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012-2/4/7-世知辛い時代になったものです

 焔龍の月4週7日。この日、勇者一行が魔王の城に突入した。

 その知らせが届いてから12時間。魔王は玉座の間で、勇者たちの到着を待っていた。

 彼は自分の手駒では、勇者たちを多少疲弊させることくらいしかできないことを知っていた。決戦の時に備え彼は瞑想し、魔力を体全体に充溢させている。

 いい加減魔王の集中力が途切れ始めた頃、玉座の間の扉が開け放たれた。

「来たか・・・・・・」

 閉じていた目を開くと、そこには黒いスーツに黒いサングラスの男が一人、佇んでいた。

「っておい、誰だよ」

「勇者一行代理だ。お前を討伐しに来た」

「代理だと?成程。彼奴ら我に恐れを抱いて逃げ出したか!」

 カッ、カッ、カッと笑う魔王に対し、何処か白けた様子の黒服の男は説明する。

「逃げたかどうかは知らないが、俺は勇者一行と取引をしたから来ただけだ。新学期が始まるからさっさと元の世界に帰れ、代わりに俺が魔王を倒して姫を助ける、と」

「シンガッキ?何だそれは」

「気にするな。多分お前とは一生縁が無いものだ。ああ、勇者一行からお前にメッセージがある」

「言え」

「お前に命令されなくとも言う。『世知辛い時代だが、精一杯今を自分らしく生きてくれ』とのことだ」

「何なんだ。その色々と脱力したメッセージは」

「きっと世界の広さと厳しさを知ったのだろう。ところで、お前が誘拐した、えーと、なんだったか、とにかく何とかっていう姫はどこにいるんだ?」

 魔王は玉座から立ち上がると、凄まじいプレッシャーを発しながら答えた。

「我を倒したら、教えてやる」

「了解した」


 バン。


 魔王は玉座に崩れ落ちた。額に開いた小さく円い穴からは、脳漿と血が混じった液体を垂れ流している。

 黒服の男は一丁の大型拳銃を左手に持っていた。ソーシャルイーグルAC。全長269mm、銃身長152mm、重量2053g、50口径。作動方式はシングルアクション及びエグゾースト・オペレーテッド・リピーティング・システム。射出される50ES弾は魔王の魔法障壁と頑強な肉体をも容易に貫く。エージェントの基本武装である。

「お前がこの程度では死なないことは分かっている。しかし、これで互いの戦力差は認識できただろう。潔く降伏しろ」

「まだ、まだだ」

 脳髄に損傷を負いながらも、魔王は立ち上がった。恐るべき生命力と根性である。彼は己の魔力を両の拳に集中させた。

「これでも、喰ら」

 バン。

「ガハっ」

 左胸を打ち抜かれ、魔王は再び玉座に崩れ落ちた。しかし、それでも立ち上がる。

「何のこれし」

「しつこい」

 バン、バン、バン。三連射。弾丸に蹂躙される魔王の体が、玉座の上で奇怪なダンスを踊る。

「今なら亡命先の相談にも乗ってやる。だから、さっさと降伏しろ」

「フフ」

 突如魔王は低く笑声を上げた。

「フフ、フフフフフ、ハハハハハハ!そうか、勇者はこれを言っていたのか!我は魔王!魔王は魔王らし」

「5秒以内に降伏しろ。さもないと撃つ」

「ちょっと待て!その武器を捨てろ!さもないと姫の居場所は教えないぞ!」

「こっちこそちょっと待てと言いたい。お前、自分を倒したら居場所を教えると言わなかったか?」

「言ったぞ!しかし正々堂々と勝負するとは一度も言っていない!」

 やたら得意気に魔王はのたまう。最早、魔王としての威厳など欠片も無い。そんな魔王に対し、呆れたように黒服の男は忠告する。

「今お前は、自分の言葉が信用できないことを証明したようなものだぞ」

「それがどうした」

「バカだろ、お前。人質交渉とかするだけ無駄だろが」

 バン、バン。魔王の頭部に二連射。残弾がゼロになったので懐からSEAC用シングルカラム式弾倉を取り出し再装填。そして一気に七連射。再装填。

「さ、さすがに危なかったぞ今のは」

 魔王は生存していた。奇跡の生命力である。

「こういった手段は不本意なのだが、お前がそのような態度に出るならば仕方が無い」

 黒服の男は懐に拳銃を収めると、それと入れ替えに手の平サイズの黒い箱型のものを取り出した。

「このリモコンにはABC三つのスイッチがある。三つのスイッチにはそれぞれ爆弾が対応していて、例えばAのスイッチを入れると」

 パチ、と軽い音がした。


 ドパン!ズズズズズ。


 何処か遠くで、何かが破裂するような音と崩壊するような音がした。

「今ので城の東塔が崩壊した」

 魔王は冷や汗を流しつつも、不敵に笑う。

「そうか。その爆弾がこの部屋にも仕掛けてあるのだと言うのだな」

「違う。その爆弾はお前の妻と娘がそれぞれ監禁されている場所に仕掛けてある」

「は?」

「聞こえなかったのか?その爆弾はお前の妻と娘がそれぞれ監禁されている場所に仕掛けてある」

「そ、そんなことを誰が信じると」

「お前の妻と娘は城の中央塔地下3階にある隠し部屋で発見した。美人の奥さんと、それに似た可愛らしい娘さんだな。少々心が痛んだが二人を引き離し、それぞれ南塔と北塔の一室に監禁した。あそこは素行の悪い兵士が多いようだからな。もしかしたら見つかって妙なイタズラをされんとも限らんな」

「お前には人の心があるのか!ありえねえよ!」

「ありえない?なら試しにお前の妻だけ爆破してみるか?Bのスイッチだ」

「待て!押そうとするな!ごめんなさい!変なこと言ってごめんなさい!」

「じゃあ、娘だな。Cのスイッチだ」

「じゃあって何だよ!訳分かんないよ!」

「うるさいなあ。そんなに爆破してほしくないなら、姫をさっさとよこせ」

「分かった!分かったからスイッチからその指をどかせ!」

 慌てふためきながら、魔王は玉座の背後から荒縄で縛り上げられた少女を引っ張り出した。

「そんな所に居たのかよ。何だか腹が立つなあ。スイッチ、オン」

 パチ。

「うぉぉぉぉぉぉ!て、てめぇ、Aのスイッチ押してんじゃねえよ!」

「じゃあBとCを」

「もっと駄目だよ!」

「まあ、お遊びはこの程度にして人質の交換といきますか」

「あ、遊び・・・・・・」

 魔王の凋落ぶりは痛ましくすらあった。

 黒服の男はリモコンを、魔王は姫を床に置くと、向き合ったまま円を描くようにして移動する。互いの立ち位置が入れ替わり、人質の交換が完了する。

 そして黒服の男は懐から拳銃を取り出すと魔王に向け発砲する。七連射。再装填。

「降伏しろ。今なら老後の相談にも乗ってやる」

「するよ。もうどうでもいいよ」

 魔王はちょっと泣いた。




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