01-2/1-晩冬に訪れる呪術師
本作中のオカルト関係の知識は基本的に出鱈目です。また、主人公のソウは呪術師ということになっていますが、呪殺だとか生贄だとかいった要素は限りなく少ないです。
JR・寿出歌駅から一組の男女が現れた。
一人は、どこか飄々とした雰囲気のある少年である。右腕をだらりと異様に脱力させている。名はソウという。
もう一人は、どこか淑やかな雰囲気のある少女である。つややかな黒髪を背中の半ばまで伸ばしている。名はユーメイという。
名といっても、それらは二つとも本名ではない。ただ、本人達がそう呼び合っているため便宜上そう表記しておく。
「駅から徒歩5分か」
「歩きますか?」
「そうしよう」
晩冬の街路を並んで歩く。
そこそこ晴れた空から、暖かな日差しが注いでいる。
「昼寝日和だな」
「そうですね。それに散歩をするのにも適しています」
心地よさそうな表情でソウが言うと、穏やかな表情でユーメイが返す。
時折短い会話を交わしながら、目的地へと向かう。
7分歩いた。
「ここか」
二人の目前には地上30階建てのマンションがある。その名もJタワー。Jの文字が何に由来しているのかは不明である。
その13階の角部屋に、ソウは視線を向けている。
「俺の気のせいだろうか。あのマンションの一室からものすごい怨念を感じるのだが」
「私にも見えますね。紫色の禍々しいオ−ラが」
「そのリアル心霊スポットに、俺たちは住むわけか」
「何とかなりますか?」
「ユーメイのサポートがあれば、多分大丈夫だろう。実際に入るまでは断言できないが」
「えーと、大丈夫ですか?」
「大丈夫、だと思います」
管理人の問いに、ソウは微妙な返事をする。
「家賃三万円の件は」
「はい。大丈夫です」
ソウたちとオーナーの間で、除霊することと引き換えに家賃を一月三万円にするという交渉をしていた。この地域の1LDKとしてはかなり安い。おまけに、敷金礼金ゼロ。
心霊スポットとして一部屋潰したままにするよりはまだマシだろう。それに、放置しておいたらマンション全体の評価も下がる。
「それでは」
ソウは1301号室の扉を開け、進入する。
「気を強く持っていてください。危ないと少しでも思ったら、すぐに逃げてください」
続いてユーメイが入り、扉を閉じる。
暫くして、室内からの音が管理人の耳に届く。
「うわー、もう黒いし」
「空気が悪いですね。換気してもいいですか?」
「頼む。脳みそが腐りそうだ」
「あっ。手が出てきました」
「捕まえたか?」
「すぐに消えてしまいました」
「あー、面倒だ。片っ端から消せばいいか」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
凄まじい絶叫に管理人はビクリと身を震わす。
「ヒギャアアアアアアアア!!!!」
「うるせー。うわっ、逃げた」
「ギィィィィィィ!!!!」
「ユーメイ、手伝ってくれ」
「はい」
「グベラッ!!!!」
肉と骨が潰れるような生々しい音がした。擬音で表現すると「グシャッ!」みたいな。
「これは、エグいな」
「すいません。まさかこんな柔らかいとは」
「まあ、いい。意外と見掛け倒しだったウガッ!」
「何か生えてますね」
「すでに原形を留めていないぞこれ」
「出来れば部屋に損壊が無ければいいのですが」
「そうだな。遠慮する必要は無いようだし、次の一撃で」
「vbrt!fber!!bfdas!dekodk!!!!」
形容不能の、おぞましい咆哮が響き渡る。
しかし、その声は唐突に途切れる。
「骸は土に還るもんだ」
部屋からはユーメイだけが出てきた。何か赤黒い汚れが服にべったり付着している。
「あの、神崎さんは?」
「疲労したので休んでいます。傷一つありません」
「そ、そうですか。それで悪霊は?」
「消えたと思います。何なら入りますか?」
「遠慮しておきます」
曖昧な笑みを浮かべて管理人は辞退した。