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工作課対応事案234状況終了 添付資料『誰も彼女がわからない』

 世界科学機構日本支部、捜査局局長室で2人の男がテレビ報道を見守っている。


 1人は武山金雄捜査局局長、もう一人は福沢祐一工作課課長である。彼らの見ているテレビはグリーンモア内でおきた特異科学事案の解決を報じ、保護対象を抱えて歩く男性職員の姿を遠巻きに映している。もっとも保護対象となった少女は上着に包まれており、容姿は見えない。

「工作課は映らんな」

「俺達は非公式部隊なんだ。テレビには出ない」


 武山の呟きに、福沢はピシャリと答えた。


 武山はテレビを消すと、事案解決に安堵したのか話を変え、福沢について述べる。


「しかしわからんもんだな。お前は特異科学使用に断固反対だったじゃないか。まさか、あの小娘に口説かれたわけでもあるまい」


 2人は旧知の仲である。よって互いの主義主張は理解していた。だからこそ福沢の工作課課長就任を、武山は驚きを持って受け止めている。


「口説かれたか…言い得て妙だな」


 福沢は不敵に笑った。


「おいおい、正気か?小娘の色気に鼻を伸ばせる年でもあるまい」

「俺は今でも、使用は反対だ。反対だからこそ、この仕事に関わった」

「だが、出世はどうする?工作課じゃ局長級にはなれんぞ」

「出世は当に諦めてるさ。これ以上は俺の器に望めまい」


 そう言って福沢がタバコに火をつける傍らで、武山の携帯が鳴る。電話はたった今テレビに映っていた現場からのようで、武山は『ご苦労さん』と労をねぎらっていたが、直ぐに険しい顔で、いくつかの指示を出した後に電話を置いた。


「現場からか?」

「あぁ…どうも今回の事案。担当していた3捜主任の規律違反が発端らしい」

「ほう…ちょっと待て、俺も電話だ」


 福沢が携帯電話を取り出すと、着信先は田中だった。


「田中か?今どこだ」

「前線本部です。これから帰還します」

「ご苦労さん。今、捜査局局長と事案解決のニュースを見ていた所だ。何があった?」


 田中は聞かれるがまま、工作課発案による作戦を決行し、事案を解決した事。そして、田所主任と保護対象の関係を説明した。


「その件はすでに局長の耳に入っている。お前何か俺に期待して、その話をしてるんじゃないのか?」

「流石は課長。ちょっと事後処理に手を貸していただきたくて…」

「世事はいい。言ってみろ」

「はい。今回保護対象となった、佐々木加奈とその母親を…田所主任個人の監督下に置くことは可能でしょうか?」


 福沢は苦い顔を浮かべた。


「…お前がそこまで考える必要はないと思うが」

「いや、ぜひお願いします。そうじゃないと…離して…苦しい」

「そこに誰かいるのか?」

「いえ、お気になさらず。それよりも、どうでしょうか?」


 福沢はチラリと対面の武山を見ると、田中にそのまま待てと言って、電話を繋いだまま目の前のテーブルに置いた。


「武山。3捜の若いのはどうするんだ?」

「処分は3捜課長と協議の上で、人事局が決定する事になるが。まぁ、どんなに甘くても主任は剥奪だろう。減給もあるかもしれん」

「懲戒免職は?」

「流石にそれは課長から止めが入るだろう。捜査局とて人員に余裕があるわけではない。主任になった程の男を手離すわけにはいかん。まぁ資料係として籍を置き、様子見だろうな」


 福沢は頬杖をついてしばらく考え込んだ後、おもむろに呟く。


「資料係なら誰と結婚しても問題ないよなぁ…」

「福沢ぁ。お前何考えてるんだ?」

「今回の事案の落としどころだよ。たった今聞いた話だが、保護対象とその田所って男、内縁の父子関係にあるそうだが、これを引き裂くのはちと不味くないか?」

「捜査課に籍を置く以上は仕方あるまい。こんな事を捜査局が認めてしまえば、いつか収拾がつかなくなるぞ」

「いや。俺が言っているのは親父の方じゃなく、娘の方だって」


 福沢は武山の元にあったリモコンを取ると、テレビのスイッチを付けた。テレビではキャスターが事案の被害を報告している。


『今回の事案では、市民17名が避難時に転倒するなどして負傷し、病院に搬送されました。また、世界科学機構の発表では、突入した武装隊員24名が特異科学により負傷したとのことです。建物の被害状況は不明ですが、消防関係者によりますと、3階部分が激しく損壊しており…』


 そう言った所で、福沢はテレビを消した。


「保護対象は7歳だそうじゃないか。7歳の子のぐずり…それでこの被害だ。今回のロボットの原料は不明だが。7歳の子に作れるのなら、さして入手困難な素材は無かったんだろう。それに、複製する事も…」

「何が言いたい?」

「またグズったら大変だって言ってんだよ。わかってんだろう?今回は7歳が保護対象だから助かった。でも、16歳になったら?20になったら…。こんな物で済めばいいよなぁ」

「この子の駄々に、父親のみならず、俺達も巻き込まれるのか?」

「今までも充分巻き込まれてきただろう?今更何を言っているんだ。ただ、今後は駄々をこねさせないぞ。その為には、特異科学への対処に精通し、保護対象との良好な関係を築ける職員が、彼女を観察する必要がある」


 武山は閉口する。福沢の考えを否定する素振りは無いが、同時に賛同するわけにもいかないと言った様子だ。それを見て福沢は武山に尋ねる。


「何が必要なんだ?」


 それを聞いて武山はようやく口を開く。


「根拠だ。理事会、審査会を納得させることが出来て、統合部公認の父子関係を築かせるだけの根拠。上が納得済みなら、捜査局内から異論は出まいし、後々追及を受ける事もあるまい」

「根拠ね…。こういうのはどうだ?保護された対象には必ず、心理スケールを受ける事になるだろう?その時に情動不安定という結果が出て、どうもこの保護対象は父親の不在に強い危機感を持っているとなったら…」

「まぁ心理学的根拠によるものなら、審査会は了承するだろう。連中、政治は出来ても数字にはからっきし弱いからな。だが、理事会はどうする?」

「我らが支部長にお願いしよう」


 武山は苦々しい顔作る。


「おいおい。俺にあの小娘に借りを作れと言うのか?」

「借りならもう作っているだろう。工作課は確かに、本事案解決に貢献したぞ」

「お前が小娘の手先?冗談言うなよ?」

「残念ながら俺らはもう巻き込まれているんだよ。だが面倒な理事会の説得は、あの女に押し付けよう。年上2人に苦労かけたんだ、それくらいしてもらうさ」

「よくやるよ。お前は。まぁ、工作課とは今後とも頼むよ。お前の課長就任と今回の事案で、工作課が有用である事は、理解できたさ」


 武山が表情を緩めると、福沢は再び携帯を耳に当てる。


「聞いていたか?何とかなりそうだぞ」

「ありがとうございます。課長。命の恩人です」

「大げさな。報告書は明日でいいぞ。直帰してよし。お疲れさん」


 田中はそう声をかけられ電話が切られると、携帯端末を懐に仕舞った。


「中村さん。これでいいですか?」


 先ほどから田中の胸ぐらに、中村が無言で掴みかかっている。


 田中は本来、捜査課の職員の今後について関わる必要のない立場ではあったが、作戦中不味いことを口走っていた。


『田所主任。私達の目的は、本事案の解決です。その為に、あらゆる努力を惜しむなと、課長の福沢からきつく言い使っております。私もその所存です。例えどのような事情があれど、私は責任者にとって最良の結果をお約束します。ですので、ここは私を信用してください』


 この発言はしっかり中村の耳にも届いていた。約束した以上、田中は最良の結果を田所にもたらさねばならない。そうでないと殴られる。


「まぁいいわ。取りあえず、あの子の希望には添うんだから」

「随分と媚びますね?」


 田中は中村が急に態度を豹変させた理由がわからなかった。結局は中村が田所の背を押す形で事案が解決したが、彼女の普段の思考回路からすると意外過ぎる程意外な結末だった。


「あれだけ懐かれた以上、田所に選択の余地は無いわ。人の上に立つ人間は、責務を果たさなければならない。何を犠牲にしてもね。…それよりも、田中君。あなたも私をおちょくった責任を取って貰うわよ」

「え?」


 田中が疑問を呈する前に、中村の左の拳が田中の鼻づらに突き刺さった。冗談でも何でもない本気の一撃。田中は口の中に鉄の味が広がるのを感じ、鼻を押さえていた手の平を見ると鮮血が広がっていた。殴られた衝撃で鼻の粘膜が切れたらしい。


 そして、怯えた眼で中村を見る。


「…どうして」

「嘘をついたから。あなた、安全装置かけていたでしょう?」


 その言葉に田中には心当たりがあった。中村にショットガンを向けた時、何かの拍子で誤射しないよう予め安全装置を掛けていたのだ。


「あなたの決意には感心したわ。おかげでより良い形で、田所に落とし前を付けられたもの…でもあなたは、まだ徹しきれていない。次は本気でやる事」


 次が無いようにして下さいと田中が言う前に、中村は構わず自分のバイクの元に向かう。そして、白煙と爆音を残して、あっという間にその場から居なくなってしまった。100キロは優に超えている。


「おいおい。あのスピードで、現場に到着したわけじゃないよなぁ…」


 そう青い顔で道路の先を見る田中の携帯が鳴り響く。


 福沢からだった。


「疲れているところすまん。神奈川県警から道交法違反について問い合わせが来ている。機構に登録されているオートバイが時速100キロ以上超過した上に、信号無視と追い抜きを繰り返したそうだ。件数が多いから、俺だけでは対応できん。ちょっと戻って、手伝ってくれ」


 田中はそれに気の無いイエスを告げると、ポケットに携帯をしまう。責任を取るべき人間は、同じ速度で何処かに行ってしまった。恐らく、中村は今までの問題行動と同様に全く気にしていないのだろう。怪物にしてみれば、道交法など細事の一つに過ぎないのかもしれない。


 田中はため息をつくと、同じようにため息をつく男の声に気が付いた。車に向かいながら、首だけそちらに向ける。


「しかし恐ろしい女だったな~。ちょっと顔を見たら、いきなりタバコ押し付けて来たんだぜ?見てよ、これ」


 白衣を着た男が袖をまくり、やけどの跡を同僚に見せていた。


「そりゃ、あんなひどい傷をジロジロ見れば…」

「いやいや。美人だから見とれたんだよ!あの女にもそう言ったさ!それなのに、これだ!わけがわからん」


 田中は視線を前に戻した。


「…まったくだ。何もわからん」


 田中は自分にしか聞こえない声でそう同意すると、ハンカチで鼻血を拭った。


<了>


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