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こーぎー&はすきー  作者: belgdol
本編
1/21

事の起こり

 平正13年の獣人が人として闊歩する世界で暮らす女性、古儀居 七にはちょっとした悩みがあった。

それはこの時代、七の歳で人に相談しようものなら、いい歳してるんだから自力でなんとかしなさいと言われるような悩み。

 ちなみに彼女は頭に先端が丸い10cmほどの二等辺三角形の、茶色のショートヘアの毛と同色の毛に包まれた耳が生えていて、小造りでどこか愛嬌のある幼い顔立ちでまん丸の黒目がちな瞳に、子供の握りこぶし分くらいの突き出た顎。

 そしてその先端に着いた小さな黒い鼻。

身長は130cmちょっとしかない小さな体躯にぽわぽわの毛皮を生やし、ただ胸だけは大人の女である事を象徴するかのようにBカップある。

 自分では小さくて不満らしいが。

そして胸と同じように小さなお尻に尻尾が生えたコーギー種32歳の女性である。


 そんな彼女を悩ませていたのは蓮紀伊 千代。

髪質は少しとげとげしく、根元から肩辺りにかけてまではライトグレーだが、先端の方は白くメッシュを入れたようになっているウルフヘア。

 ちょっと子供泣かせなカッコこわいお姉さんな、大人の握りこぶし分よりちょっと長い顎が伸びる顔の特徴は眉毛のような模様の毛皮とアイスブルーの眼。

 眉のような模様は習字で筆を留めて点を作った後に払ったような、おでこの中心側がまるっとしていてこめかみに向かってちょんと飛び出た細いラインの、太くて短い眉に見えるようになっている。

 目は釣り目で鋭さを感じさせる細目を大きな目が殆どを占めていてなんだか見るものをにらまれている気分にさせる。

 そしてその身体は大きく197cm、やや筋肉質で、大きな胸や女性らしさをあらわす脂肪の乗ったまろやかな腕も、力を入れるとぴんと張り詰める。

 そんなお尻も大きな彼女にも上腕の半分くらいの尻尾も生えていて、身体を覆う毛皮はその尻尾の表と裏で黒と白に分けられる。

 彼女は表情よりも尻尾を良く動かして感情を露にする、ふっさりとした灰色の毛皮に包まれた犬耳の生えているハスキー種の23歳の女性。


 そんな彼女がなぜ七の悩みになるかと言うと。


「七さん!お見合いダメ!絶対!」

「ただの同居人の千代ちゃんに言われる筋合いはありません」

「ダメったらだめ!七さん私の事嫌いになった?嫌いになったの?」

「そうじゃないけど。私達恋人でもなんでもないんだから、そういう束縛をするのは良くないと思うの。別に結婚したら千代ちゃんをこの家から追い出すなんていうわけじゃないんだし……」

「た、たしかにまだ恋人じゃないかもしれないけど!あとは七さんが私を好きになってくれるだけでカップル成立だよ!?」

「千代ちゃん。何度も言ってるけど、私そっちの気はないの」

「……くぅ~ん……」


 このように、尻尾を丸めて大きな図体をテーブルに伏せて、自分より60cm以上小さい七の顔を見上げる、強面……のように見える毛皮模様の女。

 彼女が執拗に、普段買い物を頼むと必ず一品は買い忘れがあるくらい忘れっぽい頭をしているのに、ずっと七への愛情を示し続けるのが、古儀居 七の小さな悩みだった。




 それはある日の昼下がり、悪く言えば古臭い、よく言えば落ち着きを感じさせる木製のテーブルと椅子が並び、張り出し窓の傍には薄紫や臙脂色の造花が飾ってある木造の建物の中にて。

 店の1/3を占めるカウンターで二人はぼうっと時間を潰していた。


「七さん、七さん。二人きりですね」


 白いブラウスとタイトなジーンズというシンプルな服装の上に、桜色の店名の刺繍が入ったエプロンを身に付け、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振る千代と。


「そうね。私は二人きりは困るんだけどなぁ」


 ちょっと冷たく返す、グレーのTシャツの上に千代と揃いのエプロンを着けて黒の半ズボンを履いた七。


「なんでですか!私は嬉しいですよ!」


 愕然、といった大口を開け牙を覗かせた顔をすぐに……とは言っても千代が笑うと牙を剥いて怒っているように見えるので、子供には不評なのだが……に変える彼女に、七は淡々と教えてあげた。


「あのね千代ちゃん。私達の働いてるお店は?」

「喫茶店です!」

「そう、喫茶店。お客さんこないとどうなる?」

「……お金ない。私と七さんお腹ぺこぺこ」


 途端に尻尾がへたれ、眉尻を下げて強面の顔の眉間にしわを寄せて落ち込む。

そんな千代を元気付けるように、七はカウンター内から出て彼女の毛皮で膨らむブラウスの背中を撫でた。


「落ち込まない落ち込まない。うちは貴女のおかげで女の子に結構人気あるから。人が来るのは放課後の時間になってから」

「私?なんで女の子と私が関係あるんです?」


 キョトンとする千代に、七は彼女の周囲からの評価を伝える。


「だって貴女カッコイイって評判じゃない」

「私の事カッコイイって思います!?七さん!」


 椅子から立ち上がって振り返り、キラキラとした目で自分を見る千代を、七は何時も来てるお客さんには見せられないと思いながら、千代の発言を若干修正する。


「あ、いや、私がじゃなくてお客さんがね」

「七さんはー?」


 期待に満ち満ちた目で尻尾を振る千代を邪険にも出来ず、かといって素直に褒めると飛び掛られると感じた七は頭を悩ませた。

そして最終的に……。


「うーん。おっきい」


 非常に無難な答えを選んだのだが、千代はそんな事まるで気にしなかった。

それどころか彼女は尻尾を振り振り言うのだった。


「そうかぁ、七さんは私の事大きいって思ってるんだ。私は七さんの事小さくて可愛いって思ってます!」


 言い終わった千代は、大好きな七を持ち上げてその頭についた耳の間やシャツの襟ぐりからほっこり毛皮があふれた首筋の臭いをふんすふんすと嗅ぎだす。

 それくらいなら七も慣れたものなのだが、さすがに彼女がお尻の辺りに残る、縄張り用の臭いを出す部位まで嗅ごうとすると必死に止めた。


 一事が万事この調子で、千代はめげない。

彼女と七の付き合いは、千代が大学に入学の為にこの近辺に越してきて、三回生になったころ借りた部屋のあるアパートを取り潰してマンションにするという大家の意向で、アパートに居られなくなるようになった。

 そんな立ち退き期限までの間の家捜しの時に彼女がこの喫茶店「アーモンド」に来て、怖い顔を更に怖くしながら悩んでいるのを七が見て、相談に乗った結果だ。

 七は喫茶店に隣接する一軒家の自宅に千代を住み込みのアルバイトとして雇う事で、住居問題を解決した。

 二人はそれ以来の仲である。





 そんな彼女の前で、店じまいして自宅に帰ってお風呂とご飯を済ませ気の抜けた状態になったからといって七はつい言ってしまったのだ。


「実家のお母さんから見合いの話が来てるのよね。私もいい歳だし、しちゃおっかなぁ。お見合い」


 と。

こうして場面は冒頭に戻る。

ちなみに、木造の六畳のフローリングの居間に置いた、草色のカーペットの上に椅子を置いてに座りながら、テーブルでお互い気楽な格好だった。

 七はぶかぶかの、履いた短パンを隠す派手なロゴの入ったTシャツ姿で。

千代は毛皮も露な白い刺繍の入ったブラとショーツ姿でジャーキーを肴に梅酒をちびりちびりと飲みながらの会話だったりする。


「うう、私はこんなに七さんが好きなのに……」

「はいはい、ありがとう」

「ほんきなんですよぉ」

「じゅあ、好奇心で聞くんだけど。私のどんな所が好きなの千代ちゃん」


 ぽすぽすと千代の湿った鼻先を毛皮に包まれた手で叩きながら聞いた七の言葉に、千代はすっと椅子から立ち上がり、じりじりと七の方へ回り込みながら黒い縁取りのある口から言葉を紡ぐ。


「まずちっちゃい所。私ちっちゃい人大好き。だって可愛いから。次に手入れされてふかふかの毛並み。柔らかい茶色に相応しい優しい感触は私を魅了する」


 なぜだかこのままでは不味い気がした七は、席を立って千代の回り込んでくる方向とは逆に移動を始める。


「次にちっちゃい身体に見合わない大きな耳、ギャップがいい。それから小さい口とまん丸の眼。その口から出る高い声は私の耳に良く響いて脳に染み渡る。丸い瞳からの視線は私を……興奮させる!」


 唐突に駆け出す千代。

それを見て年甲斐もなく七も居間の中を駆け回る。


「それに何より好きなのは優しい七さんの心!家探しで困ってた私を拾ってくれて、ご飯を食べさせてくれて、お仕事もくれて、今の私に全部をくれた優しい人!でもつれない、酷い人!」


 足は千代の方が速い、しかし狭い室内では小回りの利く小さな身体の七の方が有利だ。

なので口を開く余裕もある。


「そこまで愛してくれるのは……うーん、気持ち悪くはないんだよね。でもなんかこう、素直に嬉しいっていうのは抵抗があるなぁ」

「気持ち悪くないなら受け入れてください!」

「まぁまぁ冷静に。確かに最近じゃ同性でーっていうのは受け入れられてきてるけど、やっぱり不毛だよ。お互い適当な男の人見つけて家庭に入ったほうがいいって」


 ぐるぐるとテーブルの周りを回りながら、軽い口調で言った七だったが、すぐにコレを後悔することになった。


「う、うぅ~!うぉぉー!」


 雄たけびを上げながら一瞬で椅子を蹴散らしながらテーブルの下に飛び込み、直線で千代が七に跳びかかる。

 しまった!と思うと同時に、この子こんな無茶して頭打ったらちょっと抜けてるネジがもっと増えるよ!なんて心配をした七は、その突進に押し倒される。

 あっと思った時には下半身を抱きこまれて床に倒れこみ、腰を打つ!と思って目を閉じた七の身体の下に素早く腕を動かした千代の腕が挟まる。


「あ、危ないじゃない!いくらなんでも怒るよ千代ちゃん!」


 足を絡め取られて語気を荒げる七に、千代がゆっくりを顔を上げる。

その顔は眉にしわが寄り、七に一瞬、なんで千代ちゃんが怒るの!?と思わせたが実際は違った。


「だって、だってぇ……七さんが私に知らない男と結婚しろなんて、ひっく、言うから、ひっ、うわぁぁぁぁん!」


 腰の下に挟まれた腕をそのままに、開いた腕もがっしりと七の腰に回して、シャツの上から七のお腹に鼻先を押し付けて泣く千代の、涙の感触を太ももの毛皮越しに感じて彼女は冷静になった。

よくよく見てみれば、千代の尻尾は完全にお尻の間に仕舞われている。


「ごめん。無神経だったね。そういうつもりでいったんじゃないの。ただね、やっぱり女同士って子供も出来ないし……男の人と恋愛した方がいいと思っただけなのよ」

「……七さんは、子供欲しいの?」


 短パンから露になる太ももの毛皮に顎全体をぴったりとつけながら聞く千代の問いに、七は逡巡する。

子供が欲しいかと改めて聞かれると、そういう願望は自分にはない気がする。

 そんな事を考えていると七はなんだか段々外堀を埋められているような気分になっていく。

けれども、適当な嘘はつけなかった。


「どうなんだろ。考えた事も無かったなぁ……どうなのかな」


 自分の太ももの上で上目遣いに様子を伺う千代の顔を見つめながら言う七には、どうしてもこの一途なハスキー種に嘘をつく気が起きなかった。

 2年、一緒に住んでいた。

その間逃れられないものとして発情期も一緒に過ごしたりしたのだが、七が千代に襲われる事はなかった。

 ただ、千代が自分を慰めるあられもない嬌声の中に七の名前が入っていたりしたが。

まぁそこらへんは大人の態度というので受け流す事にしていたので多分問題ない。

とにかく、千代は彼女なりに一線を守って生活してくれていたのだ。

そんな誠実な彼女に適当な事は言えない、そう考えていると千代はじーっと七の顔を見上げながら言った。


「七さん。子供欲しいとは思ってない?」


 静かに見据えてくる千代のアイスブルーの瞳。

その色に惹かれた、というわけではないと七自身は思うのだが、それでも答えてしまった。


「そう、だね。無理に作ろうと思うほどじゃないかも」


 尻尾がもぞもぞと動きながら七の口をついた言葉に、千代が食いついた。


「じゃあ、私にチャンスをください七さん。一年、いや半年でも半月でも一週間でもいいですから」

「チャンスって……」


 内心、なんと言われるのか予想はついていたけれど、七はそれでも敢えて聞き返した。

千代はその言葉を聞きながら、するすると身を寄せるように、抱きしめる腕を七の上半身に動かしていく。


「お願いです七さん。私と少しでもいいから、ごっこでもいいから、恋人になってみてください」


 下着から溢れる毛皮を擦りつけ、臭いを七につける様に抱きしめる千代。

シャンプーと、乾ききらない水の臭いが混ざり合った臭いが七の鼻の中に満ちる。

そして、鼻の外側はブラのカップに支えられた千代の乳房に包まれた。

七はふぅっと鼻息を漏らして、鼻を包む毛皮を掻き分ける。

そして、抱きしめられて不快ではない気持ちを千代に伝える為に、僅かに身じろぎして顔を彼女の豊満な胸の谷間から出した。


「そうだね。今まで男の人と付き合ったこともないし、千代ちゃんに抱きしめられて悪い気はしないから、付き合ってみるのも、いいかもね」

「~~~~!七さぁん!」

「ぐぇっ」


 大柄な千代はその身体に見合った力を持っていて、その満身の力で抱きしめられた七はつい変な声をだしてしまう。

 だが、何はともあれ彼女の小さな悩みは一歩前進して、同居人との新しい関係の構築と言う結果に行き着いたのだった。

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