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1-2 その後の経過

赤髪の魔女は家の前で午後のひと時を優雅に楽しんでいた。

「ヴィヴィさん、こんにちは」

「おう、ココル、元気してるか?」

ヴィヴィはココルに手を振った。

ココルを騎士にまで引き上げる際に、ヴィヴィにモンガス卿を通して騎士団に働きかけを


してもらっている。それもあってかココルはヴィヴィになついていた。


ココルは茶を用意するのにパタパタと家の中に走って行く。

「ほら、お土産」

ヴァロがお土産を差し出すと、ヴィヴィはそれを奪うように取り上げる。

「気が利くようになったじゃない」

ヴィヴィは手渡されたお菓子の包み紙をさっそく開き始めていた。

「毎回催促されれば持ってくるようにもなるさ。それでフィアは」

「家の中でお茶を用意してる。あんたが来るのはわかっていたからね」

お菓子にさっそく手をつけながらヴィヴィは言う。

「毎回毎回さすがだな」

「ここの結界の管理者をなめないことね。あんたの居場所ぐらいその気になれば一日中追


えるわよ。風呂の中でも厠に入ってるときでもね。フィアにはあんまりやらないように昔


注意したことがある」

「そ、そうか」

ヴァロはちょっとだけびっくりした。

家の中からフィアとココルが言い合いが聞こえてくる。

ヴァロに出す茶の奪い合いをしているらしい。

「ヴァロ、なつかれてるみたいでいいじゃない」

「かなり複雑な気分なんだが」

正直ココルは仕事はかなりできる方だ。一度教えたことは大体できるし、入って一カ月、


モニカ女史にはかなりかわいがられている。

ココルは特例でヴァロの下に就くことになった。

それもこのヴィヴィの口添えによるところが大きい。

ただヴァロのことになると崇拝しているような節があり、同僚からは変な目で見られるこ


ともしばしば。

「カランティのとこの結界は位置は特定できなかったみたいだが…」

「掃滅結界は攻撃特化型の結界だもん。あっちは迎撃専用。こっちは封印専用の結界で防


御型だし」

一人お菓子を食べながらヴィヴィは続ける。

「で、そのカランティのことなんだが」

ヴァロは気になっていたことを切り出す。

帰ってからというもの気になっていた話題ではある。

「前からよくない噂はあったわ。ただいろいろとごたごたしていて、私たちもそれに手を


出せなかったというのもあるんだけれどさ。あんたらが『真夜中の道化』を討伐して、カ


ランティを失脚させたって聞いたときはさすがに耳を疑ったわよ」

「カランティの件で思い出した。トラードのその後の経過はどうなってるんだ?」

「あんたらが結界を解いてくれたおかげで、速やかにことが行えたってさ。

うちらも教会側に貸しを作らずに済んだ。聖カルヴィナ聖装隊には損害はなかったし、教


会の方もトラードの聖堂回境師選定に口出しはあまりないみたい。こちらの面子はかろう


じて守られた。あんたたちのおかげよ」

「カランティの凶行は…」

「徐々に明らかにしていくことになると思う。

ついでに今年私が一人で寂しい年明けになったのもあんたたちのおかげだけどね」

恨めしそうな眼差しでヴァロを見る。

あれから三か月経つが根に持っているらしく未だにそれを言ってくる。

「だから、それは謝っているだろ」

「そっちはルーランでパーティに招かれたんだって?

フィアに聞いたわよ。なんでもルーラン総督のバブリスが珍味集めてたって。

ルーランって言ったら東の大陸と交流あるじゃない。

あんなところで出されるものなんて想像もつかないわ。ああ、私も食べたかったなぁ。

私は一人寂しく暗い研究室で固いパンにかじりついてる時に…何この違い」

ヴィヴィはやってられないといった感じて拗ねて見せる。

それでも菓子を頬張る動作は止まらない。こういうところは駄々っ子のようだ。

「周りにゃルーラン総督府の幹部だの大商人とかばっかだぜ。

こっちだって食べた気しなかったっての」

「そんなのあんたの勝手じゃない。場馴れしてないあんたが悪い」

ヴィヴィはびしっとヴァロを指さす。

ヴィヴィを連れて行ったら、人目を気にせずにさぞかし食いまくることだろう。

「大体そんなにパーティに参加したかったんなら、

騎士団領の新年会に顔出せばよかっただろう?」

「…ほほう、ヴァロ君はこの私に質素倹約をうたってる騎士団領のパーティに出席しろと


?」

じと目でヴィヴィはヴァロを睨んだ。

「…なんかすみません」

「まーいいけどさ」

ヴィヴィはヴァロの持ってきた茶菓子をつまむ。

すでに持ってきたお菓子は半分ぐらいヴィヴィに食われている。

「こっちとしては好都合かな。前からあんた一人じゃ人数不足だと思ってたのよ。

ミイドリイク行っちゃったときもさ、ここ手薄になってたし」

「俺が来る前までは一人でやってきたんだろう」

「あんたとフィアが来たからそれなりにやらなきゃいけない業務も増えたのよ。

それまではフゲンガルデンの周囲のことなんか『狩人』の連中に完全に任せっぱなしだっ


たのにさ」

「すまないな」

「あんたが謝ることじゃない。これは私が選んだこと。

それにしてもここもにぎやかになったものねぇ。少し前まではここは私一人だったのに」

どこか昔を懐かしむようにヴィヴィ。

「ひょっとしたら私が思っている以上に、あんたってすごい奴なのかも知れないわね」

「あんたが俺をどう思っているのか一度じっくり聞かせてもらいたいところだよ…」

「お茶を持ってきました」

ココルがここで息を切らせて茶を運んできた。

「ああ、すまない」

ヴァロがヴィヴィとの会話中に、めったなことでは息を切らさないココルが息を切らせる


ほどのことが家の中で起きていたらしい。どんなことがあったのか気になるところではあ


る。

そこへとんがり帽子をした男がひょっこりとその場に現れる。

「やあ、みんなお揃いだね」

ココルは背を低くし、背中のナイフに手を当て身構える。

「お前は何者だ?」

それは流麗に、かつ一連の動作で行われた。

先ほどの和やかな雰囲気がまるで嘘のようにその場が張り詰める。

「いーのいーの、こいつ一応関係者だし、今日はちょっと用事があって私が呼んだのよ」

ヴィヴィはココルの手を下すように視線を送る。

「誰?その子?ずいぶんとするどい気配してるよネ」

「俺の部下…というか部下」

ヴァロは説明の苦慮した。

「へぇ、ヴァロ君がネェ」

「意外か?」

「時がたつのは早いって思ってサ」

しみじみとドーラ。

ドーラが封印から出てきてからそろそろ二年ほど経過しようとしている。

「ドーラさん、お久しぶりです」

フィアはドーラに茶を差し出した。

「フィアちゃん、久しぶり」

「あんた結界の目かいくぐるのやめない?ここの管理者としてすっごく気になるんだけど


さ」

「見られていると隠れたがる性分でネ。それに君が」

とんがり帽子をつけたヘンテコな男である。

「この方も魔法使いなのですか?」

ココルはヴァロに小声で尋ねてくる。

「まあ…そうだ」

説明すると長くなるのでヴァロはとりあえず相槌を打つ。

この男はかつて人類を震撼させたという第四魔王ドーラルイその人でもある。

あまり公にできないことでもあるのでヴァロは言葉を濁した。

「このことは内緒に頼むよ」

「わかりました」

元暗殺者だけあってココルはそこらへん察してくれるので気が楽だった。


「それじゃ、揃ったからはなしはじめましょうか」

ヴィヴィはそう言って話を切り出した。

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