1話
--ソル王国
砂漠に覆われた大地の中部には不自然な程に緑豊かな王国があった。
勇者イツキ、転移者であり勇者である彼のユニークスキル【ユグドラシルの愛】によって、砂漠のど真ん中に立派な大木を築き上げた。
それにより、緑とは無縁であった土地には草が生い茂り、その影響から枯れた水源からはオアシスが誕生した。
小国であったソル王国はその力を持って国を建て直し、今やこの砂漠大陸を代表する大国の1つとなった。
--カラン、カラン
昼間だと言うのに随分賑わっている酒場の扉を開くと、木製の鈴が鳴る。
「いらっしゃい!好きな席に座りな!」
金髪の褐色の巨乳美女が両手に抱えたエールを零しそうになりながらそう言う。
「ふむ、勝気なパツキンギャルのアヘ顔か‥‥イける!」
「はぁ‥‥?何言ってんだこいつ‥‥」
心底軽蔑した目を向けられた。
‥‥それがそそる!
カウンターに空いてる席を見つけ、そこへ腰を下ろした。
「らっしゃい、なんにする?」
黒くやけた肌、筋骨隆々な身体、禿げた頭。
元冒険者だろうか、腕には大小様々な傷が見受けられる。
「ああ、エールを1杯くれ」
「あいよ」
ちょうど洗い終わったのだろうか、拭き終わったであろう木製のカップへエールが注がれ、目の前に置かれる。
「あんた、どっから来たんだ?」
「東のワノ国から」
「ほう、そりゃ長旅だったろう?」
「なに、退屈はしなかったさ」
そう言ってコップを傾ける。
ゴクリ、と乾いた喉をエールを通り、アルコール独特の後味が残る。
「ところで‥‥1人かい?この辺りの魔物は外殻が硬くて厄介なものが多かったはずなんだが」
次のコップを拭きながらこちらを見ずに質問を投げかける。
「ああ、俺は強いからな」
「ほほう‥‥ってことは、あんたはあの有名な変態か?」
「お?俺の名はこんな所まで轟いてんのか?」
飲み終わったコップをカウンターへ突き出し、おかわりを要求する。
「大陸中で噂になってるさ。とんでもない変態が世界各地で暴れてる、ってな」
フン、と鼻を鳴らしながらコップにエールを注ぐ。
「そうか、有名人も大変だな」
「随分人事だな?自分の事じゃないのか?」
ゴクリ、とエールを1口飲み、コップを置く。
「自分のことではあるが‥‥暴れ回ってる訳じゃないからな」
「ほう‥‥ってことは何か?目的があるってんのか?」
こちらの話を聞く気になった店主であろう大男が太い腕をカウンターに置き、ズイッ、と身を傾ける。
「フッ‥‥俺の話は高いぞ?」
「3杯目のエールまででどうだ?英雄様」
「いいだろう。なんせ俺は1文無しだからな」
ははは、と男二人の笑い声が聞こえた。