1-1 弟子
午後になってヴァロはココルの元を訪れていた。
ココルがフゲンガルデンに騎士見習いとして配属されて早二か月。
建前上はヴァロの属する特殊治安対策課の一員と言うことになっている。
ココルは既に仕事を任されるようになっていた。
ココルもずいぶんとここの職場の雰囲気に慣れたと思う。
最近ではモニカ女史から仕事も受けるようになってきてる。
「ココル、出かける支度はしてあるな」
服装は騎士団の制服をきて今ではすっかり騎士団員の一員だ。
童顔で素直な性格で一部の女性には受けているらしい。
そのココルの前には書類の束が置かれていた。
「ああ、ヴァロさん、その件ですが…」
「…」
ヴァロは状況を一目で察し、頭を抱えた。
「ヴァロ君、ココル午後借りていい?」
ココルに抱き着きながらモニカ女史。
初めはヴァロの連れてきたココルにきつく当たっていたが、
今ではココルに首ったけである。(主に仕事と言う点でだが)
その実力もさることながら、素直な性格に既にモニカ女史は籠絡されていた。
もともと金貸しなどをしてきているために、この職場への適正はあったらしい。
「だめです。モニカさん、ココルへの仕事は俺を通してからって言ってるでしょう。こっちはモンガス卿じきじきの話です。ココルへの仕事なら他の人に回してください」
モンガス卿の名を出されてモニカ女史はたじろぐ。
「いつも肝心な時にいなくなっちゃうあなたが言う?」
涙ながらにモニカ女史は訴える。
「泣き落としかけようが、それとこれとは話が別です。
立場上俺はこいつの上司なんですよ。仕事なら他にまかせればいいじゃないですか」
特例としてココルはヴァロの下で働くことになった。
これにはヴィヴィの働きかけがあったらしい。
それというのもヴァロとココルは異端審問官『狩人』に属している。
二人を一括で管理した方がいいという上層部の意向だろう。
「だって、リオ君は見回りでいないし、エイソンさんに任せると一枚書類作成するのに半日かかるのよぅ」
同情はするが、のちのこともある。ここは鬼にならねばならないだろう。
「…だめです」
「なんかすみません」
ヴァロとともに城を出てきたココルはヴァロに謝る。
「今度からは俺を通して仕事を受けてくれ。そのうち身動きが取れなくなるぞ。ただでさえうちは人手不足なのに」
「…はい」
そう言うところはきちんとしなくてはなるまい。ヴァロはそう考えていた。
「なあ、ココル」
「なんですか?お師様?」
ココルは二人きりになるとヴァロさんではなくお師様になる。
ヴァロは彼なりの自身への敬意なのだと最近は解釈するようになった。
「騎士になったわけだが…幻滅とかはしなかったのか」
ココルはヴィヴィの各方面への働きかけもあり、フゲンガルデンに到着してすぐに騎士として採用されることになった。
騎士になったのはココルの希望だが、ココルの仕事はほとんど机仕事だし、騎士らしいことなど週に一度の定期訓練ぐらいではなかろうか。それは彼の思い描いたものとは別のモノなのではないか。そのことにヴァロはココルが就任してからずっと負い目のようなものを感じていた。
「いいえ。僕はずっと日陰で生きてきました。
自身のことで精いっぱいだったし、汚い仕事もこなしてきました。
そんな僕が胸を張って人のために生きられることが今は嬉しいです」
「そうか」
ココルの言葉にヴァロは少しだけ救われた気がした。
「これから行くところってひょっとしてヴィヴィさんのとこですか?」
「ああ、そうだ。あいつのとこ行く前に少し食べ物買って行こうぜ。最近手ぶらで行くと何かとうるさいからな」
「はい」
ココルは微笑むとヴァロの後に続いて歩く。
フゲンガルデンの穏やかな午後はゆっくりと過ぎていった。
ココル君騎士団に就職です。
元暗殺者だけど、作中では最もまともな人だと思う。