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2-2 クーナ

道端をゆくものが誰もがその女性に目を奪われる。

男女問わず誰もが振り返るほどの端正な顔立ち、服の下からでもわかる艶やかな肢体。

その女性は明らかに腕を組んで不機嫌そうな顔で道端に立っていた。

そんな彼女に一人の男性が声をかける。

声をかけた男性は数言言葉を交わすとうなだれてその場を後にしていた。

ヴァロは遠目からその男性に同情しつつその女性の顔を見る。その女性の顔をヴァロは知っていた。

「フィア…あの女性…見覚えないか」

ヴァロは肘で横にいるフィアに触れる。

フィアはそれに気づくと手を振りその女性にぱたぱたと駆け寄って行った。

「クーナ」

その魔女はかつてヴァロとフィアが捕縛したクーナと言う魔女である。

その艶やかな光沢を帯びた長い黒髪は男の目をひきつけ、その意志の強さがにじみ出るような眼差しには男女問わず射すくめられる。

「全く、フィアは相変わらずね」

あきれたような顔でクーナはフィアを見る。

金と黒の髪の二人で並んで立つと一枚の絵でも見ているかのようだ。

「今回あんたの従者をラフェミナ様から頼まれたの」

「クーナが?嬉しい」

フィアとクーナは同郷の出身者である。

「私は…やめたほうがいいって話したのだけれど…」

クーナはフィアから目をそらしつぶやく。

「どうして?」

フィアはきょとんとした眼差しでクーナを見る。

「どうしてってねえ。言わなきゃわからない?」

彼女たちの所属していたメルゴートは魔王崇拝のために根絶やしにされたのだ。

メルゴートの生き残りの彼女は相当肩身の狭い思いをしているのは想像に難くない。

「私はそんなこと気にしない。言いたい奴には言わせておけばいい。何より私はクーナとまた会えてうれしい」

フィアはクーナの手を取り、彼女を見て微笑む。

「…私は…あんたを殺そうとしたのよ」

どこか罰の悪い顔でクーナはそう漏らし、フィアから目をそらした。

「ここだと目立ってしかたがないわね。宿まで案内しましょう、ついてきて」

フィアとクーナが並んで歩くと否応なしに通りを歩く人間たちから視線を集めることになった。


「やあ、僕はドーラ。よろしくネ」

ドーラはにこやかにクーナに挨拶をする。

クーナは奇妙なものをみるように、ドーラを足のつま先から頭のてっぺんまで目を通す。

「その方はドーラさん。ミョテイリに向かうってことで一緒に来てもらったの。私たちの事情も知ってる」

「ふーん、趣味の悪いとんがり帽子の男ね。こんなへんてこなのと一緒で大丈夫なの」

ドーラの顔が硬直する。

「ヴァロ君、初対面の人に趣味の悪いとんがり帽子の男って言われたヨ」

ドーラはヴァロに泣きついてきた。結構ショックを受けているらしい。

まさか元魔王を一言で撃沈するとは。

「…へんてこなのは認める」

「ヴァロ君まで…ひどいヨ」

ドーラはヴァロの横で小さくしょぼくれる。

「元気そうだな」

「おかげさまでね」

クーナは睨むようにヴァロを一瞥した。

彼女はヴァロにもよい感情を抱いていないらしい。

「いつから待っていたんだ?」

「昨日からよ。全く人間の男どもときたら、何度声をかけられたかしれない。迷惑この上無いわよ」

彼女の不機嫌な原因はそこにあるらしい。

「…そうですか」

話しているだけで周囲の注目を浴びているのを感じる。

殺気のようなものすら感じることもある。クーナと行動を共にするだけで、下手をすれば後で後ろから刺されそうだ。

「このきれいな女性はお師様の知り合いなのですか?」

「まあな」

クーナは三年前の魔女捕縛の一件でヴァロたちがとらえたはぐれ魔女である。

メルゴート掃滅の一件でどうにか生き残った彼女は一人行くあてもなく、彼女たちの結社長ルベリアの終焉の地となったフゲンガルデンに足を向けた。はぐれ魔女の存在を知ったヴァロはフィアとともに彼女を捕らえる任につく。そして死闘の末、ヴァロたちは彼女を捕らえたのだ。

「…お師様?」

ココルの一言にクーナはぴくりと反応をみせた。

「申し遅れました。僕はヴァロさんの弟子のココルといいます」

「ふーん、あんたも弟子をとるようになったんだ」

クーナはヴァロの一言に意外そうな表情を見せる。

「ちょっとトラードでいろいろとあってな」

「いろいろねえ。ずいぶんと派手にやってるらしいわね。それぞれの結社の間ではあんたたちのことでもちきりよ?」

ヴァロは自身の行為が、はるか遠く北の地でも話題になってるとは思いもしなかった。

「それで?竜殺しに魔王退治、『真夜中の道化』討伐、挙句に現職の聖堂回境師追放したわけだけど…どこまでが真実なの?」

クーナはヴァロに疑惑のまなざしを向ける。

「…まあ、一応全部…関わることは関わった」

ヴァロは複雑そうな表情を見せる。

関わることは関わったが、一つも自身たちの力で解決したものはない。

「呆れた、まあ、あの子の実力ならわかるけど、よくもまああんたみたいなただの人間がそれだけ関わって生きてるわよね」

クーナはヴァロの顔を呆れたように見る。

「…はい、全くそう思います」

美人にあきれたような表情をされてヴァロはそう言うほかなかった。

「あなたにはあいつを守ってくれたこと一応感謝しとく。あの子は私たちの生きた証みたいなものだもの…って」

フィアはリブネントの結界に興味を示したらしくふらふらと結界を見ていた。

傍から見れば空を見上げてふらついてるようにしか見えない。

「ほら、フィア、あまりきょろきょろしない」

クーナはフィアに駆け寄っていった。

「あの人相当な美人だけれど、性格きつそうですね」

「…元気になってるみたいでよかったよ」

捕らえたときはもっとしょぼくれていた印象があったが、今はそんなことが嘘のようにはきはきとしている。

「だがそれにしても…」

「悪目立ちしますね」

二人の師弟は苦笑いを浮かべるほかなかった。

再登場クーナさん。夜の雫で出てきた人。

これから彼女には重要な役割が待っている。

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