024-4/13-終わってしまった物語
最早コメディですらない。
土曜日。休日の街を森屋篤志は歩いていた。別段、目的があるわけではなかった。特にしたいこともないため散歩をしているだけだった。
桜並木にさしかかる。風が右から左へと通り抜け、こぼれ落ちた花弁がひらひらと宙を舞う。春の欠片が降る道の向こうに、一組の男女が見えた。
見知ってはいるが、親しいわけでもない男。そして、その隣には見慣れた幼馴染み――瑞季。
彼女は幸せそうに男に何か話しかけている。男は温和な笑みを浮かべて時折相槌を打つ。
篤志は徐に桜並木に背を向け、彼と彼女の前から立ち去る。
「終わったんだ」
自分に言い聞かせるように、篤志は呟く。
瑞季があの男と恋人になったのは昨年の冬のことだった。彼女はわざわざその恋人を篤志に紹介してくれた。男の名前は覚えていない。覚えるつもりもない。
その後も瑞季と篤志は、少なくとも表面上は以前と同様の関係を続けていた。篤志からしてみれば惰性に近い。あるいは、執着なのかもしれないが。
篤志にとって瑞季との関係は最早、空虚な安心感と屈折した喪失感を与えるものに過ぎなかった。
――コロシチャエ。
どこかからか、そんな声が聞こえた。
――キニイラナイモノハ、ミンナコロシチャエ。
確かに耳に届いている。
――コロセバイイ。ソレデスベテ・・・・・・。
「もう終わったんだ」
その声を遮るようにして、篤志は言った。
学校での篤志の立場は、ソウに取って代わられつつあった。いや、もう取って代わられたと断言していいのかもしれない。あっけないものだった。
思えば、瑞季とは長い間共に過ごしてきたが、その中で何か劇的なことが起きたことはない。思い出らしい思い出も、さして無い。幼馴染としての十数年がもたらしたものは、気安く付き合える関係、ただそれだけだったのかもしれない。
虚しかった。それでも――恋慕に近い感情を抱いていたのだ。
ちなみにその光景を一部始終見ていた人間がいた。
「・・・・・・声を掛けなくて良かった、のか?」
桜並木の横にある公園のベンチに座るソウは呟いた。
篤志の背中が煤けて見える。