最後まで聞いたら呪われる話
どうしても君に聞いて欲しい話があるんだ。
それは雪山の避難小屋の中で起きたことだった。
俺は山岳部のサークルに入ってるんだ。
四人で雪山登山に行ったんだけど、その日はよく吹雪いてね。
俺たちは登山を諦め、避難小屋で天候が治まるのを待つしかなかった。
小屋には俺たち以外にも先客がいたよ。
相手は社会人の大人だった。二人だったな。
「これは夜を明かすしかなさそうだね」
俺たちは外を見て、そう判断するしかなかった。
それほど酷い吹雪だったんだ。
「食料はあります。お湯を沸かしましょう」
避難小屋には火が起こせるような装備がなかった。
ただサークルの仲間が携帯用のガスコンロを持っていたからさ、俺たちはそれでお湯を沸かして茶を飲んでたんだ。
初めは他愛もない話をしていたよ。
大人の二人は大きなメーカーに勤めていて、就職の苦労なんかを教えてもらったな。
俺は二年生だったから特に興味はなかったけど、三年の先輩はすごい食いつきようだったな。
やがて話題も付き始めた。
十時間は経過していた。
それでも天候が変わらない。
もう外は暗くなっていたし、避難小屋の中も冷え込んできた。
俺たちはシュラフに入って横になりながら、眠らないように気をつけよう、って話になったんだ。
どれだけ冷えるか想像もできない。
火が使えない部屋で睡眠を取れば、死にかねないからね。
「何か順番に話をしよう。眠るのは危険だ」
最初は下品な話をしていたんだ。
この場にいるのは男だけだったからさ。
女の子には聞かせられない話をしたよ。
それもやがて飽きてきちゃってさ。
今思えば、俺たち四人は女っ気もなかったし、大人二人もそう変わらなかったのかもしれない。
「怪談をしませんか?」
誰かが禁断の言葉を口にした。
「それはやばいよ」
「山でそんな話をしちゃまずいって」
俺たちはそう言い合ったな。
俺は山には何かいると思ってる。
山で怪談を話すのはまずいんだ。
山には心霊的な何かがいて、そんな話をしたら大体がロクな目に合わない。
俺たちは当然嫌がった。
だけど大人の一人が言ったのさ。
「山に関係ない話をするばいい。そうすれば山も怒りはしないさ」
それでも俺は嫌だったな。
元々、怖い話なんか好きじゃないんだ。
でもその大人、ヤマギワさんって言ったかな、その人は随分と乗り気でさ。
「怪談なんて、ほとんどが創作なんだ。子供を危険な山に行かせることを止めさせたり、何かを隠すために作られるものだよ」
随分と強情なんだよ。
「でもそれでも縁起が悪いっすよ。止めませんか」
俺はそう説得したよ。
山の危険さを理解してないんだ。
「大丈夫だって、今は冬だし、ここは山だし、海の怪談話をしよう。海の化物はここまでやって来れないさ。それにさ……」
ヤマギワさんは何かを閃いたみたいだった。
「途中で話を終わらせてしまえばいい。全て話さなければ怖いことは起きない。最後まで話したら危ないかもしれないけど、途中で中断させれば、そんなに怖くない。どうせ話題も尽きてきたんだ。眠らないために話をしよう」
そう言って語り始めたんだ。
「海には数々の怪談話がある。その中でも僕が聞いた中で一番怖かったのは、『うねぐし』っていう化物の話さ」
うねぐし、確かにそう言ってたな。