019-4/8-最近、溜息の回数が増えた気がします
昼休み。放送で呼び出されてソウは職員室を訪れた。そこで彼は怪奇部の顧問から、怪奇部部室の合鍵、新調した部室の金庫の鍵の束、白い封筒を渡された。封筒の中には数枚の書類が入っており、金庫の番号のリストなど必要な情報と、送り主からのメッセージが記されていた。
職員室を出て溜息を吐くソウに一人の女子生徒が話しかけた。篠原瑞季である。
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「本当に知りたいことは心の奥深くに沈めておくものらしいぞ」
「そんな話聞いたことが無いわね。とにかくついて来なさい」
ソウは半ば引きずられるようにして怪奇部部室に到着した。部室には八穂と篤志が待っていた。ソウをパイプ椅子に座らせると、瑞季は彼の正面に仁王立ちになって見下ろす。
「さて。先週何があったのか教えてもらおうじゃない」
「そこの金庫。といっても取り替えたみたいだが」
ソウは壁際に並ぶ多量の金庫を指し示す。金庫は全て新品になっているが、相変わらず扉は閉ざされている。
「そこから悪霊というか妖怪というか九十九神というか、とにかくそういった類のものが逃げ出した。俺は国家的レベルの退魔機関の機関員で、金庫から逃げ出したものの回収または消去と、向こう三年間の学内の霊的治安維持が今回の任務だ。その活動の拠点としてこの部活は使われる。部長は俺。以上説明終了」
「え・・・・・・?」
質疑応答が面倒だったのでソウは一息に事情を説明した。思わぬ反応に瑞季は途方に暮れた様子になる。
「あの、もうちょっと分かりやすく説明して」
「少しは自分で考えてくれ」
ビシッ、と瑞季の表情が硬直する。
「帰っていいか?」
本当に面倒臭そうな様子のソウの問いに対して、瑞季は拳で返答する。
「ブッ」
瑞季の拳槌が頭頂に炸裂し、ソウは変な声を出した。頭を抱えて背を丸める。
「暴力は」
「ならこっちから質問するわ。結局、この金庫の中身は何だったの?」
ソウの苦情を遮って瑞季が質問した。
「もう帰りたい」
「ぶっ殺すわよ?」
「物を聞く側としての礼儀ってもんを考えろよ」
「すいませんごめんなさい早く話してくださいさもないと殴る」
ソウは一度、深く溜息を吐いた。
「あそこに、何が見える?」
ソウは黒板の少し上辺りを指差した。瑞季は簡潔に答える。
「壁」
「なら、これを首に引っ掛けてから見てみろ」
ソウは懐からレンズのようなものを取り出した。そのレンズは直径3センチほどの大きさで、黒い木製の枠で円周を縁取りされている。枠には革紐が通され、その紐は首に掛けられるように輪になっている。レンズは無色透明ではなく青色がかっていた。
「何これ?」
瑞季はレンズをためつ眇めつ見ながら訊ねた。
「鷹目石をベースに色々と合成したものだとか聞いたが、よく覚えていない」
瑞季はレンズを首に引っ掛けると、ソウの指差した先に視線を向ける。そして動きを止めた。何も喋らず表情も変えず、十数秒が経過した。
「何あれ?」
「呼び方は色々ある。妖怪、下級悪魔、精霊。文化によって呼び名が複雑怪奇に入り組んでいるから、何と呼べばいいのか俺にはよく分からん」
瑞季はレンズを外したり引っ掛けたりを繰り返しながらそれを見ている。
「部室の金庫から逃げ出したのはそういった類のものだ。それでも関与するのかどうかは明日の放課後この部室で聞く。レンズはその時まで貸すから他の部員にも使わせてやれ」
「あ、うん」
瑞季は呆気にとられた様子で返事をした。ソウはそれを聞くと踵を返した。彼はまだ昼飯を食べていない。