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ある日、5億を渡された。  作者: ザクロ
第三章~金持ちたちの代理戦争~
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孤独な青年のモノローグ2

この青年は……もしや……

────俺は、ずっと一人だった。一人でいることを強いられ続けた。だって俺は、殺し屋だから。将来、後継者として頂点に立つのだから。


────友達なんていらない、ただ腕を上げ続ければいい。


 そうやって実の父親に言われ続けたことが、今でも脳裏に焼き付いている。俺はいわゆる道具だった。ただ決められた人間を殺し、任務を全うする、殺すための機械。


 そのためになら、どんなことだってやらされた。それは英才教育ともいえた。もちろん、俺はそれに答えた。答えるしかなかったからだ。ピアノ、ヴァイオリンを弾きこなし、英語だけでなく7か国の言語を話し、そして標的を確実に殺す。それはまさに、天才と呼べただろう。


 しかし、俺だってわかっていた。学校は普通の学校だ。だからこそ、自分の異質さには早くから気づいていたのだ。だからこそ、自分が自分でなくならないように、ある制限をかけた。


「なぁ、父さん。俺の殺したいやつを殺して、練習をしていいか?」

「いいとも、うまく殺せるならな」


 それは、自分の殺したいと思う人間を殺すこと。そうすることで、他人を殺すよりも、精神の摩耗は避けられた。しかし、やはり殺すことは自分の性に合わない。それでも殺すことを強いられる、殺し屋の後継者としての立場に、俺は苦しみ続けた。


────俺は後継者なんだ、嫌でも殺さないといけないんだ。


 いくら自分を押し殺しても、自分というものはそう簡単には歪まなかった。どれだけ暴力を振るわれても、オルゴールをかけられながら洗脳されても、完全に染まりきることはなかった。どんな力も、俺の前にはゴミくずだった。それほどまでに、幼くして俺は、精神も肉体も強くなってしまったのだ。


────どうして俺は、悪に染まり切れない?


 染まってしまったほうが楽なのに。すべて悪に身を投げれば楽なのに。この心に残った僅かな良心がそれを許さない。ほんの少しの良い心が、俺の心を保ち続け、苦しめ続けた。


────お前に足りないものは心だ。どうして非情になり切れないんだ、お前は。


 父さんにもそういわれた。俺だってわかっていた。どうして心を捨てきれないのか。それが俺の決定的な弱さだった。


 しかし、その弱さを唯一の希望に変えてくれる存在に、俺は中学生の頃、出会ってしまったのだ。


 彼はいじめられていた。とてもとても理不尽ないじめられ方だ。俺は、彼に同情してしまった。そこに芽生えたのは、友情ではない別の何か……だから俺は、心に誓ったのだ。


────この少年を守るために、周りを殺さなければいけない。


 それは俺にとっての正義だ。あいつの悪は、俺にとっての悪だ。俺にとっての悪は、殺す対象だ。そうこじつけて、俺は何人もの同級生を殺した。それは中学校を卒業しても、ずっとずっと続いた。

 あの時、彼をいじめた人間、彼を見捨てた人間、すべて、すべて悪だ。俺は俺の正義の置いて、お前たちを殺す。


 しかし、さすがに殺しすぎた。気づけば同級生のほとんどは、俺の手によって殺されていた。直接殺していなかったとしても、周りの影響で、自殺したやつだって多い。結局、俺の願望のために、多くの人間が死んだ。しかし、それはもはや当然だ。なんせ俺は、正義のために殺したのだから。


「お前、ちょっと殺しすぎじゃないか? 病死や事故死……うまく片付けられてはいるが、まさかお前」

「あいつに肩入れしたとか言うんだろ? バカ言うんじゃねぇよ。俺は殺したいやつを殺してるんだ。練習にもなるだろ」

「そういって標的を殺さないで、もう何年経った。脅威は早く潰さなければいけないんだよ!」


……わかってた、いつかこの正義も終わりが来る。あのいじめられていた少年は、俺が幼いころより狙っていた標的だ。殺さなければいけない相手だった。

理由は単純、依頼主からの命令だった────影山家の脅威となれば、すぐにでも殺せと。


 だからこそ、高校を卒業してから、しばらく距離を取った。彼とはもう何年も、会わないようにしてきた。実際、彼が影山家の脅威となることはなく、俺は彼の迷惑な人間を影で殺すだけ。俺の正義は保たれる。こんな日々が、ずっと続けばいいって思ってた。


……だが、現実は急展開を迎える。影山家の人間が、わかっていて彼に近づいたのだ。彼は影山家の脅威だと知っていても、彼女は────影山明は近づいた。理由はわからない。だがそれは、俺にとって、予想もしていなかった出来事だった。


 人生の設計が大きく崩れる。俺は殺したくなかった存在を殺さなければいけなくなる。俺が人を殺すために保っていた正義が消える。そんなことは嫌だ、嫌なのに……


────俺は、オーアの後継者だ。始末しなければいけない。


 影山家に影響を及ぼす彼を、殺さなければいけない。それが依頼主からの命令だから。わかっている、俺の正義以上に、彼は殺してはいけない人間だとわかっているのに。


────どうして、運命は残酷なんだ。


 彼はこの世に無くなってはいけない存在なのだ。俺だけじゃない、周りが彼を必要としているのだ。だから、彼は奪うべき命じゃない。でも……!


「わかっているな、まずは矢崎真紀を誘拐するんだ。そして捜索に乗り出した、オーアの裏切り者、矢崎進をその混乱に乗じて殺す」

「俺は誰を殺せばいい」

「臨機応変に頼むよ。何、気にするな。俺も殺しに行くとも」


 矢崎真紀、オーアの裏切り者を殺すための計画が始まった。妹が狙われれば、必ず兄も出てくる。それに合わせて殺すのだ。

 でも────父さんが出るとするならば。


「矢崎進を殺すのは、他でもない俺だ。父さんは手ぇ出すんじゃねぇ」

「ほぉ……ようやく殺す気になったか。頼むよ、死神」


 もし彼の命を奪うとするならば────ほかでもない俺が殺す。俺がつけるべき宿命だ、お前に甘え続けた、俺の罰だ。

次回、ついに……(アワアワ)

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