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こーぎー&はすきー  作者: belgdol
おまけ
10/21

意外と嫉妬深いのかも

短めのお話です。

なんだろう。

だんだん七さんが重い女に…いや、まさかそんなことは。

 その日はちょっと、千代とファンの女子高生の距離が近かった。

それは手を取って、原種からの名残である分厚い手の皮の皺の相を見る、ただのお遊び。

たったそれだけの事だった。


 七と千代、2人で風呂に入って、毛を乾かして、就寝までの少しの間。

いつもなら2人差し向かいになって、お酒……そんな小洒落たものではなく、コンビニでも買えるようなカクテル系の缶や梅酒の軽い物。

 そんな物を飲みながら、お摘みにサラミやジャーキーを食べてテレビを視る。

1日を労わる時間。


 テーブルの席について観るテレビからは流行の音楽を取り上げる番組が流れて、その画面の中ではマシラビーツというニホンザル族の青年ばかりを集めたダンスグループが踊っている。

 そんな番組を見るともなしに、七は千代の膝の上にちょこんと腰掛けて、グラスの半分をドーム状に囲って、その囲った側にストローのような吸い口をつけたグラスから梅酒を飲んでいた。

 グラスの中の梅酒の量は、心なしかいつもより多い。


 普段は膝の上に乗るなんて事しない七の。


「ねぇ千代ちゃん。今日は太ももの上に座って良い?」


 という問いに、訳がわからないままに、反射的にハイ!と答えてしまった千代だが。

なぜ七が急にこんなことをするのかがわからない。

ただ、最低限の下着姿の自分の溢れた毛先に、七の柔らかい毛並みが触れていることだけは解る。


 こくこくと梅酒を飲む七に、この行動の真意を問おうと決心して口を開きかけた所で、七が先に口を開いた。


「ねぇ千代ちゃん。おつまみ食べさせて」


 千代は耳と尻尾をぴんと立ててしばらく思考した。

今耳に飛び込んできた言葉はなんだろう?


『ねぇ千代ちゃん。おつまみ食べさせて』


 どういうことだろう。

普段の七ならここから自分のペースでひょいひょい摘みをつまんでいるはずだ。

それなのに、『食べさせて』というのはどういう。


 そんな思考に支配されかかった七を、更に七は催促した。


「ねぇ千代ちゃん。おつまみ」


 促されて、白く黄色い稲穂が描かれた皿に載せられた、薄切りのサラミを七の口に運ぶ。

そして、サラミを七の顎の先端に置こうとした時、千代の指がはっきりと咥えられた。


「は、はれ?七さん?」


 慌てる千代を意に介さずに、サラミを噛みもせずに七は自らの口の中に収めた千代の指先を舌で舐る。

 その潤った感触を、指先の薄い毛並み越しと肉球の変化した分厚い皮に感じて、ドキドキする千代。

千代は考える。

何だろうかこれは、何と言われれば答えるのは容易いが、何故こうなるのかの答えが出ない。

そんな風に頭の中を真っ白にしていると、ぱっと七の口から指が開放されて、七はサラミを噛み始める。


 この段になってようやく頭がまともに回り始めた千代は、七に声をかけた。


「あの、七さん。今のは一体……」


 慎重に、さりげなくしゃぶられていた指を自らの口に含みながら聞いた千代に、七は答えた。


「千代ちゃん。昼間、お客さんの女の子に手相見てもらってたよね」

「え?ああ、そういえば見て貰いましたね。あの子占いとか好きみたいで、私に時間があるといつも朝の占い観たかどうか聞いてくるんですよね」

「あの子、千代ちゃんの手に触れてたね」

「そうですね」

「私も、触れたいなって思って……」

「思って?」

「思ってたらついつい咥えちゃった」

「七さん……」

「変な事してごめんね。その、気持ち悪かったらごめん」


 言い終えると梅酒を呷る様に飲もうとする七の手を、千代はしっかりと包み込んで止める。

そして七の持っていたコップを卓上に置く。


「どうしたの、千代ちゃん」

「七さん。お返しします」


 自分の持っていたカルピスサワーの入っていたコップもテーブルの上に置くと、千代は七の両手を持ち上げる。

 そしてその指先をカプリと甘く噛んだ。

それから、ちろりちろりと細い短毛に包まれた指を嘗め回す。

しばらくぼうっとそれを眺めていた七だったが、しばらくするとくすりと口の端を持ち上げて笑みを作った。


「あのね千代ちゃん。私の手の感触どうかな」


 七の問いかけに、しばらくぬるぬると舌を動かしていた千代がくはぁっと顎を開いて答える。


「思ったより堅いんですね、七さんの指。お料理してるからでしょうか」


 その答えに、ふすふすと小さな黒鼻から笑いを漏らしながら、七は言った。


「そうかもね。働き者の手だからね。自分で働き者って言うのもなんだけど」

「私も、七さんみたいに料理を覚えれば堅くなりますかね」

「千代ちゃんの手は意外と柔らかかったね。毛は堅かったけど、肉球は柔らかかった」

「う、この話の流れだと私あんまり働いてないという事に……」

「ふふ、ごめんごめん。働いてないとは言わないよ。でも、優しい感触の手だったね」

「七さん……」

「ねぇ千代ちゃん」

「なんです?」

「今日も一緒に寝ようね」

「はい!」


 その会話の後は、ゆっくりお酒を飲んで。

綺麗に摘みを平らげて。

順番に歯磨きをして千代の部屋で同じ布団に入って、身を寄せ合って眠りに就いた。


 これは、千代がちょっと他の女の子と近づいたから。

ちょっと七が寂しいような、不安なような気持ちを表に出した。

そんな出来事。

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