5話:周辺環境調査(南部)
早朝、まだ外は薄暗い内に目が覚める。
体を起こし、ベッドから降りて伸びをする。
歩く度に、竜を思わせる長い爪の異形の足が床に当たってカツカツと音が鳴る。爪の伸びた猫がフローリングの上を歩いた時の様な感じだ。
一階に降りて朝食の準備を始めよう。
竈に薪を入れて、物音で起きた白蓮にブレスで火をつけてもらう。火おこしの間に井戸から水を汲んで来る。
ジャガイモを2つ洗って、十字の切込みを入れて竈の火の近くに置いて火を通す。
昨日買ったソーセージを薄切りにし、バターを溶かしたフライパンに入れる。塩胡椒で軽く味付けし、溶き卵を入れてオムレツに。
同じものをもう1つ作り、こちらは昼食のお弁当用にする。行く時にパンでも買ってお昼の足しにしよう。東に行った時釣りでもして魚を釣れば足しにもなるだろう。
湯を沸かし、コーヒーを入れておこう。眠気がスッキリするし、集中できるからな。
小さなお弁当いっぱいにオムレツを入れる。熱があるので蓋を閉めるのは後にする。
大きめの皿を1つ用意し、オムレツと焼き上がったジャガイモにバターを乗せ、軽く塩胡椒を振る。
「昨日パンでも買って来ればよかったかな」
ハンターの朝食としては少ないが今日は食材が少ない。帰りにでも食材を買っておかなければ。
コーヒーを飲み一息つく。今日は村の周囲の環境確認を行う予定だ。地理情報やモンスターの分布状況等を確認し、セーフハウスの候補地等も出来れば見つけておきたい。
無論、全てを詳しく見ることは無理だろう。だが、大まかに見て回ることは出来るだろう。
錬金術で作り出した洗剤で食器を洗い、食器籠に入れる。食器の数が少ないのですぐに片付いた。
濡れた手をタオルで拭いてお弁当のオムレツの様子を見る。
お弁当の熱が落ち着いたのを確認して、冷めているのでお弁当箱の蓋を閉めて、二階に持って上がる。
仕事の準備を始める為2階の仕事部屋に入り、装備一式を装着する。頭・胴体・腕・腰・脚にギルドからの支給品のドラウドラシリーズを身に纏う。
とある肉食の小型モンスターの皮と局所に金属プレートによる装甲。
身軽で動きやすさと生存性を重視されたドラウドラギルド所属の新米向けに支給される装備だが、強化を施し使い続けるハンターは多いと聞く。
自分の獲物である双剣を腰に差し、胸や腰のベルトにあるポーションホルダーにいくつかの薬を入れて、何時でも使えるようにしておく。
折りたたみのピッケルや釣竿等の小道具、どこでも食事ができるように調味料や簡易の焚き火台とスキレット。先ほど作ったお弁当や水筒をバックパックに入れて背負う。
素材等採取物を入れる為、もう2つ空の大きなバックパックを持つ。
これで準備は万端だ。出発しよう。
装備の擦れる音を立てながら階段を降りて1階に。
そのまま外に出て八重のいる厩舎を見る。寝ていた八重は俺が近づいた事に気づいたのか体を起こし、こちらに近づいてきた。
「おはよう、よく眠れた?」
「クルッ!クルッ!」
「それは良かった。今日は忙しくなるわ」
騎乗装備一式を八重に装着し、背負っていたバックパックと空のバックパックを固定する。
「バランスは大丈夫?」
「クルルル!」
八重を厩舎からだして、その背に跨る。白蓮も背に飛び乗ったのを確認し、まだ早朝で人もまばらな村の大通りを進む。
大通りの店で早朝から開いているパン屋で小さなバケットを買っておく。昼食でオムレツサンドにするのだ。
大通りを南に進み、南門から外に出る。
村の周囲は切り開かれた草原で、そのまま進めば小さな鉱山があるはずだ。東に行けば丘陵地帯さらに先は海に出る、北は森になっており、その先は山だ。
西は麦畑なので除外する。
一先ず南から順に行くとしよう。足で八重に合図を送り、進み始める。ここは広いので八重を進ませ思い切り走らせる。ここ数日は荷台を引かせてたので思い切り走れなかったのもある。
八重が思い切り走るように、白蓮も飛び立って行った。
白蓮の役割は主に偵察と助攻だ。モンスターの居場所を見つけたり、ブレスによる攻撃支援が白蓮の役目となる。
八重をしばらく走らせれば南の鉱山に到着した。
周囲を見回るように山際を見ていると洞窟を見つける。
村の方に踏み固められた道があるのを見るにこの洞窟は村の者たちの手で掘られた坑道か何かだろう。
白蓮を呼び戻し、八重から降りて洞窟を進む事にする。
しばらく洞窟を進むとヒカリゴケが生えているのに気づく。暗闇を照らしていてランタンで照らさずとも十分な視界が確保されている。
そのまま先に進むと幾つかの横道が出てきた。木の枠で補強されていたり、風化したピッケルが転がっているのを見るに、昔はここで採掘をしていたのだろう。
適当な横穴をセーフハウスに使うことは出来そうだ。
坑道をさらに降りると広い空間に出た。掘り進められた痕跡のあった坑道とは違いこちらは自然な空洞に見える。
「天然の地下空洞……」
およそ直径100m程の広さの溶岩の冷え固まった洞窟、地質学等には詳しくは無いがまるで胎内にいるような、樹木のうろの中のように見える。
入って来た地上に上がる空洞とは別に三方向に洞窟がある。
1つは来た道と同じ坑道のように掘り進められたような道。恐らくは過去、あの村に住んでいた者達が掘り進めたのだろう。
「鉱石の採掘も依頼されてるし、採掘していこう」
八重のバックパックから折り畳みのピッケルを取り出し、坑道を進む。
意識して鉱石がある場所を探すように見る。
世界の小窓は言うなれば検索エンジンだ。
視認か接触する事を条件に対象の様々な情報を得られるが、その中の情報は大衆の偏見と言った確実とは言えない物も混ざっている。
だが、今のように探し物の際にも重宝する。
最奥に着いたところで注意深く観察すると色の違う場所を見つける。そこにウィンドウが出ており、そこにはこう表記されていた。
黒鉄鉱石
分類:鉱石
レア度:Ⅱ
黒い鉱石駆け出しのハンターが初めて作る武器素材の素材になる事が多い。
通常の鉄鉱石よりも良質な金属を精錬できる。
性質等が鉄に似ているので黒鉄鋼と呼ばれるが厳密には通常の鉄とは違う鉱石。
「とりあえずこれで良いかな」
プラーナと呼ばれる生命エネルギーを意識して、両手でピッケルを持って思い切り振り下ろす。
甲高い音を坑道内に響かせ、鉱脈から幾つか鉱石が零れ落ちる。
ハンターがモンスターに振るう力、プラーナは人外の膂力と瞬発力を生み出し、一般人が普通に使う分には壊れることの無い鋼鉄製のピッケルを消耗品にさせる。
ハンターは武器や防具だけでなくピッケルと言った道具も強化して行かなければならない。
数度ピッケルを振り下ろし、採掘をしていると鉄や黒鉄鋼とは違う鉱石が混じっている事に気づく。
名称:ハーティライト鉱石
レア度:Ⅲ
分類:鉱石
鉄よりも強靭・剛健な良質な金属を精錬できる。
精錬できるハーティライト鋼は生半可な鍛冶屋では扱うことは難しく熟練のハンターが扱う装備によく使われる。
量は多くない。武器や防具に使うには量は足りないが納品のボーナスにはなるだろう。
「ここはこんなもので良いかな」
今後も来る事があるだろうし、他の場所も見て回らないといけない。必要なら後からまた来れば良いだろう。
ピッケルと採掘した鉱石を八重の空きバックパックに入れて来た道を戻り、先程の大空洞にでる。
あれだけ大きな音を出しても何のモンスターも出てこないのを見るに、この辺りはモンスターが少ないのだろう。
大空洞に戻って右側を壁沿いに進み、緩やかに地下に向かって続く横穴に入る。
光苔が照らしていた坑道とは違い、こちらには量が奥につれて減っていく。それに反比例するように熱気を感じ、頬にじんわりと汗が浮かんでくる。
「暑い……下はマグマかな」
予想通り、降りた先はマグマ溜まりとなっていた。
この山は火山ではないと聞いていたがこの溶岩の海を考えれば希少な鉱石や溶岩に生息するモンスターもいるかもしれない。
溶岩溜まりの淵沿いに近づくと溶岩が湧き上がってコポコポと鳴る音が聞こえ、かなりの熱気を感じる。
周囲を見渡す限り溶岩棲のモンスターは見えない、少なくとも今の所はいないようだ。
「ついでに何かないか探してみましょう」
周囲を見回しながら溶岩溜まりの周りを歩く。現状では使い道の薄いカイロになる石や収集優先度の低い物が見つかる。
「燃石は別に店で売ってるし凍土にでも行かないと使わない……」
高熱地帯に自生する植物や甲虫種も見かけるので幾つか採取しておこう。このような高熱の環境で育つ植物や耐熱能力の高い甲虫は耐熱効果を得る薬の材料になる。
いつの間にか飛び立って溶岩の上を飛んでいた白蓮が何かを見つけたのかこちらに帰ってきた。
『主、変なの』
「私は変じゃ……鉱石?」
白蓮が前足で器用に赤黒い鉱石を持って来た。
鉱石を受け取って確認してみると、まだかなりの熱があるようで鎧越しでもかなり熱を感じる。溶岩の上に浮かんでいるのでも持って来たのだろう。一旦地面に置いてから調べる。
名称:デモニア鉱石
レア度:Ⅲ
分類:鉱石
火山地帯で採掘される事の多い赤黒い鉱石。
かなり熱に強く融点がとても高い、コーティング剤として使用すると炉や武具に高い耐熱効果を得られる。
「なかなかいい物見つけて来たわね」
白蓮を褒め、八重のバックパックに入れておこう。これなら鍛冶屋のおやっさんも満足するだろう。
ある程度見て回ったがここは見られる場所もさほど多くないので上に戻って次に向かう事にしよう。
この溶岩溜まりは殆どが溶岩でその周りくらいしか見られる場所はなさそうだ。仮に冷えて固まれば奥の方まで見に行けるだろうが今の所は無理だ。
水分補給のため水筒の水を飲み、八重や白蓮にも水を飲ませてやり最後の東側のやや上に向かっている通路に向かう。
坂はさほど急ではないが少々長い距離を歩いた。
十分程歩いていると心なしかひんやりとしてきたように感じる。耳をすませば水音が聞こえる事から近くに水源があるのだろう。
さらに数分歩いた先には大きな地底湖があった。所々からポコポコと水が湧き出ており小型の甲殻類モンスターも見える。透明度が高く、深い所でも水深5m程だろうか。それでも底の砂地が見えるようだ。
地底湖周囲は階段状となっており、一段一段は1〜2m程となっている。
「一応ここって地上よりは上だと思うから地底湖って言うのもおかしな話だけど……」
周囲を確認しながら最下層に降りる。砂浜の様になっており、所々に魚の骨らしき物も見える。
上からでは見えにくかったがこの地底湖はそれなりに広く、端は20m程先だろうか。
「甲殻類……か。腕試しには丁度いいかしら」
自分の腕が落ちて無いか、ちゃんと戦えるのかの確認を兼ねて目の前のモンスター達を討伐する。
「周囲の安全確保と生態調査の一環として、モンスターの討伐を行います……白蓮、今回は手を出さないで」
意識を戦闘に切り替える。精神統一の為一度肺の空気をゆっくり吐き、ゆっくり吸い込む。
双剣を抜き、3体居る内の近い一体にステップで近づく。
5m程あった距離は一瞬で無くなり、そのままの運動エネルギーを乗せて、口と思われる部分から頭にかけて両手の突きを放つ。
剣から伝わる肉を切る感触。どうやら甲殻のせいか貫通せずに途中で止まったようだ。
そのままダメ押しに双剣を左右に振り抜き、とどめを刺す。
「次ッ!」
まだ戦いは終わっていない。近くの一体に迫る。
流石に黙ってやられる気は無いようで、異様に発達したハサミを高速でまるでシャコパンチのように繰り出す。
左で弾き、カウンターの様に右の双剣で先程と同様の突きを放つ。
しかし倒しきれなかったようでハサミを横凪に振るうのをジャンプで躱し、そのまま体重を乗せて切り捨てる。
もう一体には逃げられたようだ、既に姿は無く穴でも掘ったか水の流れに沿って外に出たのだろう。
戦闘が終了した。漫画やゲームのように無感情に、或いは楽しんで倒すことは無い……とは言い切れない。
達成感や強敵に挑む事に対する楽しみと言うのは存在する。無論むやみやたらに殺す事はしないし、快楽主義者でもないが。
ハンターにはこう言った考えを持つ者は多い。バトルジャンキーに近いとも言える。
「さて、剥ぎ取りましょう」
今回は荷台が無いので全ては持って帰れない、だが全長3mはあるこのマンティクローなら特徴的なハサミと甲殻だけでも十分だろう。
剥ぎ取り用の切れ味に特化したナイフで、甲殻の隙間に刃を入れて各種素材を剥ぎ取っていく。
剥ぎ取れそうな部位は、頭の甲殻・鋏・尾の甲殻だろうか。
「頭大きいわね……」
かなり大きいが、甲殻は見た目より結構軽い。サクサクと解体して八重のバックパックに入れておこう。
「身はちょっと持って行きましょう」
生は流石に怖いが加熱すれば中々行けそうだ。
尾の方の肉を10cm程切り取って、紙に包んで持って持っていく。
残りは自然に返す。他の水棲モンスター等が食べたり、小型の生物の餌となる。
水の中を泳ぐのは……今日はやめておこう。別に濡れたくないとかではない。水中での探索は時間がかかるからだ。
「水は北東に流れてる……このまま水の流れる洞窟に沿って東の丘陵地帯を目指しましょう」
プラーナはハンターがモンスターと戦うため力
生命エネルギーであり、この力を高めて強力な膂力や回復力を得ている。
幾つか系統があり、目的の系統を鍛えれば成長し、特化させることが出来る。
系統にはパワー型・スピード型・バランス型がある。
パワー型は筋力や耐久力が優れており、大剣や大盾をもつ者が多い。
スピード型は瞬発力や持続力に優れており、双剣や銃を使う者が多い。
バランス型は平均的に高くどんな武器でも扱える。




