021-4/10-未知との遭遇
昼休み。
「神崎。早速発見したわ」
教室で弁当を食べようとしていたソウの元を訪れると、瑞季はそう言った。
彼女の首元には先日のレンズがぶら下がっていた。霊的存在を目視できるようにソウが貸し出したものである。ちなみにレンズの名前を訊ねられたソウが「知らない。好きに名付けてくれ」と答えたので、それは彼女によって「ホークアイ」という名前を与えられた。
「飯を食うまで待ってくれ」
「却下」
ソウは引きずられるようにして教室を出て行った。
「あれよ」
瑞季は中庭の隅にあるその物体を指差した。
「ふむ」
ソウは彼女が指し示すその物体を眺めた。
くにゃくにゃと曲がった銀色の太い棒のような物体が、一本だけ地面から生えていた。高さは60センチ、太さは半径3センチほどで、先端は丸まっている。例えるなら巨大化した菌糸のような形状である。
「とりあえず」
ソウは黒く変色した右手でその物体に触れた。数分して右手を離す。そわそわと傍観していた瑞季は彼に問いかけた。
「何をしたの?」
「調べた。そして多少は分かった」
「教えて!」
瑞季の様相は幼児の如く好奇心丸出しである。
「大したものじゃないぞ?」
「構わないわ」
「ならば、実際に弄ってみよう」
ソウはその物体に左手を伸ばした。
「撫でる」
ソウが側面を撫でると、その物体は海流に揺られるワカメのようにふにゃふにゃと運動した。より早く撫でると、より激しく運動する。
「どうだ?」
「どうだ、と言われても」
「次に、強く握ってみる」
ソウが強く握ると、その物体はぐにゃーんと細く長く縦に伸びた。より強く握ると、より細く長く伸びる。
「やるか?」
「うん」
恐る恐る瑞季は撫でたり握ったりする。意外と楽しい。十数分ほど遊んで満足した彼女は手を離した。
「もういいわよ」
「そうか。じゃあとっておきを見せてやろう」
ソウはその物体の先端に左手の人差し指をぶすっと突き刺した。豆腐に刺さるかのように、指は容易にその物体の内側に潜り込む。根元まで突き込むと、ソウは指を反時計回りに45度回転させ、それから時計回りに90度回転させる。そしてぬぽっ、と指を引き抜いた。
その物体はぐにゃりとまずは萎れ、数秒後にしゃきーんと力強く立ち上がる。次いでぶるぶると痙攣を開始し、暫くしてぴたりと動きを停止する。
そして唐突に離陸し、ぎゅーんと飛び立った。ロケットの速度で天へと直進し、やがてその姿は虚空に消えた。
「神崎」
「何だ?」
「金庫に入れなくて良かったの?」
「人畜無害だし、別にいいだろ」
「そういうもの?」
「そういうもの、かもしれない」
二人は揃って踵を返した。彼らはまだ昼飯を食べていない。