感じ取っていた。落ち着きもなく周囲を見渡す。生徒の顔が、ぼやけてにじむ。
────そうか僕は、ここまで依存してしまったか。
「なんか、まずい予感しますねぇ……あぁ、ちょっと、そこの学生くん!」
佐倉はついに我慢ができなくなったのか、近くの生徒に聞き込みを始めた。3人くらい聞いたときだろうか、佐倉は驚きの答えを持って、望の元へ帰ってきた。
「坊ちゃん、一杯食わされました……」
「なんだ、佐倉。そんな焦った顔をして」
それは、佐倉がいつも見せないような顔だった。焦り、唇を噛みしめ、感情を押し殺すように車に乗った。望は置いていかれそうな気がして、すぐさま後を追いかける。
「いったいどうしたんだ、佐倉」
車に乗りながら、望は聞く。すると、望のシートベルト装着を待たないまま、佐倉はアクセルを踏み、ハンドルを切った。急ハンドルに、望の体は大きく揺り動かされる。焦り、それがバックミラー越しの佐倉が見せた顔だった。
「っ! 佐倉、答えろ!」
すると、佐倉はさっきよりかは落ち着いた様子で答えた。どうやら、声をかけられたことで、我に返ったらしい。
「生徒が言うには、真希ちゃん、今日は学校に来てないんですよ」
「それが、何だ。体調が悪ければ休むだろう」
「いいえ、それが……無断欠席なんですよ」
そのセリフに、望も不信感を抱く。もしかして、何かあったのではないだろうか、と。
「予定では今日じゃないはずだったんですがね。あいつら、早めやがったな……」
「……佐倉?」
「あぁ、坊ちゃん、お気になさらず。坊ちゃんは旦那に連絡を」
佐倉の言葉も気になるが、今は真希のことが重要だ。もし本当に何かあったのだとしたら、真っ先に進が知っている。不安を抱きながらも、望は震える手を抑えながら、進に電話を入れた……
明のスマホが鳴る。だが、今は俺の持っているスマホだ。着信は……
「望さんからだ、明!」
「すぐに出るんだ、何かに気づいたのかもしれない!」
こちらも、9時過ぎの時点で、学校から連絡が入っていた。真希が学校に来ていないと。俺も気になって、何回か真希に連絡したが繋がらず。スマホの電源は切れているようで、GPSも自宅から動いていない。どこに真希が行ったのか、わからないままだった。
明が冬馬さんに頼んで、様々な手を使い捜索していたが、今のところ進展がなかった。そこへ望さんからの電話だ。何かあったのかもしれない。
「もしもし、望さん?」
「お前か、繋がってよかった……」
「いったい、何が?」
「こっちが聞きたい。校門前で待ち伏せしていたが、真希が来ないからな。どうやら無断欠席とのことだが……」
すると、電話の向こうで声がする。望さんは「少し佐倉に代わる」というと、ゴソゴソと音を立て、電話の主が切り替わった。
「運転中だが、今はそれどころじゃない。聞いてくれ! 俺の見立てじゃ、真希ちゃんがオーアに誘拐された可能性が高い」
「それって、佐倉さんが元オーアだからわかるんですか?」
電話の向こうの佐倉さんは、小さく「そこまで教えられたか」とつぶやくと、さらに話を続けた。もう俺は、そこまで知っている。教えてもらったんだ、明に。
「あぁ、だからこそこっちも最大限の監視はしていたが……いつも真希ちゃんはタクシーを使って学校に行くからな、行きは監視していなかったんだ。それに、もしオーアの筋書きなら、もう少し後のはずだったんだ」
「もう少し後?」
「旦那のその社長っぷりをみて、オーアが作戦を早めたんですよ。まぁ、そこは今どうでもいい。オーアが潜伏しそうな場所を今から言う。メモして徹底的に探し出すぞ!」
「どうして、そういうのは警察に任せれば……」
すると、電話の向こうから聞いたこともない、怒号が聞こえた。
「バカ野郎! 警察なんかに任せたら、その間に真希ちゃんは死ぬんだぞ! いいのか、親父さんに顔向けできないぞ、旦那!」
「真希が……死ぬ!?」
「そうだ! オーアは無慈悲だからな、旦那や俺たちを潰すためになら、どんな犠牲も構わない。そんな奴らだ」
それでも、電話の向こうの佐倉さんは、俺に言い聞かせるように言う。それは、どこか懐かしさを感じるような、優しい声だった。
「あんたには、もう苦しんでほしくないんだ……自分のためにも、真希ちゃんを救うんだよ、進!」
その声に、俺の心は動かされる。今は俺がどんなに関係していたってどうでもいい。俺は、今を後悔したくない。真希を、大切な家族を失うわけにはいかないんだ。これ以上、俺は何も失えない!
────俺が動いて真希の命が助かるなら、代わりに俺の命がなくなっても構わない!
「わかった……すぐにでもどうしたらいいか、教えてくれ。佐倉さん!」
「おう、やっと矢崎らしくなってきたなぁ!」
佐倉さんが俺の声の裏に見たのは、きっと別の誰かなのかもしれない。それでも佐倉さんは、俺に一生懸命協力してくれた。オーアのいそうな場所をすべて教えてくれて、オーアからの防衛術も伝授してくれた。
「オーアの下っ端どもは、だいたい防弾チョッキを着ていない。殴れば殺れるやつらばっかりだ」
「わかりました、佐倉さん。くれぐれも安全運転で!」
佐倉さんは、他に思い当たる場所があるらしく、そこへ車を走らせるようだ。俺は明と書き記した潜伏場所尾見ていく。明は俺を見て、真剣な笑顔を見せる。
「とりあえずは、虱潰しになりそうだ。一緒に行こう、進くん」
「俺はバイクで単独で動く。そのほうが人がはけていいだろ?」
すると、明の顔は一瞬で固まった。目を逸らし、明らかに嫌そうな顔をする。言いたいことは、なんだかわかる気がする。だからこそ、俺は最大限の笑顔で答える。
「進くん……それは……」
「俺に何があるかは知らない。俺はオーアに狙われて、殺されるかもしれない。それでも、構わないって思えるんだ」
「どうして? 自分の命より大事なものがあるの?」
当たり前だ。俺にとって一番大事なのは……
「あぁ、俺は一緒に幸せになる人のほうが、命より大事だから」
「……とんでもない自己犠牲だ。そんなのおかしいよ、進くん。君が死ぬことによって、困る人はたくさんいるんだよ」
「それでも、手を伸ばさない理由にはならない。俺にとっては、俺の死を悼む人がいなくなるほうが困るから」
そして、俺はそっと、明を抱きしめる。一昔前の俺なら、こんなことできなかっただろう。こんな勇気はなかっただろう。でも、この社長としての生活は、明とともにいることは、俺という存在を、大きく成長させてくれたんだ。
だからこそ、ここで終わったって後悔はない。俺はきっと、人間らしくなれたのだから。ここにいる、みんなのおかげで。
「君はここで、終わるべき人間じゃないんだよ?」
「それでも、ここまで来れたことに感謝している。特に明にね」
明はさらに、俺を抱きしめた。
「行っちゃダメだ、進くん。死んだら……ダメなんだから」
「そう簡単に死なないよ。明も俺にとっては、命より大事だからね。そんな明の願いを、聞かないわけがない」
俺はそういって、明から離れた。明の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「必ず会おう」
こうして、俺は明の部屋を飛び出し、バイクに跨った。最初に目指すのは……
「海浜公園、かな」
メモ用紙を見て、行く場所を定める。俺はヘルメットをかぶって、エンジンをかける。思い出すのは、高校時代の思い出。
高校も同じになった優斗と、一緒にキャッチボールをした場所だ。あれは楽しかったな。二人で剛速球を投げ合ったんだっけか。お互い、プロになれそうだ、なんて言って笑いあった思い出が懐かしい。
近くにはコンテナがあって、海も近くて……
「まさか……ね……」
信じたくない。そう思いながらも、それが現実だと、脳ははっきり告げていた。
その場所は、進にとっての思い出の場所。そこに、新たな思い出が書き加えられるのだろうか。




