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016-4/4-冷たい外見の内側には熱いハートが宿っているもんだぜ

そろそろソウの本名くらい出してもいい気がする今日この頃。というか、前話までで本名が明らかになっているのはJタワー管理人のみではなかろうか。しかもほとんどその名前で呼ばれていない。

「ソウは所属する部活動を決めましたか?」

「部活動?」

 Jタワー1301号室、その朝食の席。ソウとユーメイは食後の茶を飲んでいた。

「入らなければいけないのか?」

「皓鷺高校の普通科生徒は基本的に委員会か部活動に所属するよう、校則に定められています。ソウは委員会には所属していなかったと思いますが」

 本人にやる気が無いことに加え魔の三角コーナーの影響で、委員会の役員決めにソウは全く参加していなかった。

「まあ、そうだな。ユーメイはどうする?確か図書委員だったよな」

「はい。なので部活に入る必要はないのですが、今のところ実際に入部するかどうかは様子見ですね」

「ふむ。俺はどうするかねえ」




 午後の授業が行われている教室。ソウは入部勧誘のチラシを机の上に広げていた。今朝ユーメイに渡されたものである。気が向いたので眺めているのだが、少なくとも現時点では入りたいと思うような部活は無かった。彼は巨大な黒い本を読む隣人に目を向けると声を掛ける。

「なあ」

 無反応。

「聞いているか?」

 やはり無反応。仕方なく彼は、彼女の読んでいる本を左手で掴んで左右に揺らした。彼女はようやく顔をソウに向けると、抑揚の無い口調で訊ねる。

「何か用?」

「楽な部活を知らないか?」

 彼女はソウの問いに、首を傾げて10秒間静止してから口を開いた。

「私の部活に来てみる?」

「何故そうなる」

「幽霊部員歓迎」

「一体どんな部活だよ」

「暇なら来て」

 彼女は部室の位置を言うと、本のページに視線を戻した。




 放課後、特に他の用事も無いのでソウはその部室を訪れた。規模の小さい部活は専用の部室すらないので、この部活はそこそこ大きいということになる。閉ざされた引き戸をノックするが応答は無い。取っ手を掴んで横に力を入れると、鍵がかかっていなかったらしく戸が開いた。

 部室の広さは通常の教室の半分ほど。入り口はソウが立っている場所のみである。ソウから見て前方の壁には窓、右の壁には黒板が取り付けられており、部屋の中央には縦長の机とパイプ椅子が置かれている。一方、その変哲な光景を圧倒するかのような物体が左の壁沿いに鎮座している。大小様々色彩雑多な数十の金庫が、左の壁を端から端まで覆い隠すようにして並べられ重ねられていた。

「なんじゃこりゃ」

 ソウは部室に入り、金庫の壁の前で呟く。

「見る?」

 いつの間にかソウの隣に件の女子生徒がいた。彼女は小脇に巨大な黒い本を抱えている。

「いや・・・・・・」

 ソウは眉間にしわを寄せる。視線の先には金庫の群れ。

「・・・・・・遠慮しておこう」

「そう。残念ね」

 別に残念でもなさそうな口調で彼女は言うと、机の傍らに置かれたパイプ椅子に座った。ソウは立ったままで彼女に問いかける。

「ここは何をする所だ?少なくともマトモな所ではないことは明らかだが」

「部活動をする所」

「そりゃそうだな。ならその部活の活動内容は・・・・・・まあいいや。本当に幽霊部員でいいんだな?」

「これが入部届け」

 彼女は一枚の紙を懐から取り出した。

「分かる所だけでいいから、書いて」

「怪しいくらい用意がいいな」

 そう言いつつもソウは入部届けに必要事項を記入する。

「確か顧問の教師に渡すんだったか」

「提出は私がしておく」

「そりゃあどうも」

 ソウは彼女に入部届けを渡した。それから暫く所在無げに突っ立っていたが踵を返す。

「俺はもう帰る。じゃあな」

「さよなら」

 彼女は返事をすると黒い本を太腿の上に開き、静かに読み始めた。




 ソウが去ってから十分ほど経過した頃、部屋に二人の生徒が訪れた。一人は女子にしては細く長い体形をした女子生徒である。快活な印象のある少女だ。もう一人は彼女と同程度の身長の、男子としては平均的な体格の男子生徒である。少々心許無い印象はあるが、特に変わった所の無い少年だ。

「あ、八穂やつほはもう来てたんだ」

 快活な印象の女子生徒が黒い本を読む女子生徒――八穂の姿を確認して言った。八穂は本から視線を上げ平坦な口調で言う。

篠原しのはらさん、と、新入部員?」

「うん。こいつは森屋篤志もりや・あつし。私の幼馴染よ」

「よろしく。って止めろ瑞季みずき

 挨拶をした篤志の頭を、楽しそうに瑞季が鷲掴んでぐいぐいと下げる。

「第一印象は大切よ」

「こんな屈辱的な印象なんかいらねえ」

 べしっと瑞季の腕を叩き落とす。

「酷いわね」

「お前はもっと酷い」

 瑞季は視線を篤志から八穂に転じる。

「こいつはこんな人間よ。分かった?」

「分かった」

 八穂は即座に肯定した。

「いや、そんなあっさりと」

「これは冗談です」

「は?」

 篤志は思わず間の抜けた声を出した。少し首を傾げた後、八穂は言い直す。

「冗談だよーん」

 場に微妙な沈黙が発生した。

「あー、えーと、とにかく、これで部員が3人が集まったのだから残り一人ね」

 部が成立するには部員が最低でも4人いなければならないと、皓鷺高校の校則には定められている。

「違う。部員はもう4人集まっている」

 八穂は訂正を入れると、懐からソウの入部届けを取り出す。

「私の隣の席の生徒よ」

 机の上に置かれたそれを瑞季と篤志は覗き込む。

「何この名前。本名?」

「ある種の植物みたいな名前だな」

「人間の名前じゃないわね」

「人名というより学名だな」

 かなり酷いことを言う彼女と彼に、八穂が横から口を挟む。

「一つだけ言っておきたいことがある」

「何?」

 瑞季と篤志は入部届けから顔を上げた。八穂は端的に告げる。

「彼は幽霊部員よ」

「は?」

 瑞季は呆気に取られた様子で八穂に訊く。

「どういうこと?」

 八穂は平然と答える。

「幽霊部員となることと引き換えに入部してもらった」

 瑞季は数秒間静止した後、ガバッと口を開く。傍観していた篤志はすかさず自分の耳を塞いだ。

「あ、アホーーーーーーーーーッ!!!」

 罵声が廊下にまで響き渡った。




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