015-4/2--->4/3-マメに手入れをしましょう
4/2 ジェットストリーム
この日の一限目はHRであり、各自の席の場所と委員会などの役員を決定した。席決めは公平さを重視してくじ引きによって行われ、役員は互いに厄介事を押し付けあうようにして決められた。
その結果ユーメイは廊下側から数えて二番目の列の中ほどになった。隣には気の良さそうな女子生徒が座っている。ユーメイとその女子生徒はすぐに打ち解け、明るく語り合っていた。ちなみにユーメイの役所は図書委員である。
さて、一方のソウはというと。
「ああ。ここで自殺したら目立つかな」
ソウの前席に座る男子生徒が何やら物騒なことを呟く。彼は焦点の合わない視線を机に向け、何故か右手をカバンの中に突っ込んだままにしていた。
「白昼堂々、世の中を呪いながら死ぬみたいな。あるいは意味不明とか。理解不能とか。でもやっぱり自分が死ぬのは嫌だな。やっぱり関係の無い誰かを殺すのが一番だ」
彼はぶつぶつと呟き続ける。
一方ソウの隣では、小柄な女子生徒が人を容易に殴り殺せそうなほど巨大な本を読んでいる。その本は黒い革張りの装丁が施されていて、表紙には赤い文字が刻まれていた。のた打ち回るミミズのようなその文字は、少なくとも日本語でも英語でもない。
「ふむ。×σ光tGあんχはもfdhs之になんだな」
深く感銘を受けたように何か呟く。人間が発声可能な音域を超えている箇所があるような無いような、微妙な声である。
ソウの席は窓際の最後尾であった。前席と隣席から発生する極めて近寄りがたい雰囲気によって、この日からその周囲は「魔の三角コーナー」と呼ばれるようになる。三角ということはソウも魔の一角を担うということになるのだが、これは多分とばっちりである。あくまで、多分。
4/3 モラトリアム
魔の三角コーナーの一角であろうがソウにはさして気にした様子も無かった。むしろソウにとっては安眠できて喜ばしい限りなのかもしれない。なんとなれば、周囲が発する闇のオーラのようなものによって教師すら関わろうとしないことが多いからである。
授業中。その魔の三角コーナーはやはり暗黒の気配で満ちていた。
ソウの前席の男子生徒は顔を俯け、時折嘲笑を浮かべている。教科書は一応机の上に広げているが、眼の焦点が明らかに合っていない。彼の右手はブレザーの懐に突っ込まれたままになっている。
教師は彼の席の周辺に視線を向けてみた。すると彼は面を上げ、薄ら笑いを浮かべつつ左右で瞳孔の開き方が違う瞳で教師を見返す。教師は鳥肌を立てつつ視線を外した。
ソウの隣席の女子生徒は相変わらず巨大な黒い本を読んでいる。机の上に教科書は無い。それどころか学校に持って来ているかどうかも怪しい。
そしてソウは爆睡していた。一応、授業が開始した辺りは起きていた。しかし十分が経過した辺りで船をこぎ始め、二十分が経過した辺りで教科書の上に沈没した。
その授業を担当した教師は、職員室で同僚にこう言ったそうだ。
「やつらが何を求めて高校に入学したのか、不思議に思えて仕方が無い」




