014-4/1-人間はノンレム睡眠の間は夢を見ないのだそうです
入学説明会に出席しなかったため各種手続きに多大な支障をきたしたものの、ユーメイの的確で迅速な指示と行動により半日で準備が完了した。それが昨日であった。
ソウとユーメイが通う学校は皓鷺高校という、生徒総数約三千人のマンモス高校である。その入学式でのこと。講堂に集まった新入生を前にして校長が挨拶をしていたのだが、ソウは全く聞いていなかった。
一仕事終えた後に休む暇もなく入学に伴う雑事をこなし、昨夜の睡眠時間は3時間であった。ソウにしてみればまさに極限状態である。入学式が始まると同時に眠りに落ちた。一方、ユーメイは平然と校長の話を聞いていた。歩く気力すら不足しているソウを、学校まで引きずるようにして連れて来たのは彼女である。
入学式に引き続き各委員会や部活動の紹介も行われた。この学校では生徒による自治が重視されているとか、部活動の種類が多いだとか、そういった話も当然ソウは聞いていない。むしろレム睡眠からノンレム睡眠に移行していた。
「ソウ、起きてください」
ユーメイに肩を揺さぶられてソウは目覚めた。
「もう朝か」
「昼です」
周囲の生徒達は席を立ち去り始めている。どうやら入学式やそれに伴う行事は終わったようである。ユーメイに押されるようにして講堂を出る。人の流れに身を任せながらクラス分けの掲示がある場所まで歩いた。ずらりと並んだクラス分け表の前で新入生が押し合いへし合いしている。人混みから離れた場所にソウとユーメイは並んで立つ。
「ソウ。同じクラスのようですね」
掲示板に記された文字は高さ約3センチ。掲示板からの距離は30メートル以上。
「遠すぎて俺には見えない」
それから指定された教室へと向かい、任意の席に着く。窓際の席に腰を下ろしたソウは何とはなしに教室内を見回した。
皓鷺高校の制服は二種類あり、ブレザーとスラックス又はブレザーとスカートである。これは制服が男女別に分けられているのではなく、女子がスラックスタイプの制服を着用して登校しても良いことになっている。実際ソウの隣に座るユーメイもスラックスタイプである。しかし彼女のような生徒は明らかに少数派であり、ソウの見た限りでは殆どの女子がスカートタイプの制服を着ていた。
ユーメイにそのことを話した。
「やはり色気が大切なのか?」
「女の子らしさを出したいのでしょう。しかもスラックスタイプの制服は男子用制服を意識したデザインですから」
「そうなのか。俺は洒落には疎いからいまいち分からん。そう言うユーメイは着ないのか?」
「着て欲しいのですか?」
「いや。それで十分似合っている。俺にとってはな」
「それならば良いのです」
始業の鐘が鳴った。HRが始まる。