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09-unknown-imagine

「ここは三旅世みりょせを元にして生じた世界。名は孤旅世こりょせ。厳密には、孤旅世から少々離れた場所だが」

 この白い空間には床は無く、感覚的には無重力空間に近い。モノクロの娘はソウの手を引き、いかなる原理によってかふわふわと飛ぶように進む。

「孤旅世の人々は三旅世から人間を招くことがある。三旅世に存在する空人うつびとの繰り糸を遡り、その主の魂を空人に封じ込め、孤旅世に引き込む」

「戻ることは出来るのか?」

「能わぬ。空人はともかく、魂の送り先が分からぬ」

「送り出すことそのものは可能なのか?」

「是なり。汝が魂を導くのか?」

「そういうことになるな」

 ソウは娘と会話を成立させていた。娘の発言の中に現れる未知の単語の意味を、彼なりに推測しているらしい。

「ところで本当にキャラクターというか、空人とやらをくれるのか?」

「汝に理を乱されぬため。理の乱れ、即ち万物の破滅なり」

「俺も本気で世界を一つ潰すつもりは無い。あくまで交渉のカードとして提示しただけだ」

「その様に申せば、切り札としては終いだろう」

「話が通じればそれでいい」

「食えぬ男」

 娘は呆れたような表情をした。




 やがてソウたちは、9枚の扉が並ぶ場所にまで来た。白い空間に、白い扉だけが9枚並んでいる。その扉が建築物に取り付けられているわけではなく、あくまで扉だけである。

「空人の性質は大きく分けて8種類。戦士、剣士、魔法剣士、刀使い、魔術師、僧侶、盗賊、拳法家。左から順に扉の内に入っておる。右端の一枚はその他特殊なもの。選ぶが良い」

「その空人の性質とやらがさっぱり分からないのだが」

「説明しよう」

 娘は左端の扉を開く。そこには剣や弓など雑多な装備を身に着けた無数の男女が、力無く折り重なっていた。どうやら扉の中には重力が存在しているらしい。

「彼らは戦士。長所も無ければ短所も無い。されど、多種多様な装備が可能」

 次に、その右隣の扉を開く。鎧を着込み剣を携えた男女が転がっている。

「彼らは剣士。その名の通り剣を用いての戦闘を行うことに長けるが、魔法は使えぬ。されど、その他の能力は高い」

 そこでソウは口を挟む。

「どうやら空人の戦闘能力について説明しているようだが、俺が行く場所はそんなに物騒なのか?」

「人を探して旅路を行かば、危うい」

「なるほど。ところで、右腕を使わなくても戦闘能力が落ちない空人とかはあるか?」

「何ゆえ」

「右腕が不自由でな」

「面妖。今の汝は魂。然れど、右腕がままならぬとは。力の代償か?」

「さあな。で、どうなんだ?」

「ふむ。汝に合うものは、少なくともまともな空人には無い。ここならばあるやもしれぬが」

 娘は右端の扉までソウの手を引きつつ移動し、中に入った。ソウと娘は重力を受けて、床に足裏をつけ直立する。

 右端の扉の中は、左右に果てが見えないほど長くのびる廊下のようになっていた。入ってきた扉の向かいの壁に、無数の扉が等間隔で設置してある。

 娘はその中の一枚を開く。背中から巨大なコウモリの羽が生えた色黒の男女が転がっている。

「下級悪魔。戦闘能力は高い。しかし自身の翼を隠せず、人間社会に溶け込むのは困難」

「人探しできねぇよ。翼を隠せるやつは無いのか?」

「無い。過ぎた力を持つ者は殆ど自壊した」

「どういうことだ」

「ここに在るは、捨てられし空人。本来消え去るもの。安定せぬ。巨大な存在は自らの重さに耐えられぬ・・・・・・ん?」

 娘の動きが一瞬停止した。

「思い至った。汝に適した空人」

「どこにある」

 娘は下級悪魔の転がる部屋を出ると廊下を歩く。

「まだか?」

「まだ」

 三十分ほど歩き続け、娘は一枚の扉の前でようやく立ち止まった。

「ここの空人は、ある意味最も不気味」

 そう言って、娘は扉を開いた。

「なっ!」

 その部屋の光景を視界に入れたソウは、思わず変な声を出してしまった。


 黒いスーツと黒いサングラスを身に着けた無数の男が、一部の乱れも無くずらりと整列していた。


「黒服。我が知る空人の中で、ある意味最も異端」

「確かに、世界観を激しく逸脱しているな。何でこいつらだけ立って整列しているんだ?」

「我も知らぬ」

「・・・・・・大丈夫なのか、こいつら」




 重力の無い白い世界で、モノクロの娘と黒スーツを着たソウは向き合っていた。ソウの横には白い扉がある。建築物に取り付けられているわけではない、ただそれ単体が立っているだけの扉だ。

「まあ、色々と世話になった」

「他者と関わるのも一興。それに我には、この程度のことしかできぬ。狭間に立つ我は理を知る。然れども、世の詳らかな所を知り得ぬ」

「これだけやってもらえれば十分だ」

 ソウは扉を開き、一歩踏み出す。

「汝の幸いと、我らの再会を願おう」

「ああ。俺もそう思うよ」

 扉は閉じた。白い世界にモノクロの娘が、たった一人で佇んでいた。




ヒント

.h○ckやswo○d a○t on○ineに似た世界観で考えればいいかと。多分に違う要素も混じっていますが。

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