2-1 湖都リブネント
湖都リブネント。
大陸の中央部にある大都市である。
大陸でも七大都市に数えられるほどの都市であり、結界都市でもある。
北にはミョテイリ、東にはコーレス、西にはミイドリイクを伺う。古くから大陸の交通の要所として発展してきた。
リブネントのシンボルと言えば鏡のような湖を誰もが思い浮かべる。
その湖リブン湖は天気の良い日にはまるで鏡のように空と山を映す。
湖の中央には白亜の城カロン城が存在し、また湖を囲うように人の都市がある。
そのカロン城には伝説がある。
第二次魔王戦争中、魔王軍が差し迫る中、その城主であったものが城の中に招き入れ、
人類はどうにか全滅を免れたというものである。
カロン城はまるで時が止まったかのように、変わらずそこにあり続ける。
そこはリブネント。大陸有数の交差路でもあり、また大陸有数の歴史のある都。
ヴァロたちは湖都リブネントまで徒歩で向かっていた。
ヴァロたちの視界にリブネントが見えはじめてきていた。
魔女たちに目撃されるとまずいので、ドーラの飛行魔法は既に解いている。
「リブネントに着いたらどうするかフィアは連絡は受けているのか?」
気になったのでヴァロはフィアに聞いてみる。
「リブネントに着けば、案内役がリブネントで宿をとって待ってるみたい」
「おいおい、案内役って…見つかるのか?」
リブネントと言えば大陸有数の大都市である。
人一人を見つけ出すのはとても容易なこととは思えない。
まして顔も知らない相手だ。一筋縄では行かないだろう。
「待ち合わせ場所とかは連絡を受けてないんだけど…」
「最悪ドーラに頼むか…」
ヴァロはドーラに視線を投げる。
「こらこら、見たこともない相手をどうやって見つければいいのサ。
それに大陸中から選定会議のために魔女たちが集まってきてるんダロ。
そんな中でたった一人の魔女を見つけ出す何て不可能ダヨ」
ドーラはお手あげと言った感じだ。
「確かにな。だが明日までに見つけないとな…」
見つけられなければフィアが選定会議に出席できなくなってしまう。
それではここまで来た意味がない。
「とりあえずリブネントに着いてから考えましょう。多分どうにかなると思う」
「どうしたココル?」
遅れてついてきているココルにヴァロは声をかける。
空の旅が終わってからというものココルは黙りこくっていた。
「さては空の旅に酔ったな」
ヴァロはココルを茶化してみる。
「いえ違います。ちょっと考え事をしていただけですよ」
「考え事?」
「はい。それでは聞きますが、あのままリブネントに行くこともできたのに、どうしてそうしなかったのですか?」
ココルは疑問をヴァロにぶつける。
「不満か?」
「いいえ。私の言っているのは何故飛べることが禁止になってるかということです」
「有事以外は飛行の禁止を大憲章で書かれてるんだとさ」
ココルの疑問にヴァロは答える。
大憲章と言う聞きなれない言葉にココルは目をぱちくりさせる。
「大憲章ってなんですか?」
「大憲章っていいうのは、大昔に三人の大魔女が定めた取り決めのこと。大魔女のいるに属している者はそれを守らなくてはならないの」
ココルの質問にフィアは簡潔に答える。
「…なるほど」
「もし空を自由に飛べるのであれば、それは空の飛べない人類にとっていずれ害悪になる。そういう思想があるからよ。…それにこれは教会と大魔女の取り決めでもある」
その教会との取り決めは絶対だ。もし破れば魔女社会全体が異端扱いされてしまうことにもなりかねない。そうなれば戦争になる。
「それではどうしてそんなに教会は飛行することを恐れるんですか」
「…ココルは第二次魔王戦争の話は知ってるな」
「…はい」
第二次魔王戦争時、有翼の幻獣王ツァーレンの脅威の前に人類は一方的に攻撃を受けるだけだったという。それと言うのも空を飛ぶものと戦うすべをもたなかったからだ。
戦争の序盤では空からの絶え間ない攻撃に人類は一方的な防戦を強いらざる得なかった。そのために何十万何百万と言った人間が犠牲になったそうだ。
教会は少しでもその脅威となりそうなものを取り除いておくためにも、空にいる者たちの羽を奪っておかねばならなかったという背景がある。
「あの時の記憶が人類には焼き付いているのさ」
空を自由に飛べるということは飛べないものにとって脅威でしかない。
国境は自由に越えられ、その上空の上には手出しできない。
「つまり人類は人類自身のエゴのために自ら翼を失ったということネ」
ドーラはつまらなさそうに語る。
「詩人だな」
「事実でショ」
「そういえばドーラさんにはその大憲章は適用されないんですか?」
「ドーラは大魔女の作った連盟には入ってないからな」
ヴァロの一言にココルは衝撃を受ける。
「ならどうして魔法が使えるんですか?」
現在人間界で魔法を覚えるのには連盟に加入することが最低条件だ。
『狩人』の相手をするはぐれ魔女はその連盟を抜けた者たちであり、
このぐらいのことははぐれ魔女を狩る『狩人』なら当然誰もが知っていることだ。
ココルの質問にヴァロたちは答えられない。
まさか連盟ができるよりも昔から魔法を使えたというわけにもいくまい。
「師匠、本当にこの人何者なんです?」
ココルは奇妙なものを見る目つきで小声でヴァロに話しかける。
確かにココルから見れば、このドーラと言う男は不審この上ない。
空の旅の後さらに警戒感が増しているような気がする。まあ無理もない話だが。
「ドーラはドーラさ」
ヴァロは笑って答える。
この奇妙な男のことはそういう者だと。
近くて遠い奇妙な隣人。
そしてそれはこの先もずっと続いていくものだとこの時はまだ思っていた。