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第16話 地下シェルターの先


 僕の精神内に存在するあのロリータ・ファッションに身を包んだあの少女が世界中のあらゆる者から嫌われる『黒の魔女』だという嘘か真実か分からない戯言のようなことに翻弄されながら、僕はヒコマロに起こされるまま宿舎の一階に存在する食堂で朝食を食べ終え、現在は午前の訓練なるものを行っていた。


 午前の訓練という名称を聞くやいなや、ラジオ体操的な何かを頭の中で想像したが、もちろん違った。まるっきり違った。午前の訓練というのは、四方をコンクリート打ちっぱなしの建物に囲われた中庭――植物が一切生えていないただの空間だが――で行われる武術指導である。


 <黒髪>に所属する戦闘員が二人のペアを作り、手合わせを行うといういかにも実戦的な内容。リンやヒコマロその他もろもろの叫び声と剣戟の響きを聞きながら、僕は僕なりの訓練を行う。


 自らの剣状突起から生み出された愛刀で、自らの身を傷つけるという――筋トレ。言い方を変えれば自傷行為。僕は心の準備を数秒した後、右手に持っている愛刀により力を入れ、上腕二頭筋周辺に斬り込みを入れる。


「あああああっ!」


 やっぱり、痛い。僕の悲鳴が耳に入ったのか、心配そうに僕をみるリン。「やってるっ、やってるっ!」とか無駄にはしゃいだことを言ってそうに口を動かしているヒコマロ。ここからでは彼らの叫び声のような大声ではなければはっきりと鮮明に彼らの声を聞き取ることは困難なので、本当にそう言ってるかどうかは分からないが。


「筋トレ、楽しそうだなっ!『英雄』新人さんよ!」


 ……やっぱり言ってた。僕はぶんぶんと力強く且つ高速に手を振るヒコマロを黙殺し、左腕の傷跡を見る。


 まあ、案の定――綺麗に再生されていた。それもより筋肉質になって。


「本当に……気持ち悪い」我ながらそう思う。「筋トレより圧倒的に効率的なのは十分分かるんだけど……これじゃあ。筋肉質になるとよもに自己嫌悪も溜まっていくって……」


 この鬼畜な筋トレプラン。考案したのはもちろん主宰である。世界一『見た目は優男、中身は鬼畜』という決め台詞を言ったら似合いそうな男。


 彼の考案した今日の筋トレプランの書かれたメモ用紙を見なおしてみる。




『英雄』くんへ


 お日柄のいい今日この頃(まあ、ここは地下だから正確な天気はわからないけどね)、『英雄』くんはお元気にしてますか。僕は最近、年のせいかおじさん臭いニオイがしてきました。なので、ニオイ消しのために高価な煙草を買って定期的に吸っているんだけど、どの程度効果があるのか、自分自身わかりません。

 だけど、先日。リンからこう言われました。

「主宰、たばこ臭いです」

 彼女の良いところはそういう一直線な物言いをすることだとね、思うけど、だから彼女を重用しているんだけど、一瞬解雇してしまおうか本気で悩みました。本当に僕は外見がイケメンなだけで、中身は子供です。むしろ幼女です。おっさんのニオイがする幼女です。

 

 こうして、日頃のうっぷんをこうして文字に起こしてストレス発散している最中だけど、本題をここらで話さないと僕はきっと文庫本できてしまいそうなくらい書けてしまいそうなので、やめとくね。


 さて、閑話休題。続けざまに本題。今日『英雄』くんがすべきことを箇条書きにして書いておくよ。


①朝食を食べること。朝食は一日の始まり、しっかり食べよう。ちなみに『英雄』くんくらいの年齢の時、僕はね、食堂で働いている女将ヨーレンに一度告白したことがあります。「私、キャベツみたいな男がタイプなの」こう言われ、振られました。


②朝の訓練。リンとヒコマロと共に食堂の隣の中庭へと向かってください。そこで『英雄』くんは筋トレを行ってください。本当はすぐに実践的な内容をやりたいんんだけど、その前に。『英雄』くんは足を早くなったほうが良いと思い、今日は我慢して筋トレに励んでください。上半身を鍛えると足は早くなります。あと走ってるときの姿勢ね。それはリンに教わってください。ああそう言えば、ここ重要なんだけど、筋トレは『英雄』くんのあの能力を使ってね。せっかくだから。それに、早々に筋トレは終わりにして『英雄』くんには、あの愛刀を握らせたいからね。


③昼食をリュミエール様のもとまで運んでください。そう言えば、朝食はリンに運ばせたからお礼言っておいてね。盗聴器から小耳に挟んだんだけど、ずいぶん昨夜リュミエール様と仲睦まじくお話してたじゃないか。案外、『英雄』くんって女たらし?そうなら、ぜひ僕に教えてください。


PS:良い香水を見つけたら、教えて下さい。


                                                                                    主宰より




 ……突っ込みどころ満載すぎて、むしろ突っ込みできない。これ読んだの二回目の今でも。


「なんか、あの人闇深そうなだなあ」率直な感想を思わず口に出す僕。


「そうさ、人生なんて、闇が深いから奥が深いんだから。まあ、自論だけどね」


 僕はその声が発せられた刹那、振り返る。


「反射神経が相変わらず良いね、『英雄』くん。だからそんな『英雄』くんの剣舞を僕は早く見てみたい!」


 僕の後ろから声をかけてきたのはあの闇の深い不快な男――主宰。


「不快は言い過ぎだよ、『英雄』くん」いつものように笑いながら言葉を発する主宰。「さて、『英雄』くん。場所を移動しようか」


「いや……僕、筋トレ中なんですけど」


「うん。でもそんなのいつだってできるでしょ。別にね、今日中にやって欲しいだけで、この時間中に、この朝の訓練中に、やって欲しいってわけじゃないんだよ」


「でも、どうして急に?」


 主宰は口を横に広げ、


「僕の気分だよ」


そう言った。




   ■■■




 僕は馬車に乗り、第三地区の<黒髪>本部へと主宰に連れられ向かった。というのも、地下都市<東京>は第一地区から第三地区と、三つに区分されており、第一地区は基本的に東京市民の居住地で、第二地区(僕が筋トレを行っていたところ)は<黒髪>戦闘員の施設、第三地区は本部が置かれ<黒髪>の事務官が住んでいる――ということらしい。ちなみに第三地区が土地面積的に一番狭く、第一地区が一番広い。


 そして今、僕は主宰先導のもと、本部の地下へつながる、これまた<東京>に存在するコンクリート打ちっぱなしである建物と同じようなコンクリート製の螺旋階段を降りていた。地下都市であるのにも関わらず地下へと下るのだから滑稽な話だ。


「何処へ行くんですか?」とこの階段を降りている最中に主宰に聞いたのだが、返答なし。きっと着けばわかるってことだろうか。


 前方を行く主宰の足音が無くなる。


「着いたよ、『英雄』くん」


 僕も主宰に追いつき、階段を降り終える。目の前に広がった光景は、何人もの<黒髪>の者たちがピッケルのようなものを使い、しきりに横一方へと掘り進めているという奇妙な光景。それもこの地下空間が奥の奥へと広がっていることから、結構な距離を、相当な年月を掛け、降り進めているのが見て取れる。


「突然だけど、『英雄』くん。王城を君は見たことがあるかい?」


「あの、小高い丘にそびえ立っている――」


「そう、あれ」主宰は嬉しそうに振り返り僕を見る。「なら、どうしてあの王城が小高い丘にたっていると、『英雄』くんは考える?」


「防衛のため、ですかね」


 実際に、山城は防衛に適していると聞いたことがある。


「でも、それって戦争があったら、でしょ?」


「まあ、そうですけど。この国って戦争はないってことですか?」


「そうだよ」主宰は即答する。「現在の王朝、サーマッカー家がここサクラティメントを攻め落としたとき以来、この国は戦争なんてものは起こっていない。また、この国の周辺サーマッカー王国が従属しているビエトロ帝国の領土であるため、他国との隣接がなく、それゆえほとんど他国との戦争が起きる可能性は少ない。いたって平和な国なんだよ。こうみえて」


 主宰は続ける。


「だから、なんで王城はこんなに防衛に徹した造りをしているんだろうってずっと僕は思ってたんだ。戦争好きな王朝では決してないし、むしろ平和バカ的なところも彼らにはあるし……」


「なら、どうして?」僕は質問する。


「ここはね、本当は僕のプライベートルームだったんだよ、僕以外立入禁止の、僕が黙考するときに使う部屋だったんだ。で、ある日。僕がいつも通り黙考しているときに、ふとねここの壁を叩いてみたんだよ。そしたら、なんか――軽いなって思ったんだよ。軽い音だなって」


「……どういうことですか?」


「それで、部下何人かに命じさせてここの壁を掘らせてみたんだよ。そしたら――また壁があった」


「壁……コンクリートの?」


「そう、コンクリートの。それに、ここ第三地区は狭く、一番王城に近い位置に存在している。ここ<東京>はもとは僕たちの先祖である先人たちが地震から自身の身を守るため、使用した地下シェルターを再利用してつくられた。平和な国の王城の意味不明な小高い丘。……これだけヒントが集まれば、もう分かるでしょ、『英雄くん』」


 僕は掘り進められている方へと指さし、



「あそこに――もう一つの地下シェルターが、ある」



「ご名答」主宰はそう言って、笑った。




話めっちゃ動いてます!

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