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夕暮れ時の風景

「で、偕人さんはかくかくしかじかな理由で、こちらの上條要さんをお連れしてきた、と? 」

 玄関口で出迎えに出たあやめが言った。

 廊下の奥の部屋からは夕餉(ゆうげ)の温かな献立の匂いが漂ってくる。


「そうだが、何か問題でもあるか? 」

「それは別にいいんですけど、偕人さんの晩御飯は無くなりますからね。その分を要さんに召し上がっていただきますから。そこの駅前にある屋台の焼き鳥屋さんにでも行かれるといいですよ、おひとりで」

 向けられた哀しい通告に偕人が即座に顔色を失くしたが、あやめがくすりと笑って続けた。


「何でも真に受けなくても大丈夫ですよ。一人分くらい、皆のおかずを少しずつ減らして分け合えば(まかな)えるし平気ですから! 代わりに足りない分は、少し多めに玄米ご飯を食べておいて下さいね」

「俺をからかうなよ。本気にするだろうが! 」

 偕人がしかめっ面で言った。

 その時、要がぼんやりとあやめを見ながら言った。

「迷惑ではないですか? こうやって見ず知らずの自分が突然来たりして……」

「え?! どうしてですか? 」


 その時、廊下の奥から風丸が尻尾(しっぽ)を激しく振りながら、要の足元にじゃれついてきた。

 その余りの熱烈歓迎ぶりを前に、偕人が不機嫌そうな表情でしゃがみこんで風丸の後ろ足を掴んだ。

「……お前、俺の時と露骨に態度が違うな? 」

 風丸が嫌そうに振り払おうとするが、更に偕人が足を引っ張った。

「そうやって子供がするみたいに、足や尻尾を引っ張ったりするから、風丸が嫌がるんですよ。離してあげて下さい! 」

「俺はこいつを(しつ)けてやるんだよ! 」

「躾け以前に、犬や狼は序列を気にしますからねー」

 背後から呑気な声がして、要だけが振り返った。

「……! 」


 一方、偕人とあやめは風丸を挟んだまま、まだ互いに向かい合ったままだ。

「……お前も、たまには玄関から入ってくるんだな」

「偕人さん、そこは感心するところじゃないと思います」

 そこまで言い掛けて、お帰りなさいと言う為に、あやめが振り返った瞬間に思わず息を呑んだ。

「人恋しいんで、早く人がいるところに来たかったんですよーだから声がした玄関(こっち)に来てしまいましたー」


 三人の中で最後に偕人が嫌そうに振り返った瞬間、そこに立っていた大和の(ゆる)い口調とは真逆な『尋常ならざるその姿』に絶句する。

「おい……お前のその姿(なり)はなんだ」

「今日は、ちょっと殺伐とした現場で大変なことになりましてー」

 返り血を大量に浴びた壮絶な姿の大和がそう言った瞬間、我に返ったあやめが思わずかん高い悲鳴をあげ、奪還した風丸を抱き、血相を変えながら家の中へ逃げ込んでいった。


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