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「暴露毛」




「ばくろけ、どんな字かって言うと、『暴露する』っていう字に、髪とかの『毛』を組み合わせた意味だそうです。これは毛というか、どちらかというと寄生虫みたいな存在らしくて、これにとり憑かれることが非常にマズイ、って言ってました」


 何がマズイのか、すぐにヤマダさんが教えてくれたよ。


「この毛にとり憑かれると、文字通り秘密を暴露してしまうそうなんです。それだけ聞けばあんまり怖い毛じゃないし、秘密を暴露するなんて、オカルトよりは自分の問題だと思うんですよね」


 ヤマダさんは現実主義者だったからさ、あんまりオカルトを信じていなかったんだろうな。


「友達が中学二年の時だったそうです。同級生がある日、この毛にとり憑かれたそうなんです。といっても、どこからとり憑かれたのかわからない。どこにいたのかもわからない、ただ同級生は当然、授業中に叫び出したそうなんです」


 ヤマダさんはちょっと声のトーンを落として言ったよ。


「暴露毛だぁ、暴露毛にとり憑かれたぁ、と叫んだそうです。そうしてケタケタ笑い出したそうです。おまけにケケケ、と気味悪く叫び出して、ただひたすら狂ったようにそれだけを連呼し始めた。周りの友達がどれだけ宥めても、狂ったように笑い続ける。先生が止めても治まらない。仕方なく別の教室に連れて行かれて、両親を呼んで迎えに来てもらったそうです」


 俺はこの話はまだそんなに怖くなかったんだ。

 中学二年の思春期だよ。

 そんなこともありそうじゃないか。


「それは多感な同級生だったんじゃないですか?」


 俺は笑いながらそう尋ねたよ。

 この時はヤマダさんも笑ってた。


「友達もそうだと思った。他の生徒も教師もそう思ったらしい。暴露毛っていう存在を初めて知った友達もいたらしい。気味が悪かったそうだけど、どうすることもできなかったし、友人は放課後になったら同級生の見舞いに行くことにしたんです」


 ヤマダさんは深く息を吐いて言った。


「狂った同級生は眠っているようで、布団の上で寝息をたてていたそうです。友人が帰ろうとした時、その同級生が突然、目を見開いて叫んだんです。『お前、明日先生に殴られるよ』そう言ってまた目を閉じて眠ってしまった」


 暴露ってのは、自分の秘密を言うもんだと思ってた。

 でも実際の暴露毛は違ったらしい。


「友人は先生に殴られるようなことをした覚えもなかったし、そんなことになるなんて思ってなかったそうです。ちょっと気味が悪いなぁ、これからどう接すればいいのか、そっちの方が不安だったそうです。次の日に学校に行くと、同級生も教室にいて平然としている。友人が声をかけようとした瞬間、後頭部に重い衝撃が走ったそうです」


 暴露毛ってのは、未来を暴露するんだってさ。


「友人が振り返ると、教師が狂った瞳で自分を見ていたそうです。その右指が歪んでいて、その手で殴られたことを察したらしいけど、何で殴られたのか、まるで理由がわからなかった。後で聞いたら教師の指の骨が折れていたそうです。それを見た同級生がまたケタケタ笑い出して叫んだ」


 ヤマダさんはちょっと間を置いたな。


「『お前、女子に叩かれるよ』って」


 俺はちょっと怖いってより、中学生って大変だな、って思ってたよ。

 そんな時期もあったしさ。

 でも暴露毛は違ったそうだ。


「そうしたらクラスの女子が椅子を持って友人に近づいたんだそうです。友人は心底驚いた、って言ってました。女子とはあまり話をしたことがなかったし、椅子で叩かれるような恨みもないはずだ。それが鬼の形相で椅子を振り上げた」


 誰かがからかうように指摘してたな。


「それってさ、友人がちょっとおかしいんじゃないの?」

「そうかも。ただ、友人は僕みたいに地味な奴で、中学時代に荒れていたなんて思えないんです。それに暴露毛にとり憑かれた同級生が、すぐに叫んだって言ってました。『おれ、おれにして、おれがころされる』、そう叫んだらしいんです」


 何か嫌な予感がしたな。


「その暴露毛にとり憑かれた同級生の言うことは現実になった。何人かのクラスメイトがいきなりその同級生を殴りつけた。机も椅子も叩きつけた。それで、その同級生は死んでしまったそうなんです。友人は暴露毛は未来のことを言ってる、その時に気づいたそうです」


 さっき話を終えたオカさんが冷静に言ったよ。


「それは何かのイジメじゃないかな。校内暴力を誤って記憶しているんだと思う。そのケースは少なくない」


 ヤマダさんは年長者のオカさんに言われて素直に頷いてた。


「そうかもしれません。僕としてはそんなことを言い出す友人の方が怖いよ、なんて思いました。同級生の体はピクリとしなくなり、教室は沢山の悲鳴で溢れていた。そして友人は同級生の体から何かを飛び出すのを見たそうです。それは一本の長い毛みたいな、虫みたいな、何とも形容しがたいものだった。それが友人から飛び上がった」


 友人は同級生から飛び上がる暴露毛を見た。

 ヤマダさんの話はそれで終わりさ。


 もう不思議な顔をしないね。

 そう、ヤマダさんも死んでしまった。

 続きなんてわからないんだ。

 俺も少し気になるけど、もう続きはわからないさ。

 ヤマダさんも言ってたけど、そんなことを覚えて話す友人の存在が一番怖かったな。



「みんな結構知らない話するなぁ。俺は上手く話せるかな」


 サークルの部長、イシダさんが苦笑しながら口を開いた。


「じゃあ俺は海外の話をします。モーギュルノ、って化物の話をしますよ」



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