揺るぎない意志の為に
―二週間後。
「随分、ここには多くのものが集まっているんですね。想像以上でした」
収蔵庫の一角で、まだ赴任してきて間もない、同僚、上條要が周囲の棚を見回しながら感心したように呟いた。
「時流に見事に逆行してるだろ? 今じゃここにあるものはどれもが、殆どの人間の間じゃ、既にガラクタ同然的な扱いだからな」
皮肉げに偕人が返す。
室内に整然と並べられた棚の中には古書及び遺跡関係の大量の出土物が、隙間が無い程ひしめきあった状態で収められている。
「そうかもしれませんが……」
「否定しないんだな。俺は内心はこういうものを近代化を振りかざして、簡単に捨て去ろうとすることには同意は出来ないんだが」
「……」
偕人は棚に背を預けると、要に訊いた。
「で、改めて本題に入ろうかと思うが、お前も俺を監視しに来たのか? 偽名まで使って」
「……! 」
「何だ、当たりか。だったら、もう少し上手く隠すなりなんなりしておけ」
「……」
要が言うべき言葉を失ったように、偕人を見た。
「分かっていながら、僕を排除しようとはなさらないんですね? 」
「お前をどうにかしたとしても、どうせまた次が来るだけだろ。それに俺を敬うような不愉快な喋り方はよせ」
「……」
手にしていた、紐で綴られた黒い台帳の表紙を開き、収蔵物の整理を始めながら、偕人が言った。
「結界の保持能力者で、それを根本から歪めかねないような俺は許されないとでも言いたいんだろ? 表面上は国を挙げて過去の遺物の廃棄を訴えていながら、都合が悪い部分では俺のやり方を認めたがらない。連中のやりそうな事だな」
「月城の能力者は直系にしか生まれない、という前提が崩れかけていて、礎を永続的に守るためには他に方法がありませんから……あなたに勝手をされることに難色を示される方が多いんです」
「前例が無いなら、俺が作ってやる」
「……? 」
偕人の言葉の意味を測り兼ね、要が怪訝な顔をした。
それを察した偕人が顔を上げて言った。
「この国を護ってきた結界群は最早何処も限界とも言えるような状況だ。それは間近で見てきた俺が一番よく分かっている。それで将来的にどういう状況が起ころうが、俺は感知しないつもりだったが考えが変わった。良い意味での全てを覆すようなものを必ず編み出す。だから力を貸せ。協力者は多い方がいい」
「……はい」
思わず反射的に応えた要の言葉に、偕人が苦笑した。
「そんなに簡単に安請け合いされても困るんだが? 俺の進むと決めた道は現状維持より遥かに困難なんだからな。それに……」
「……何でしょうか? 」
「俺はお前のような奴に接したことが無いから分からないんだが、何だか受け答えも存在も全てがカゲロウのようで直ぐに消えてしまいそうだな、お前……。それは問題じゃないか? 」
「……そういうことについて、自分は考えたこともありませんでした」
「俺の周りには口を縫合して黙らせたいほど、うるさい奴しかいなかったから、慣れないんだ」
「きっととても賑やかなんでしょうね。自分には想像がつきません」
要が俯き加減で言った。




