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記憶から抹消しろと言われても

「何だ、お前がどうしてこんなところにいる? 」

「今日は誰も帰って来ないから心配で……他の方に()いたら、偕人さん達はここじゃないかと……。それに大和さんも今日くらいは休まれた方がよかったのに。……ここのところ、日暮れが早くなってきたから、余計に心細くて……」


 あやめが(うつむ)きがちにそう言った時、収蔵庫全体が小刻みに揺れ始め、壁や天井が軋みを上げながら鳴った。

「地震ですか……? 」

 要が天井辺りに目を上げた時、偕人がその言葉を打ち消した。


「違う。『巫女の神呼び』だ」

 瞬間、偕人があやめに向かって狭い室内を走った。

「お前の行動を制約するつもりは無いが、ここには来るなと一言言っておくべきだった! 」

 扉近くの棚の中に収められていた木箱が、内側から目を(くら)ませるほど発光し、一気に砕け散った。

 四方に飛散したその破片から偕人が身を(てい)してあやめを(かば)った。

「偕人さん……! 」

「あのな……お前、迷惑過ぎるだろ」

 粉々になった木箱の破片がばらけながら落下していくのと同時に、脱力しつつ偕人が言った。


「え? え? 」

 あやめが状況を理解出来ず、狼狽しながら偕人の顔を見つめた。


「お前自身が引き金になって、その気が無くても古いものに入れられたままの、神域の連中が出てきちまうんだよ! 良い奴らもその逆もな! この国は八百万(やおよろず)の神の国……自分が常に奇跡と厄災(やくさい)の背中合わせだってことを頼むから自覚してくれ。これでは俺の身体がもたん」


「えええええ!!!! 」

「おい……何だ、その反応は」

「そんなことは今、初めて聞きましたよ! そんな凄い力があったんですか、私に! 」

「はあ?! だから、風丸(あいつ)だって勾玉(まがたま)から出ただろ! 」


 偕人が閉まりかかった扉の隙間から、窮屈(きゅうくつ)そうに入ってこようとしている風丸を指差し、切れながらそう言い掛けた時、

「……自分が察するに、姫巫女様に詳しい事情を、何もご説明されていなかったように見えるのですが」

 背後からの冷静そのものな、要の言葉により、偕人の眼があからさまに宙を泳いだ。

「あ……」

「何なんですか、その反応! 」


「今後のことを考えあぐねているうちに、色々と考えること自体が段々面倒臭くなってきて、お前に話すのをすっかり……」

「どうして何時もそういい加減なんですか! 」

「うるさいな! 俺は考えることが多くて忙しいんだよ! それにいざとなれば俺が……いや、そんなことはどうでもいい」


「……? そういえば姫巫女って、今……? じゃあ、要さんも……」

 あやめが要の方を見ると、当の要は困惑気味に独り、宙の一点を見つめていた。

「今は自分の事よりも、こちらを気にされた方がよいのではないでしょうか」

 要の視線の先には、火色ひいろの球体がふわりと浮かんでいた。


 凶兆の荒魂あらみたまか、幸運の(あら)われの和魂にぎみたまかの判別がつかぬ、光る球体はそこに居合わせた全員を見回すように、ゆっくりと浮いたまま移動していたが、丁度その時、扉の隙間からようやく抜け出た風丸が、目ざとくそれを見つけ無邪気にじゃれつくように飛び掛かった。


「あっ! 風丸、駄目! 」

 あやめが止める間も無く、風丸の鼻先が球体に接触しかけた時、光の塊がそれを避けるように、収蔵品の数々を引っ掻き回しながらめまぐるしく飛び、最後に窓へと衝突して、そこに()め込まれていた硝子を粉々にして破りながら、外へと飛び出してあっという間に見えなくなった。

 ぽかんとした一同の中、一番先に我に返ったあやめが叫んだ。


「ええええ!!! 今、なんかすっ飛んで外へ出てっちゃいましたよ!!! あれ、神様か何かだったんですよね?! 」

「……知らん、もう忘れとけ。そして記憶から完全に抹消しろ。いいか、俺達は何も見なかった、今日は何も起こっちゃいない! それでいいんだ! だからもう忘れろ! 」

 青ざめた偕人が動揺を抑えながら言った。


「忘れろって、それでいいわけ……」

「大体、お前があの犬っころに好き勝手ばかりさせて、(しつ)けがなってねえから、こういうことになるんだろうが! 」

「だっ、だって、ど、ど、どうしよう、こんなことになるなんて!!! あああああ! 」

「姫巫女様、落ち着いて下さい。まだあれが悪しき物の怪の類いであると決まったわけではありません」

「……要、お前、年に似合わず冷静だな。何でそう達観出来るんだよ」


 偕人がげんなりしながら言い、それから思い直したように、更に言葉を続けた。

「外に出ていった以上は、神様(あいつら)はどうせそう簡単には見つからん。だからもういい……それより今はやることが他にある。だから他のことは後回しだ」


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