38話:天晴を求めよ、滅地白天に女帝は眠る2
カーパイトの噴射を利用して空中で体を捻り、再度切り返す。切り返したところでカーパイトは文字通りガス切れになったので傷口部分に投げ、尻尾の星天の彗星を両手で持つ。
翼が狙われている事を察したのかスカーディレは体を捻るが、もう遅い星天の彗星の切っ先は先ほど切り裂いた左翼をもっと深く切り裂いた。
星天の彗星の刀身が真龍の特徴的な血液で白く染まり、新たに赤い星が煌々と輝く。
だが、あまりダメージは通っていない。翼の関節部を狙ってダメージを積み重ねているのに、まるで無傷かのように動き続けている。
まるで、その程度のダメージでは意味が無いと言われている気分だ。この攻撃は意味がないのかもしれないと……精神的にきつくなる。
俺がこの戦いにおいて切れる札は4つ。正確に言えば4種だが、1つは纏氷弾と同じようにグラウマグナクの素材を使用した錬金弾だ。作成数が少ないのでこれは今回1発しかない。
残り3種の内2つはアクセサリーの効果だ。両方装備部位が腕なので付け替えなければならない。しかも、片方は世界の小窓の情報を信じるならハイリスクハイリターンの効果だ。
そして最後の1つは龍祖人としての力だが……これは言ってしまえば命を削るような物だ。不可逆の物で使いどころは限られる。使う事になったとしても最終手段か、ここぞという時しか使えない。
チャンスを作り出すために切れる札は切る。
噴雷の円環……新造したアクセサリーの1つであり、一番使い勝手がいい品。
3種の効果を内包し、1つは常時発動する微弱な電気的刺激によるスタミナ消費の軽減と疲労回復。2つ目は心停止した際に自動で心臓を正常な状態へ戻す限定的な蘇生効果。最後の1つは、両腕に装着しているこの腕輪をぶつけ合う事をトリガーとした雷属性効果の付与。
「効果時間は3分!早く対策を練らないと、その翼もらい受けるわ!」
着地して体勢を立て直す。着地の隙は白蓮が放つ炎のブレスによって庇われる。
白蓮の高温のブレスはスカーディレの顔面に直撃し、放たれようとしていた何かは中断された。恐らく氷属性のブレスか何かだったのだろう。
そのまま白蓮の炎属性ブレスは収束し、そのまま薙ぎ払ってスカーディレの身体に沿って焼き払った。
ブレスの余波で周囲の気温が上がり、少しだが寒さもましになった。ブレスによってスカーディレ視界が塞がれたその隙に再び跳躍する。
今度は右翼を狙い飛び上がった……スカーディレと目が合い、その口がこちらに開かれる。
白蓮のブレスをまともに受けたのに全く怯んでいない。ただ、見えなかったからブレスを放たなかっただけだ。
世界がスローモーションのようにゆっくりに感じる。死の直前にこんなことがあるらしいが、少ないながらも今まで得られたハンターの経験から分かる。あれに当たればたとえ今手に持つ剣を盾にしようと俺の命を刈り取るだろう。
高速でこちらに放たれる氷のように見える何か……凝縮された冷気の塊を、体を捻った上で全身のスラスターで躱す。
凝縮された冷気の塊が脇腹を掠め、地面に着弾した事が音で分かる。
脇腹こそ掠ったが、瞬時に薄い氷の装甲が現れて全身が氷のオブジェに変わるのは防ぎきった。地面はパキパキと言う嫌な音が聞こえるので、見ずとも大体予想がつく。
防ぎきったと言うのは語弊があるか……。
「ケホッ……」
左脇腹を掠っただけで、肺が凍ったのか呼吸がまるでできない。思わず血を吐き出し、激痛と呼吸困難によって意識が飛んでいきそうだ。
空中で行動不能になる前に小型の回復結晶を即座に取り出し、手で割って体を癒す。
装甲の隙間に幾つか仕込んでおいたので、衝撃を受ければ自動回復になるが……こうして冷気による攻撃だと意味がない。
改めて体勢を立て直し、スラスターで再加速して星天の彗星を振りぬき、右翼を切り裂く。
攻撃は通ったが、左翼を攻撃した時のように、傷口でなければ鱗や甲殻がダメージを軽減してしまう。一言で言えば的確な攻撃にはならなかったので星は灯っていない。
しかし、アクセサリーの装備スキルによって付与された雷撃によって、ちゃんとした属性武器程では無いが十分なダメージとなっている。その証拠に稲妻の様な跡がくっきりと見える。
属性によるダメージは純粋な防御力では防げない。冷気と熱気のように相反するものか、同じの系統の物であれば相殺したり、高い耐性を持つが。それ以外の物には防御となりえなかったり、むしろ弱点となりえる。
雷属性は減衰しているようにはあまり見えない。目算だが、プラマイゼロってところか。
体を捻り、再度加速して再びスカーディレの左翼を渾身の力で振りぬく。
流石に何度もやっているせいか動いて攻撃が少し浅くなったが、十分なダメージは与えられた。それに、今回の主目的は攻撃ではない。
落としたカーパイトの近くに着地して回収し、星天の彗星を尻尾に持ち直す。グラナークの冷却も終わったので最初と同じ三刀流の状態に。
星天の彗星に灯っている星は今のを喰らわせて光ったので4つ光っている。星の数だけ身体能力が強化される効果時間は変わる。そして、強化時間中に形が変わって槍となった星天の彗星で刀身に再び光を灯し、その内包したエネルギーを一気に放出する。これがこの星天の彗星と言う武器の想定された使い方なのだろう。
「上手くいくかしら……」
実は星天の彗星の槍から大剣への装備スキルである【何時か届きし星】は試したことがない。
つまり、どういう開放のされ方なのか分からないのである。何しろそこら辺の壁を殴った所で星は灯らず、試すという事が出来ないのだ。しかも星は5分ほどで消えるので事前に貯めると言ったことも出来ない。
ならどうするか……ぶっつけ本番になるが、0距離でぶつけるしかない。出てくるのがビーム的なのか、爆発的なのか分からないが、0距離で直撃させれば効果はあるだろう。
そのためには、最低でも地上に居て、しっかりと踏み込みと踏ん張りが効く状態がいい。
息継ぎの終わった白蓮によるブレスが再びスカーディレの巨体に照射される。
今回は炎では無く、雷撃のブレスだ。先ほどの俺の攻撃を見て、炎よりも効果的だと判断したのだろう。
雷撃……雷撃か。
アイデアを思いついたので試してみる。
雷撃がスカーディレの気を逸らしている隙に再び跳躍し、一度追い越してから背に回り込む。
グラナークを戻し、空いた手で右翼を掴んでしがみつく。カーパイトをスカーディレの背に深々と突き刺すと、明らかに怯んだようで空中でもがき始めた。
「流石に……体格差がありすぎるからきついわね」
グラウマグナクにしがみついた時はフックショットがあったので容易に貼り付けられたが、今回はそう言うわけでない。剣と翼を持ってはいるが、そう時間をかけず振り落とされるだろう。しかし、目的は達した。今回の目的はカーパイトを刺すことだった訳だが……せっかく背を取ったのだから、振り落とされる前にやれるだけの事はさせてもらおう。
右翼の根元にゼロ距離でグラナークの高熱の刃を押し当て、一気に焼き切る。物理的な攻撃ではないので、グラナークの高熱の炎には雷撃は付与されていないが、翼を掴んでいるのでその分は、深々と突き刺さっているカーパイトを通って体内から焼くだろう。
グラウマグナクはその熱気で岩壁を溶かすほどの力を持つ。グラナークはそれを体現したような武器だ。いかに冷気を操るとはいえ、この攻撃は無視できないだろう。
スカーディレの甲高い、まるで女性のオペラ歌手の様な絶叫が木霊する。
空気を、空間を震えさせるその咆哮は衝撃波となり、俺の身体を吹き飛ばした。
空中でなんとか体勢を立て直し、飛んできた白蓮に掴まる。
「雷撃のブレスを優先して、私の剣が避雷針の代わりになって命中しやすいはずよ」
『避雷針とは何だ?』
「……雷を意図的に誘導する物よ」
『なるほど、理解した』
カーパイト自体の通電性は全くないが、カーパイトに食わせた金属は高い通電性を持つ。避雷針として十分に役立つはずだ。刺した位置的にもそう簡単に抜けないはず……これでダメージを与えやすくなった!
名称:噴雷の円環
ランク:Ⅱ
装備部位:手首
内包スキル
縦雷:常時発動:肉体の疲労を癒し、行動時のスタミナ消費を軽減する。
横雷:心臓が停止した際に再度正常な状態へと戻し、蘇生する
点雷:【特殊状態:纏雷】状態となる
【特殊状態:纏雷】:再使用10分:3分間装備している腕での攻撃時に追加で雷属性30相当の追加ダメージを与える。
大地の産声、拍動するそれは雷鳴と共に現れた。その雷鳴をその身に宿す




