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会合

自由都市サカイの大通りに面したとある屋敷の主人はここ最近急激に人付き合いが良くなりだした。ある日の朝早い時間、そこに多くの馬車が馬と護衛に導かれ、独特の化粧を施した貴族たちが険しい顔で屋敷へと吸い込まれていく。

奥に長く作られた細長い部屋には身なりを整えた男たちが詰めかけていた。席はすべて埋まっていた。表情は暗い。少なくとも楽しげな顔をするものは一人としていない。実質的な作業をすべて下の者に任せることのできる彼らが直接出向いてきたのは、彼らの商売の被害があまりにも大きくなり始めているからだった。そうなれば、舵どりを決めるのは彼らの役目だった。

控えめに職人の芸術的センスがちりばめられたその部屋の上座に座った老紳士はその光景に満足すると、背後の窓から朝の日差しを浴びながら立ち上がった。手に便箋を持っている。

「昨日、ちょうど我がキシュウに郵便が届いた。それによるとイースタルへ向かっていたユリウス号はセキュワ沖で襲撃を受けたようだ」

しんと部屋が静まり返った。ユリウス号は順当にいけば今頃イースタルの港に到着しているはずの船だ。静寂の空気は老紳士へ痛いほど次の言葉を要求していた。

「今月に入って十数件目だ。沈没こそしていないが、それ故にセキュワには多くの水夫たちが取り残されている。今後は彼らをどうするかも考えねばならん」

エステバン侯爵が患者に病状を宣告する医師のように言った。自分は何の感傷も抱いてないかのようだ。老年の肉体はそれを若さと引き換えに得たと主張していた。

「水軍がかの海域に軍艦を派遣したという話でしたが……。彼らはどうしたのでしょう?」

「その水軍が手も足もでぬほど手痛い目にあったということだ。今は、ふん、セキュワの防備に手を貸しているという話らしい」

「水軍にはほとほと失望した。連中はまだなんのかんのと言い訳をしているが」

口々にテーブルのあちこちで声があがる。ウェストランデの貴族階級がそうであるように、軍人への評価は低い。今度の騒ぎはそうして偏見をぴったり肯定するかのような事件だったから、批判の種には困らなかった。

「こうなれば一刻も早く冒険者たちにセキュワの解放を要求せねばなりませんな」

自分の存在を誇示するために、悪口を言いあっていた貴族の一人がそんなことを口にした。周りの者たちが首肯する。

「そうもいかんのだよ、君」

エステバン候が秘め事を明かすように言った。

「なんですと?」

その貴族は街角で突然冷水を浴びせられたような顔をして聞き返した。同調していた者も怪訝にしている。

「此度の事件はあくまで水軍が解決する、という腹積もりのようだ」

「なんと……」

「にもかかわらず水軍連中はのんきに演習などを冒険者に持ちかけるなどして、よほど新兵器に目がないご様子。まるで玩具を目にした幼子のような有様」

「どうだろうか。マルヴェス卿はイースタル航路の不運にもかかわらず水軍と昵懇じっこんであられる。ナインテイル航路を彼らに守らせているのではありませんか?」

誰かがそんなことを言った。演習もその一環だろうというわけだ。さらに、エステバンがその情報に一言付け加えた。

「最近、サイキョウへ向けて兵団の軍事輸送業務を丸ごと委託されたという話だ」

「忌々しい」

エステバン候のすぐ近くにいた壮年の貴族が毒づいた。ただ、実際よりよほど老けて見える顔には疲労が影を落としている。彼はさらに続けた。

「マルヴェスに抗議すべきだ」

「ミシェッド、それはできん」

「なぜだ!被害を受けるのは奴らの船でもあるんだぞ!」

「演習うんぬんという話はもとは水軍から出た話なのだ」

「んな……」

「セキュワでのことがあるからな。埋め合わせに必死なんだろう」

会合のほとんどが悪夢か高熱か頭痛にうなされたような騒ぎになった。

五月革命――大災害以来、冒険者にも大地人にも大きな変化が訪れていたが、貴族にとって五月革命は不幸の連続だった。外国との貿易は途絶え、モンスターの被害が増えた。冒険者は突然のように現れ、強大な力を背景に自分たちを、自分たちの権力を脅かしている。このままではなんだかわからないうちに没落への階段を転げ落ちるのかもしれないと思っているのだ。

「噂に聞くところによれば」

エステバンの声が変わらずに響く。

「ディアノーグという船が一目散にセキュワ沖を抜ける腹積もりだったようだ。セキュワには寄らんということらしい。まあ、今までの船はセキュワへの入港中に襲われているわけだが」

「まさかそれで夜通しで航海を?」

「幸いにして、派遣された冒険者たちが現場に間に合い、大事には至らなかったということだが。キシュウにも冒険者がおる。彼らが教えてくれたよ」

「結局失敗した、と?」

「無茶苦茶だ、やはり奴らの業務を監督する仕組みを作らねばダメだ!冒険者が駆けつけたところで、今のままでは奴の言いなりだぞ!」

ミシェッドが強迫するように叫んだ。それでもエステバンは変わらない。相変わらずの平静そのものの態度を維持した。

「難しいな。マルヴェス卿は大口の契約を抱えている。冒険者への融資やらで疲弊している我々とは違う。簡単に要求を呑むまい。同じ負担でも私たちのほうがダメージは大きい」

「ならば」

「我々で船を動かすしかない。奴に頼らずともどうにかできることを示すのだ」

「そんなことをしてどうなる、ミシェッド。水軍との関係はマルヴェスのほうが一枚上手だぞ。それとも、冒険者と仲良くなるかね?」

「そうだ。冒険者との協力し、イニシアチブを握るのだ。今を乗り切れば、状況を改善させることができる」

「バカな!奴らは第二のイズモ騎士団になるといいながら、大量の資金を吸い取っているではないですか!あまつさえ貴方は、これ以上の金を払ってでも冒険者と昵懇になろうとする!」

ついに耐え兼ねた下座の貴族が言い返した。彼もまた強迫観念に襲われていた。いかにも表情に余裕がない。

「言葉を抑えたまえ、君」

「失礼いたしました、エステバン候。ですが!」

「すでに近畿オウジョウ地方で彼らの活躍は認められているのではないかね?冒険者の持つ技術は、同じだけの金をかけても手に入れられん代物では?少なくともマルヴェスは持っていない」

「ダメだ、ミシェッド」

「なに?」

「我々は財政的に疲弊している。クエストという形でもなんでも、契約を結んだとしたらいくらになる?それに、ミナミの同族たちが見過ごしておくかね?」

「マルヴェスが冒険者にいい顔をしないのは彼らも知っている。もっと円滑に協力できる相手が欲しくなるはずだ」

ミシェッドが自信ありげにそう断言した。また不信そうに下級貴族が尋ねる。

「ミシェッド候、それだけ聞けばもっともらしく聞こえますが、本当にそれほど順調にいくのですかな?冒険者が私らの期待に沿うと?」

「君は見る目がないのだな、ん?彼らはナカスやキヨスまで騎士団を送っているではないか。その時には船も使っている。彼らの生み出すアイテムは所詮芸術品で、量産はできん。大規模なことをするにはぜひとも我々が必要なのだ」

ミシェッドがやりこめるように言い連ねた。たたみかけるように言葉を続けようとする。そのとき、エステバンが息子を諭す父親のように遮った。

「マルヴェス卿は冒険者への多額の融資が気に入らんのだ、ミシェッド。我々も。そうだな?元老院と結びつきを深めているというではないか。今まで通り、貴族院として団結しておくべきだ。奴らは有用かもしれんが、危険だ」

説得する語調には抑圧する意思がこもっていた。ことごとく自説が壁に突き当たって、ミシェッドは顔を歪めた。こらえられない嘲りが顔に出ていた。

「本気なのか、エステバン?それでは――」



ミシェッド家はウェストランデに名の知れた酒造商人の貴族だった。いや、もちろん今でもそうだ。斎宮院への献上もしているほどの高級酒から、酒場に卸されるような安い酒まで手広く扱っている。

酒は腐る。白く濁って、商品として扱ってはもらえず、その場合には彼らが責任を取らなければならない。スピーディな作業を求めているのだ。

ウェストランデ廻船とはそもそも相性が悪かった。能率が悪く、雑多な荷を積み込むために重い酒樽は真っ先に船倉へと納めなければならないが、他の貨物が到着するまでいつまでも港で待たされる。嵐の時には上に積んだ軽い荷物を捨ててバランスをとるが、酒樽はほとんどいつも無事。損害は皆で平等に負担。そうしているうちに酒が腐って、酒屋への被害がどんどん増える。今回の襲撃騒動で今までの歪みが強烈に顕在化しているのだった。

(もうダメだ。これ以上マルヴェスやエステバンに付き合う意味はない……が、すぐに連中のくびきから逃れられるわけでもない)

オルデンは会議室から屋敷を出る道すがら頭を悩ませていた。動機としてはもうすでに十分な理由がある。というか、昔からチャンスをうかがっていた。

屋敷を出ると護衛たちと馬車が待ち構えていた。屋敷には多くの馬が繋がれているが、その中でも最上位に位置する良馬だ。彼の位からすれば当然でもある。主人が見えるころには護衛や従者たちは姿勢を正し、馬車の用意も済んでいた。

護衛の一人が扉を開けた。乗り込むために一歩踏み出したその時だった。

突然空が陰った。すぐに日が差し込む。反射的に顔を挙げた。鳥のように移動していたあれは――

「ありゃ飛竜ワイバーンだ!こいつぁえらいこっちゃ!」

好奇心に襲われて顔をあげた護衛の一人が訛りをむき出しで声を上げた。大通りの大地人も不安そうにざわつき、空を見上げる。しかし、ミシェッドにはそれに見覚えがあった。尻尾には目印となる純白の旗が尾羽のようにくくりつけられていた。

あの五月革命が始まって2、3週間かしたころ、彼奴らが飛んできたのだ、とオルデン・ミシェッド侯爵は記憶を掘り返していた。私はなぜかそれに随分と心躍ったものだが――現実を知ると想像したほど万能の存在でもないらしい。まあ、古来種よりは気楽に付き合えるようだ。

自分で都合のいいように商品を運ぶ、そのために新たに海運業を立ち上げる。家を継いでより一層その目的に向けて邁進してきた。

最初は素直に水軍に自らの子飼いをつくろうとしていた。彼ら軍人は自分たちの価値を訴え続けていたから、さほど難しいことでもない。まさにオルデンに必要とされたのだから、ここぞとばかりに飛びつく者が大勢いた。マルヴェスやその派閥にくみする者ばかりではなかったから、それは当然だった。

だがその多くは落ち目の貴族将校や何とか艦長になろうと野心を燃やす平民や商人の子弟たちだった。

仕方なく、その中から有能そうな者を汲み取り、地位を与えて内部で成長するのを待った。そして、期待に応える者がいたのだ。問題があるとすれば彼が平民だったことだ。大多数の貴族将校にとって、平民を士官にしてやるのは位の高い雑用係にするためにすぎない。水軍内部の反発は激しかった。今でも手ごまの多くは低い地位、弱い立場に留め置かれている。汚れ仕事を優先的に押し付けられるために各人の力量は高めだが、あまり装備はよくない。それに実力が高いとはいえ良い待遇に置かれていないためにそれすらもあまり発揮できていない。

考え事をしているうちに、飛竜にまたがった冒険者は東のはずれで見えなくなった。あそこへ降りたのだろう。

オルデンは色めき立つ護衛たちに、誰にともなく答えてやった。周りの者にも聞こえるように多少声を張り上げて。

「あのワイバーンは冒険者のものだな!ふむ。実に見事だな」

オルデンは護衛や従者たちの表情を確認した。落ち着きが戻っている。侯爵の供にはあるまじきといえる反応であったが、よしとしなければなるまい。まだまだ彼らは見慣れぬ存在だ。そう思い馬車に乗り込んだ。護衛の戦士たちが周囲を囲む。

冒険者と手を組むしかない。彼らなら話しようがあるはずだと、オルデンは確信していた。マルヴェスに口出しをやめさせるような何かを手に入れられれば。



セキュワの港湾はまれに見る活気に満ち溢れていた。最大の理由はもちろん、冒険者の到着だ。彼らの話はディアノーグ号の水夫たちが酒場で触れ回ったり、火の番をしていた街の男たちが食卓や井戸端会議に持ち込んだりしてあっという間に広がったのだ。おかげで冒険者を一目見ようという野次馬根性に溢れた大地人が押しかけていた。その数は減る気配を見せていなかった。

「うぇぇ、すっげえ数!向こうまでいるぜ!」

「まじだぜ、おいアントンも見ろって!」

船縁からピョンピョン飛び跳ねてはしゃいでいるシーザやベルタに、アントンは積荷を背にへばっていた。滑車が積荷を吊り上げようと立てている音も煩わしそうに顔をしかめていた。

「ははっ、暇人の群れ見て何が楽しいんだ。朝から働きづめで疲れてんだよ、さぼらせ……」

「たりはしねえよアンポンタン!おまえらは目を離しゃあさぼりやがって!きりきり働け莫迦野郎ども!」

いいっ、とうめき声を発してシーザとベルタが固まった。座り込んで余裕のあるアントンが言った。

「いえ、水夫長。俺ら朝飯を食ったばっかで動けな」

「く・ち・ご・た・え・す・ん・の・か、あ?」

「ははっ……すんませんすぐ行きやす」

アントンは荷箱を持って立ちあがった。他の二人も自分の荷物を探しに行こうとするそぶりを見せる。

「ああ、お前ら。もう荷降ろしは他の奴らに任せとけ。お前らは陸に行って倉庫に運ぶ手伝いをしろ」

三人は子供らしい返事をして駆け出していった。水夫長はその背中をにらみ続けた。三人は面白いようにスピードアップして船から降りていった。

「ちっ、いっつもいっつも……」

水夫長の口から愚痴が漏れた。何かを探すかのようにあたりを見回す。水夫長はいらだっていた。

「お困りなんですか、水夫長!」

水夫長の肩に威勢の良い女声がかかった。水夫長にはそれが誰か分かっていた。昨夜からディアノーグについてくれている冒険者のリーダーであるシルキィだ。

「ああいや、こいつぁどうも、シルキィさん」

水夫長は後頭部に手を当て、顎を突き出すように頭を下げた。水夫長はこの冒険者が苦手だった。船の男どもが束になってでも敵わないような超人であることもそうだが、それだけが理由ではない。船に来た冒険者はほとんどがばかに丁寧な連中だった。女性なのに快活で力仕事にも汚れ仕事にも積極的。男勝りで、本当にその辺の男どもより優秀なのが嫌なところだ。やりづれぇ。

「坊主どもの尻を叩いてるだけでさ、特に何ってねえんですが……どうかしたんですかい?」

「船長さんたちを探してるんですが、どこにも見当たりませんでしてね!ちょっと困ってたんですよ」

「ああ、そういうことで。もしかしたら、陸に上がってんのかもしんねえです。先方と積荷について話をしてんのかも」

「そうですか……その場所とか、知ってたりします?」

水夫長は困り顔に精一杯の愛想笑いを張りつけた。後頭部がかゆくなってきた。

「いや~どうですかね。すんません」

旅館とか飲み屋の場所は知ってんですがね、とは、言わなくてもいいか。



「やたらめったら集まってるな」

ニョルズから港を眺めながらバレンツが言った。なんだろう、テレビで見たビートルズの来日みたいだ。さすがに手まではふってないが、アトラクションに並ぶ子供のように目を輝かせてニョルズを見物している。今日はもうそういう日のようだ。仕事を放ってきたものも多いだろう。

バレンツたちはすでに仕事のほとんどを終わらせていた。ヤルタ艦長を訪れた際にもちかけた物資融通の件は日の出から始め、先ほどまで続けていたのだ。船長たちには水軍からの仕事を斡旋したような形だ。ディアノーグ号はすでにいつも通り、平常運転の仕事に入っていた。朝が終わればシルキィと氷雨が合流し、街での活動を始めることになる。そうなる前にバレンツと氷雨は最後に朝食ついでの打ち合わせをしていた。

「バレンツ。あなた、昨日のことは覚えてる?」

朝のサンドイッチを食べていた氷雨がそう話しかけてきた。

「昨日のいつだ?」

「水軍を訪問したとき」

「ああ!……あの艦長か」

「そう。お世辞にも、任務ははかどってないし、まあそれは、私たちがこっちに来た時点で、分かってることだけど」

「そうだ。それにお前が質問したとき」

「うん。住民の話になると、露骨に不機嫌になった」

バレンツはもう一度港へ視線をやった。思えば、街があんな調子だから探索組が上陸するのをためらっているのだ。

「彼らとうまくいっていないのか」

「当然だと思う。街に灯されている大量のかがり火。加えて船が襲われても助けに行かない」

「物資提供の申し入れを受け入れたあたり、需品の確保にも相当まいってるな」

「そうだね……水軍への風当たりは厳しい。だからこそのあの制約なんだろうけど」

「問題を解決するのは水軍だってやつだな」

氷雨がこくっとうなずきを返した。

「パワーレベリングとか、実戦指導とか、模擬戦闘をやって、それでリザードマンを倒させることができても、信用させるのは難しいと思う」

「だろうが、倒せるようになれば水軍が自力で交易船を救援をできるようになる」

「水軍が自分で解決したことにはならないし、あんなのがこれから現れるか……」

心底疑わし気に氷雨がつぶやいた。

「要は問題解決の手柄を譲ってやれってクエストだろ?」

「今はゲーム時代とは違う。クエストにくる前に聞いたようだと、いくらか彼らに箔がつくようにしないと」

その時バレンツがサッと手をあげて会話を止めた。もう片方を耳にやっている。念話だ。

「シルキィか、どうだった」

「だめだったよ、バレンツ。どうやら船から降りてしまったようだ」

「街の方へ?」

「無論。どうやらセキュワにいる商人と話をしに行ったらしいが」

大きく息を吐いた。人によってはため息を吐いたともとれるだろう。

「そうか。わかった、そろそろ行動開始といきたい。後は氷雨たちに任せるから、陸で合流してくれ」

アイアイサーと冗談めかした返事をして念話は切れた。氷雨に振り返り、言った。

「そういうことだ、氷雨。街へ行く準備をしてくれ。俺達は島へ行く」

「……わかった、そっちもあなたに任せるから、良いようにして」

任せろ、とバレンツは請け負った。どっちにしろ氷雨自身に良い解決法が秘められている訳でもない。あくまで大地人次第なのだ。


「あいさつが遅れてすみません、デボンさん。」

船長が露骨にへりくだって言った。普段荒れた言葉づかいの人間が敬語を使った時の嫌悪感を沸き立たせるへつらい方だった。

「冒険者がたへの礼をしていまして。それにお訪ねするにも夜分遅くで、それで」

「どういうつもりなのだ?」

「へぇっ!どう、とは……?」

いかにも恐る恐る船長が尋ねた。事務長はマネキンのように固まって正座をしていた。

「どういうつもりだと聞いておるのだ!水軍なぞに勝手に商品を運び入れるのが礼だってのか!ええ!?」

「い、いいえ滅相もない!決してそうでは……」

「お前さんらは一攫千金の機会をどぶに捨てやがったんだ。あれを闇市にまわしゃあどんだけの値がつくと思ってんだ」

「やあ、しかし、冒険者方への義理というか、そういうのがありまして、それに!代金の方も決して悪くはありませんので!な、事務長!」

船長はばんばんと事務長の背中をたたいて反応を促した。もごもごと事務長が相槌を打った。

「はんっ!世事を知らねえからだそう言えんだ、ぼんくら!冒険者に丸め込まれでもしたんだろ」

そう決めつけるデボンに何かと弁明しようと船長が口を開きかけた。が、横目でひと睨みされるとたちまち意気消沈してしまった。

「ちっ、冒険者め。何か企んでやがんだ、連中!」

「ど、どういうわけで……」

声を出すのも苦しげだが、相槌を打たないのも恐ろしかったらしい。その船長をじっと見つめながらデボンが言った。

「お前らには関係ないことだ。船長!また借金漬けになりたくないなら、冒険者が何をしているのか教えるんだ、いいな!」

大慌てでぺこぺこと頭を下げる二人を尻目にデボンは頭を抱えていた。

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