表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

俺は犯罪者じゃない

「憲兵さんに追われているなんて、これまでにどんな悪どい犯罪行為を繰り返してきたんですか? 短い間とはいえ、そんな危険極まりない人と一緒に暮らしていたなんて……」

 あやめはそう言って、不安げに顔を曇らせた。

「俺は何もしてねえ! 勝手に決めつけんな! 」

「……」

「あやめ、なんだそのものすごく嫌な感じの疑いの眼は! 誰よりも善人の俺を信じるだろ? な! 」

「無理です」

「せめて答える前に、二秒くらいは考える心の余裕を持たないか? 」

「だから、それが無理だと」


「あやめさん、一応偕人のなけなしの名誉の為に言っておくと、確かにこいつは性格は最悪に悪いが、流石に犯罪者ではないですよ」

 朔夜が見かねてため息混じりに言った。

「性格が悪いは余計だ! ふざけんなよ! お前ら! 」

「じゃあ、どうしてなんですか? ちゃんと説明してください」

 あやめがじっと見つめると、偕人は急に狼狽し、言葉に詰まった。

「それはだな……いや、あの」

「よく分かりました。やっぱり言えないような理由なんですね? 」

「だからそうじゃねえ! 」

 偕人はそう叫んでから、大和を見た。


「大和! 大体、お前がそんな姿(なり)で現れるから、余計な誤解を生むんじゃねえか! 誰のせいだと思ってんだ! 」

偕人(あなた)の普段の素行の悪さを僕のせいにされても。まぁ、実際、僕は今日は本当は非番なんですけどねー。でもこの姿の方が声を掛けた時に、皆さんが親切に色々教えてくれるんで便利なんですよ」

 そう言って近付いてきた大和が、偕人の鳩尾(みぞおち)辺りに、拳を叩き込もうとした。

 が、逆に偕人から腕を掴まれ、小手返しを食らいかけたので、僅かに退()いた。

「……」

 偕人が大和を挑むような鋭い眼差しで見据える。

 二人は(しばら)く互いに視線を逸らさず、見合ったままだったが、先に動いたのは大和の方だった。


 大和は鍛えられた胸襟(きょうきん)(うかが)わせる自分の制服の胸のポケットに手を入れると、一枚の身分証を抜き取ってそれを見た。

「ふーん、暫く行方知れずになってどうしているかと思ったら、今は女学校の教師なんかやってるんですか? 笑えるくらいに似合いませんね」

「お前! 俺の身分証、何時の間に! 」

「あなたはいつも詰めが甘いんですよ。僕の得意分野を忘れたわけじゃないでしょう? 」

 そう言って、憲兵の男は身分証を偕人に軽く投げ返した。

「憲兵様の特技がスリ行為とは聞いて呆れるな。犯罪者はどっちだ」

 偕人は苦々しく身分証を受け取った。


「道を外れた悪い人達を取り締まるにはそれに負けない、見合うだけの相応の能力も必要ってことですよ」

 大和は笑顔を崩さずに言った。

「それにしても教師とは最も予想外でした。どうりでこんな可愛らしいお嬢さんと一緒にいるわけだ」

 大和はそう言ってあやめに近付くと、前屈みになりながら微笑んで言った。

 カーキ色の軍装を(まと)い、同色の制帽を深く(かぶ)り、腰に細く長いサーベルを帯同した、目元が涼しげな風貌の男が見せる笑顔に、あやめは直感的に嘘くさいものを感じ、思わずじわりと後ずさりしかけた。


「大丈夫ですよ、お嬢さん。そう警戒しなくてもー。そこの朔夜が言うように、確かに偕人(こいつ)は犯罪者なんかじゃない。ただちょっと事情が事情で、特殊なだけで……僕達の一族の当主でありながら逃げ回っているので、連れ戻しにきただけですから」

「当主……? 」

「そう、偕人(こいつ)には、本来はもっとやるべきことが他にあるんですよー」

「断る! 俺は絶対あそこへは二度と帰らないと言ったはずだ! 」

「どーせそう言うだろうことも折り込み済みです。僕が歓迎されないことくらいもねー」

「もっと他にやることがって、何ですか? 」

 あやめの口にした問い掛けに、大和は目を細めた。

「それはいずれ、本人が話すでしょう。僕が言わなくとも、戻りたくなくともいずれはそうなるでしょうから」

 大和は改めて偕人を見てから、更に言葉を続けた。


「まぁ、連れ戻すと言ったのは退屈しのぎのほんの冗談です。こんな大人の男をのして引きずっていくことなど不可能だ。今日来た本来の目的は、偕人(あなた)の直近の生活を見てくるように言われたことと……それから、一番の目的はこれです」

 大和はそう言って、自分の腰にさげた細長いものを差し出した。

「先日、とある古墳から出てきた剣と、勾玉(まがたま)です。これが見つかった後から、おかしなことが繰り返し起きるようになってしまったのでー。近々僕もそこに行くつもりですが、その時に一緒に来てもらえませんか? 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ