夢の彫刻
「これは見事なもんだ。」
そういうのは彫刻歴20年のベテランの彫刻家、庁 刻次郎。彼の目に狂いはないと評判されているほどだ。
そんな彼に彫刻を見せるのは、見た目はサラリーマン、しかしどこかおかしい気がする、そんな青年だ。
そんなにいい彫刻をなぜこの彼が持ってきて、評価してもらっているのかは、2か月前の話になる。
それは、彼が会社から帰ってくると、家のパソコンの画面にこんな文面のプログラムが起動されていた。
”彫刻はお好きですか?-YES(0)-NO(1)※閉じるには選択してください”
彼は直球に1を押そうとした。だがそれは彼の飼っていたインコによって0が押されてしまった。直後、彼の目の前に黒い熊の影が現れ、低くかすれた声でこう言ってきた。
「お前に素晴らしい彫刻を作ってやろう。」
そういって消えていったのだ。だがそんなもの夢だろうと思っていた青年は2か月後、家に戻った時、驚いてしまった。
見事な熊の彫刻がパソコンの前に置いてあった。だが、見事かどうかは青年にはわからない。そこで、この庁 刻次郎に鑑定を頼んだのだ。
「これはどこで手に入れた彫刻なのだ?」
庁氏は青年に尋ねる。
「いつのまにか部屋にあったのです。」
「なんと、それは不思議な話ですな。詳しくいいですか?」
青年は今までのことを伝えた。そしてしばらく考え込み、青年に彫刻の横で眠ってくれと頼んだ。ベンチに横になると、急に意識がなくなってしまった。
目を覚ますと、そこは自宅だった。日付を見ると2か月後でもなんでもなかった。そう、全ては夢だったのだ。
しかし、パソコンにはプログラムが起動してあり、そこにはこう記されていた。
”どうでしたか?素晴らしい彫刻だったでしょう?”
青年は、目の前に記された文の意味を必死に考えた。だが、それは夢だったのだ。現実には何も残っていない。ただ、彫刻家、庁 刻次郎という人物は実在し、同じ住所にいるそうだ。
週末、青年はその場所に行った。すると、庁 刻次郎氏から不思議な話をされた。それは、青年が彫刻を持ってきて素晴らしかったが、夢だったということだ。だが、最後だけが違った。その日、青年はお礼を言って帰ったというのだから。
しかし、青年にはそんな記憶はない。不安になって一度自宅に戻ってみる。玄関を開けると、そこから部屋のパソコンの前まで一直線だ。そして目を疑った。彫刻が置いてあるのだ。それは夢で見たものと同じもので、自分の横にあったものだ。
パソコンの画面を見ると、
”あなたは二つに分かれました。そして一つになってしまったのです。夢と、現実と、その二つが混ざったのです。その流れに彫刻も紛れ込んでしまい、現実となってしまいました。こんなことあってはなりませんので、その熊の彫刻があなたを喰らい、あなたの存在を消すでしょう。そして夢のあなたが現実になるのです。この家には直に夢のあなたが戻ってきます。それまでに消えてください。”
途端に熊が鳴き声を上げて動き出した。その動きはまさに熊。野生の熊は時速60キロで走るという。その速さに追いつかれ、青年は喰われた。そして、熊は消え去った。
青年は家に帰ると、いつもと雰囲気が違うパソコンを見た。画面には、
”彫刻はお好きですか?-YES(0)-NO(1)※閉じるには選択してください。”
時間が永遠に来てしまうというのを想像して書いてみました。よく時間が永遠にあればいいなと思ってしまいます。しかし、いくら時間が永遠にあっても、それを繰り返してばかりでは面白くないということをこの短編、本当に短編な小説で表してみました。文章は下手ですが、永遠に時間があっても繰り返すだけでは面白くないと伝わったでしょうか?
だから、時間を永遠にではなく、繰り返さない永遠の時間を夢見てください。