「六鬼」
「僕の故郷の村はかなりの田舎だったけど、山を越えた向こうには更に田舎の村があるという話だった。大人たちはその村には行ってはいけない、山にも入ってはいけない、と子供に言い聞かせていた。かなり険しい山道を登らないと辿りつけないし、山道は舗装されていなくて危険だったんだ。たぶん、子供を近づかせないための怪談だったんだと思うよ」
オカさんはどこか懐かしそうに呟いてた。
「今思えば、何かの差別があったのかもしれない。いくら何でも山奥すぎて、暮らすのも相当不便なはずなんだ。あまり人に知られたくない人間が住む村だったのかもしれないね」
それはありそうだなぁ、って思ったよ。
昔からの風習や、同じ人種じゃなかったり、犯罪者や厄介者を隔離する話は、昔の日本じゃ当たり前だったろうしね。
「おまけにその村に近づく人間は『六鬼』に襲われるぞ、って子供を脅すんだよ。六匹の鬼、っていう意味じゃない。この鬼は一匹なんだ。なぜ六鬼かというと、この鬼が子供を殺す際の特徴から名付けられた」
オカさんはそう言って手を振り上げた。
「鬼は子供を素手で捕まえて、まず右足を潰す。それを食べるんだ」
本当に嫌な話を始めたよ。
「次に左足を潰す。それも鬼は食べるんだ。次に右腕、次に左腕、次に下半身、最後に上半身を潰して食べる。生きたまま人肉を骨と皮まで喰らう鬼だ。子供たちは恐怖に震えたよ。つまり頭だけを残して綺麗さっぱり食べてしまうんだ。だから六鬼って呼ばれていた」
もう本当に気持ち悪かった。
それで終わればいいのに、オカさんの話はまだ終わらないんだ。
「そして何より怖かったのは、六鬼が本当に出たことだ」
誰かが生唾をゴクリって飲み込む音が聞こえたよ。
「山の入口で子供の頭だけが発見されたんだ。胴体も手足もどこを探しても見つからない。まるで首は食い千切られたように切り離されていて、六鬼の仕業じゃないか、って僕たちは震えた。大人たちまでそんな話をしていたな。そしてそれは一人だけじゃなかった。殺害された子供はどんどん増えていき、ついに五人になった。犯人はまるで捕まらない。きっと六人目もある。六鬼って名前だ。六人の子供を殺すのかもしれない。みんなはその恐怖に怯えていた」
オカさんはそこで言葉を区切り、辛そうに口を開いた。
「そして僕は六鬼に会ったんだ」
オカさんは六鬼に会った。
それで終わりさ。
何せオカさんも死んでしまったからね。
そう、死んでしまったんだ。
そんなに不思議に思うことはないだろう?
だってオカさんは死んだ。
それで全て終わりだよ。
「それじゃ、次は僕が話そうかな」
サークルの先輩が言い出した。
ヤマダさんって先輩さ。
黒いメガネをかけた地味な先輩だよ。
「僕は友達から聞いた話なんですけど、暴露毛って話です」
ばくろけ、そう言い出した。