03-2/5--->2/17-モーニング・スター
あらゆる点で無意味の極地。
2/5--->2/14 目覚めの風景
午前五時。未明とも呼ぶべき、夜闇がいまだ居座る時間帯である。
Jタワー1301号室の住人であるユーメイは目を覚ます。
彼女は顔と歯を洗い、寝巻きからジャージに着替えると、軽く体操を始める。それから外に出ると、ジョギングを開始した。
秒速6メートルほど、かなりのスピードでユーメイは駆ける。規則的に大量の呼気の吸入と排出を繰り返す。酸素を十分に血液に浸透させ、力強い心臓の拍動で全身に行き渡らせる。睡眠で鈍った体と心が覚醒する感覚。
これがユーメイの日課である。引っ越す以前から、早朝ランニングを日常的に行っていた。この一走りがないと、いまいちすっきり目が覚めないのだそうだ。
一方その頃、ソウは1301号室で眠っている。
これがソウの日課である。早朝ランニングなど生まれてこの方した覚えが無い。いや、早朝に追っ手から逃げ回ったことならあるらしいのだが。
2/15 イナズマの如くpart1
その日、何故かソウは未明ごろに目覚めた。こんな日もごく稀にある。
横の布団を見るとユーメイがいない。それに加えて部屋から物音がしない。ということは、どうやらユーメイは早朝ランニングの最中らしい。
寝直そうと思ったが喉が渇いていることに気付き、台所で水を飲むために起き上がろうとした。仰向けの姿勢から、腹筋を使って上体を起こそうとする。
「ぐおあっ!」
腹筋がつった。
2/16 イナズマの如くpart2
その日も、何故かソウは未明ごろに目覚めた。二日連続とは少々珍しい。
横の布団を見るとユーメイがいない。それに加えて部屋から物音がしない。ということは、どうやらユーメイはまたもや早朝ランニングの最中らしい。
寝直そうと思ったが喉が渇いていることに気付き、台所で水を飲むために起き上がろうとした。仰向けの姿勢から、腹筋を使って上体を起こそうとする。
しかし、昨日腹筋に走った激痛を思い出し中断する。少々思案した後、うつ伏せになると床に左手をつき、左腕と背筋の力で起き上がろうとする。
「ぐあっ!」
背筋がつった。
2/17 舞い降りる剣
その日もユーメイは早朝ランニング(早朝というより未明だが)を行っていた。川に架かる橋にさしかかると、彼女は対岸の川原の辺りに視線を向けた。
彼女の視線の先には、一人の少年がいた。ユーメイには、彼が巨大な黒いヘドロのようなものに追われているように見えた。そのスライム状の物体は醜く蠢きながら、人間の走行に比しても遜色の無い速さで少年に迫っている。
少年は時折振り返りながら、追跡してくるその物体に向けて何か棒状のものを投げつけている。ヘドロのような物体は、その棒状のものが当たった箇所が消滅する。しかしその消滅した量はその物体の全体量からすれば大したものではなく、ヘドロのような物体の進行は僅かばかりも遅れない。
ユーメイは自身の走行速度を秒速6メートルから秒速10メートルまで瞬時に加速する。実に100メートルを10秒で走り抜ける、オリンピック級の走力である。
直進速度をそのままに軽やかに跳躍する。欄干を蹴りつけ更に勢いを付け、橋から宙へ飛び出す。黒髪が闇空になびき、街灯の光を反射し煌く。
水平投射に近い軌跡で、蠢くヘドロのような物体に接近する。空気を砕きながら目標に到達し、右拳で殴り付けた。