表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

05-3/1-わしづかめ!呪いのビデオ

 ソウはリビングで、午後の日差しにまどろんでいた。

 扉が開閉する音がした。ソウの意識が僅かに睡魔から抜け出る。

「ただいま帰りました」

「お帰り」

 ユーメイはコタツに入って正座すると、手に持っていたものをその上に置く。

 彼女は至極穏やかな口調で言った。

「呪われたビデオテープを発見しました」

「・・・・・・持ってきてしまったのか」

「はい」


 ユーメイはしばしば呪われた品物をソウに寄越す。

 どうやらそういった危険なものを放置しておけない性格らしい。


 ソウはコタツの上に置かれたビデオテープを見る。

「とてつもない怨念を感じるのだが」

「そうですね」

「見るのか?」

「はい。大丈夫でしょうか?」

「まあ、これくらいだったら。面倒臭いけど」

「これも人助けのうちですよ」

 にこやかな表情で言うと、ユーメイはビデオデッキにビデオテープを挿し入れた。

 再生ボタンを押す。


 まず画面にザーとノイズが走る。

 そのまま一分経過。


「もしかして、これだけ?」

「そんなことはないと思いますけど」


 やがてノイズが晴れてゆく。

 まともな映像が現れるまで一分。


「やたらもったいぶってるな。おっと、寒気が」

「ええ、これは大物かもしれませんね」


 画面に映るのは、井戸。

 雑木林のようなうらぶれた場所にある、うらぶれた井戸だ。


「井戸だな」

「はい。井戸ですね」


 井戸を映したまま、三分経過。


「停止するか?」

「あ、何か出てきましたよ」


 井戸から白い手が一本、二本と出てくる。

 ひょこり、と頭が現れる。


「女か?」

「どうでしょうか」


 長い黒髪で顔と上半身が隠れた女(ということにしておく)が、井戸の中から這い上がる。

 ふらり、ふらりと前後左右に揺れながら撮影者|(がいると思わしき方向)に向けて歩く。


「お、ちょっと金縛り入ってきた」

「確かにちょっとしびれてきました」

 正座していたユーメイは脚を崩す。


 ずいぶんと画面の中の女はアップになっていた。

 画面いっぱいに女の顔、というか顔にかかっている黒髪が映る。


「肩が凝ってきた」

「そうですね」


 ぬう、と画面から女の手が出てきた。

 ずるずると、まるで穴から這い出すように、女が出現する。


「捕獲」


 がし、とソウは女の顔を右手でわし掴みにした。

 いつの間にやら、ソウの右手はつやのない黒色に変色している。


「アガガガ」

 女は低い声で呻いている。


 ソウは困ったような様子で言う。

「どうしよう、コレ」

「あの、どうしようって」

「アガガガ」

「すごく『ぬめっ』てしてる」

「それがどうしたのですか?」

「アガガガ」

「いや、ただの冗談だ」

「そうですか」

「アガガガ・・・・・・ガッ?」


 ぶしゅー、と女の頭部から黒い煙が立ち上る。


「ガッハー」

「ユーメイ、換気」

「はい」

 もくもくと充満する煙を外へと逃がす。

 代わりに、晩冬と呼ぶには幾分暖かい空気が、室内に流れ込む。

 今年は、暖冬だ。桜も三月中に満開になるらしい。


 一分後。


 黒煙の発生が止まり、女は完全に沈黙した。

 ソウはぐいぐいと、女を画面に押し戻す。

 すぽん、と軽い音がして、女はテレビの中に戻った。


 ソウは停止ボタンを押してから、ビデオテープを取り出す。

「戻してしまって良かったのですか?」

「どうだろうな。

 珍しいことにこいつは昇天も消滅もせずに、現世に留まっている。

 何というか、ビデオテープの精霊みたいな存在になっているんだろうな」

「では、このビデオテープはどうするのですか?」

「・・・・・・話し相手がいない、寂しい人に譲るとか」

 とりあえずそのビデオテープは、ビデオデッキを載せてある棚に保管されることとなった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ