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3-1 集いし者たち

「くれぐれもフィアを頼む」

「あんたに言われなくてもわかってるわよ」

ヴァロの言葉にクーナはそっけない返事をかえす。

次の日の昼ごろフィアたちはどこからともなく迎えに来た馬車に乗って、選定会議が行われるカロン城へと向かっていった。

クーナとフィアは馬車から降ろされると、そのまま滞在する部屋まで案内される。

二人は荷物を下ろすと会場に向かった。

会議場に足をいれると会場中が一瞬にして静まり返り、一同の注目がフィアという少女に注がれる。ひそひそと囁き合う声が聞こえてくる。

その場所はフィアにとって北での初めての舞台であり、敵地でもある。

そばにいるクーナは心配そうにフィアの方をみる。

奇異の視線を向けられるも、フィアはクーナを連れて自身の席に向かう。

まるで周囲のことなど気にしてないかのように、彼女は振る舞っている。

その異様な場の中で足を踏み出し、声をかける者が一人いた。

背筋を毅然とした佇まい。軍属の者のもつ特有の隙や無駄のない動き。

その者のいる周囲だけまるで違った場所になった印象すら受ける。

「失礼。フィア殿ですね。お噂はかねがね」

フィアの前に立ち止まるとその女性はそう言って一礼した。

「はい、あなたは?」

「失礼しました。私はポルコール・セリアッカという者です」

「あなたが『聖滅』のポルコール」

『聖滅』のポルコール。カーナ四大高弟にして、巨大結社テーベの長。

同時にハーティア聖滅隊の長も兼任している。各結社の長老卓にも顔が効き、結社内の影響力はラフェミナを除いた魔女の中では最もある魔女とされいる。

戦闘行為に関しては大魔女を除いた魔法使いの中でも最強とまで言われてるほどだ。

現体制の重鎮中の重鎮でもある。

「魔女であなたを知らない人間はいません。この場でお会いできたことをうれしく思います」

「ありがとう。こっちは私の弟子ミョルフェン・イセイア。君と同じトラードの聖堂回境師候補です。よろしくお願いします」

フィアは差し出される右手を握り返した。

「はじめまして。君が聖堂回境師のフィア殿か。噂は聞いているよ。聞いての通り私の名はミョルフェン・イセイア。よろしく頼む」

さわやかな口ぶりでミョルフェンはフィアに語りかける。

「ミョルフェンさん、こちらこそよろしくお願いします」

フィアとミョルフェンは笑いあう。

「お互い最善を尽くそう」

「はい」

そのミョルフェンといった女性はクーナに視線を向ける。

「クーナ、君と生きて再びあえて嬉しく思う。君とは魔法のことで一度語り合いたいものだ」

「ええ」

軍属特有の独特の匂いのようなものがその身から漂う。

ハーティア聖滅隊の次長だというが、それも納得のいく話だ。

戦闘行為になれば鬼のような力を発揮することだろう。

「知ってるの?クーナ?」

「新人の時にちょっとね…。悪い奴じゃないんだけど…暑苦しいのよね…」

クーナは疲れたような表情を見せる。

クーナはかつては巨大結社メルゴートの期待の新星だった。

それこそその実力はメルゴートで長老卓に招かれるほどの。

それだけ魔法使いとしての顔が売れていたのだ。

この場で彼女を知らないものはいないだろう。

魔王崇拝の罪で消された結社メルゴート出身者としてのレッテル付きの彼女を。

そしてそれは彼女がこの社会にいる限り、ずっと彼女に付きまとうのだ。

フィアはそれを思い胸を詰まらせる。


重い空気を吹き飛ばすかのようにその女性がフィアたちに近寄ってくる。

「フィアさん、トラードの後処理見事でした。担当官たちもあなたの手際に舌を巻いていましたよ」

微笑みを絶やすことなくその女性はフィアに気さくに語りかける。

「ああ、申し遅れました。私の名はビュセント・アウリコといいます」

柔和でフィアに一礼した。

「ヴィヴィのいるフゲンガルデンを一年半前に訪ねたのですが、どうも行き違いになってしまったらしくて」

一年半前といえばフィアがミイドリイクに行っていたころだ。

「なぜ遠方のフゲンガルデンまでいらしたのですか?」

「聖都コーレスの時計台の修復の件で大陸南部に向かう機会があったので。

まあ、ヴィヴィの様子を見に行ったというのもありますね。アイツは出不精がすぎるから干からびていやしないかと」

「ぷっ」

フィアは口元に手を当て必死に笑いをこらえる。

「あいつと私とニルヴァ…そしてルベリアは同期で競技会とあらば競い合っていた仲です。メルゴートの一件があって落ち込んでやしないかと思って顔を出したのですが…どうやらアイツは良い弟子に巡り合えたようだ」

「…ビュセントさん、師のことをこれからもよろしくお願いします」

「もちろんです」

ビュセントは優しげな笑みを見せた。

「…それにしても本当に似ていらっしゃる…」

フィアの顔を覗き込むようにビュセント。

「はい?」

「はっはっは、なんでもありません。困ったことがあればこの私に相談ください。必ずや力になりましょう」

ビュセントは微笑んでその場をあとにした。

「…ビュセント様はラフェミナの左腕とも言われてる。大陸中を歩き回っているって話をよく聞くわ。それにしても…ヴィヴィさんって…そんななの?」

「…うん」

「なんか私の中にあるあの人のイメージが…」

クーナはフィアの横で一人ショックを受けているようだ。


「あら、クーナじゃない」

その女性は取り巻きを数人引き連れ、フィアたちの前に現れた。

「ソフェンダ」

嫌そうにクーナは声のする方を振り返る。

そこには数人の取り巻きを連れた女性が立っていた。

この女性が聖堂回境師の候補の一人らしい。

「自分の結社を無くしたからって次はその子に取り入ろうってつもり?」

「今回はラフェミナ様から話を受けてきた。あんたこそそんなに従者がいないと一人で外出もできないのかしら?」

二人はその場でいがみ合う。

「まったくいい気なものね。従者として取り入るつもりかしら?」

「いい気なもの?結社対抗の競技会で私に負けたあなたが良く言うわ」

「あ、あの勝負は無効よ。そもそもメルゴートは…」

メルゴートの名前を出されクーナは表情を一変させた。

「…いいのソフェンダ?あのことをここにいる皆にばらすわよ」

遮るように、そしてにこやかにクーナが言うとソフェンダは口を閉じた。

クーナのその一言はソフェンダにとって効果的だったらしい。

もし弱みを握っているのならここでばらされれば致命的になる。

「ふん、今に見てなさい」

悔しそうに踵を返すと取り巻きを連れ、ソフェンダはその場を後にした。

「クーナ、知り合いだったの?」

「以前結社対抗の競技会で負かしたことがある。以来私のことを目の敵にしてて、何かあれば突っかかってくる。困ったものよ」

クーナは一息ついた。

「あんたも早くこのぐらい言い返せるようになりなさい」


「こんにちは」

フィアとクーナと話し込んでいると横から一人の女性が声をかけてきた。

「初めまして私ミーリュン・ファルタコアといいます。お会いできてうれしいわ。フィア様」

髪は金色で波をうっていて、その深紅の双眸をしている。

ドレスを着ているものの調和がとれていて着飾っている感じを受けない。

その念写とは一つだけちがうところは眼鏡をかけているところだろうか。

クーナの念写と同じ顔がそこにはあった。

「こちらこそ」

「ああ、なんて美しいのでしょう」

フィアの手を取り、感無量といった様子でその女性は語る。

「あなたの本読ませていただきました。すごく興味深かった」

「ああ、フィア様、こんな私にもったいないお言葉。この会議が終わったら、お茶でも交えながら二人きりで今度お話ししたいですわ」

「よろこんで」

「楽しみにしております。お互い候補者として最善を尽くしましょう」

そう言うと一礼して自身の席に戻っていった。

「ちょっと変わった人ね」

「…そうね。私も会うのはこれが初めて。私の前の世代の天才といわれてる。私が競技会に出るころにはすでに結社の研究所に入っていたのよ。ちょっと世代がずれたから私とは接点がない」

こうして会議場に四人の聖堂回境師候補者たちが集まり、会場中はざわめきに包まれている。だが一人の女性の登場により会場は騒然としていた会場は静まり返る。

その者にはフィアは見覚えがあった。

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