第18話 定食Bプレートの小さな幸せ
「どうだい新人くん、ここの定食Bプレート結構いけるだろ?」
リュミエールとのピクニックを終えた僕は本日の鬼畜な筋トレをなんとか切り抜け、ヒコマロ先輩とともに夕食を食べていた。ちなみにリュミエールへと今日の夕食を運ぶ係はリン。僕はお休みだ。
目の前には自分のことのように定食Bプレートの美味しさについて熱弁を振るっているヒコマロ先輩。先輩は咀嚼しながら言葉を続けざまに紡いでいるため、時々ご飯粒やらなんやらがこちらの同じく定食Bプレートの大皿へと飛んでくる。
先輩には悪いが……不快だ。
「……というかヒコマロ先輩、実際問題この食堂って定食Bプレートしかないですよね」
「そうだよ」僕の質問に気にせず、微笑みながら迷い箸をするヒコマロ先輩。
っていうか、ここって箸あるんだ……。今更ながらの疑問に自分自身ながら失笑する。現在進行形で僕は箸を持っているっていうのに、気づかないなんて僕はなんてあらゆる物に不干渉なんだろう。まあ、ここに来て2日経ったけれど初日の頃よりは僕の特異な正確も改善されつつあると思うけれど。
「飽きないんですか、このプレートばっか食べてて。あっ、もしかしたらこの日は定食Bプレート。次の日は定食Cプレートって感じでバリエーション豊かなんでしょうか?」
ヒコマロ先輩は不意に箸を置く。
「新人くん。君はこの世界をなめているのかい? ここ地下都市<東京>は常に食糧問題を抱えているんだよ。そんな贅沢な話あるわけないだろ」
「ヒコマロ先輩」
「なんだね、新人くん」
「主宰の真似、続ける感じですか?」
「ぐふっ!!」
赤面し咳き込み出すヒコマロ先輩。僕はまた先輩の地雷を踏んでしまったようだ……。だが、言い訳をさせてもらうとすると、意外にも再現度の高い先輩の主宰のモノマネをされながら、話を続けていると自分の思考を覗かれているようで、自分が思っている以上のストレスと嫌悪を抱くのだ。
それになんだか窮屈に感じる。
「別にヒコマロ先輩がどうしてもその主宰の寄せたキャラクターでいくつもりなら、僕は年功序列からいって先輩に従うまでなんで、どちらでもいいんですけど……」
「やめます。やめさせていただきます……はい」急にテンションが急降下してしまったようで先ほどまでとは打って変わって、興奮していた声音と先輩を包むオーラが徐々に冷たくなっていく。このままでは先輩の乗った電車が<急行・東京寄りの地獄行き。ただし到着時刻は不明>になってしまう。
どうにか持ちあげなければ……。
「個人的なこと言わせてもらうと……僕はそのままの先輩の口調のほうが好きですよ。主宰と違って緊張せずにありのままの自分で、ありのままのことをおっぴろげに話すことができるっていうか……」
「そ、そこまで新人くんが言ってくれるんなら、しょうがねえなああ!!」
見る見るうちにテンションが急上昇していくヒコマロ先輩。先輩は<通勤特快・東京寄りの天国行き。ただし到着時刻は……というかもう到着しています。ちなみにこの電車は終電です>に乗車中。
「なるほどね。なるほど。もしかしてさ、お前ってさ、そういうこと気にせず言っちゃえるタイプの人間?」
「そういうことって、何ですか?」
食べ終わった定食Bプレートを横にどけ、机に身を乗り出すヒコマロ先輩。
「好きでもない女に、『この服似合ってるね』とか『髪切ったの? かわいいじゃん』とか『シャンプー変えたんだ。フローラルの香りが君の薔薇の香りと化学反応が起こってもはや天上の香りがするよ』とか言える人間かって言ってんだよ!」
突っ込みどころ満載だけど……。
「思ったことは結構素直に言う人間かもしれません。失言を多々」
ヒコマロ先輩は意地悪い笑みを浮かべ、
「へえ〜〜〜、そうやってあのリュミエールお嬢様とお近づきになったのかな?」
「まあ、最初の頃よりはよっぽど仲良くなりましたけど……たいして仲が良いってわけでは……」
「認めろよ!!」
突然、ヒコマロ先輩は大声を出し両手で机を力尽くで叩いた。
そして――なぜか泣いていた。
「どうして、泣いてるんですか?」
「俺はね、新人くん」
「……はい」
「ぶっちゃけ、この定食Bプレートよりリュミエールお嬢様の方が百倍好きだああ!!」
「や、やめてくださいって先輩。食堂の女将さんが見てますって。ガン見ですって!」
「うるせええ、このリア充がっ! お前はこのくそまずいポテトサラダでも食ってろ!」
ヒコマロ先輩は僕の食べかけの定食Bプレートの付け合せ――ポテトサラダを手づかみし、僕の口内に投げ入れる。
「喰らえっ! 絶対これ腐ってんだろって味と井戸水みたいなニオイがするポテトサラダ爆弾っ!!」
「まずっっっっっっ!!」
僕らはこれ以上食堂では話を続けられないと判断し、宿舎へと足早に移動した。
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「だいぶ、話がはずれたけど……本題入っていいかな、新人くん」
先輩の恥ずかしそうな声が下のベットから聞こえる。なんか三段ベッドで会話をするなんて新鮮だ。ちなみに僕は中段。僕がこの部屋に来て初日に、じゃんけん勝負で寝る場所は決まった。
「いいですよ、先輩」
「聞いてくれたか、主宰に。あのお嬢様の取り扱いと今後の<黒髪>の動向について」
そうか……そのことか。
「リュミエールをなぜ誘拐したのかは聞けていませんが、今後王国がこちらを攻撃しなければ<黒髪>は動かない――ようなことを話していたような気がします」
「そっかあああ」そう言いながら張り詰めた空気を吐き出すように言う先輩。「よかった。本当に。ありがとう――ヘルト」
何気に初めて先輩は僕の名前を言ってくれた。それに感謝の言葉も。きっと根は優しい人なんだろうと思った。
「いえいえ。先輩の頼み、ですから」
「またまた。俺を持ち上げても何も出ないぞ」そう嬉しそうに言う先輩。
暖かい空気が僕らを包み、僕は瞼を閉じた。こんな日々が続くことを祈って。
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まあ、そう簡単に、物事は上手く進むはずがなく――、
「戦争が近々始まるかもしれない」
そのリンの言葉で僕はここ<東京>に来て三日目の朝を迎えた。
日常回終了です




