3話:村の案内
案内された店マハマの飯屋はかなり大きな店だった。村の中心部にあり、木造の平屋でU字のような店内となっていて真ん中で料理を作る方式のようだ。
お昼時なせいか殆どの席が埋まっていたが、真ん中のカウンター席は幾つか空いていた。
酒も出しているのか昼間だと言うのに飲んだくれている者もいるのを横目に、空いていたカウンター席にセシリアと並んで座るとセシリアがそそくさと自分の文を注文してしまった。
『我、肉、求む』
ずっと尻尾の付け根を止まり木代わりに静かにしていた白蓮がここぞとばかりに食べたい物を要求してくる。
「ステーキセットと単品でステーキをお願い」
「ハンターさんよく食うねぇ!」
店員に誤解された様だ、無理もないか。
「この子の分よ」
そう言ってよじ登って肩車の状態になっている白蓮を指さす。するとなるほどと納得したのか頷いてから奥へ行く。
「その子見た事ない種類の飛竜ですけど……人間用ので大丈夫なんですか?」
「この子は大丈夫よ、心配しないで。それに今更ただの生肉あげても文句言うしね」
舌が肥えたおかげで出費がやたら嵩んで仕方ない。
兜の顎をずらして水を飲む。
「ヘルムは外さないんですか?」
「ちょっと色々あってね、外さないようにしてるの」
「顔に傷があるとか?」
「まぁ、近いわね」
「ただでさえ珍しい竜人族の方ですからお顔を見たかったのですが、残念です」
「まっ、その内ね」
そうこうしてる間に食事が届く。ワンプレートの中にカットされたステーキと薄く焼かれたパン。それと付け合せの赤いソースがかかったマッシュポテト。
パンはナンとタコスやトルティーヤの間のような感じだろうか。
隣の席が空いたのでそこに白蓮を乗せて食べ始める。
肉は塩胡椒が効いていてそれをパンで包み上からソースの付いたポテトを乗せて食べる。
まぁ、美味い。ソースは何かよく分からんけど……なんだろ、バーベキューソースが近いかな。
名称:マハマの店の万能ソース
分類:調味料
内容物:塩・胡椒・砂糖・ルコの実・ニンニク・トマト・ラード・ナンプラー
チェムル村のマハマの店で使われる万能ソース。
秘伝の味付けでこのソースを味わう為にチェルム村に来る者もいる。
ルコの実をメインに隠し味の特製ナンプラーが味を深める
はい……こうして口外出来ない美味しいレシピが増えて行くんですね。味わおうと意識するとこうなるんだよ……。
『主の方、美味』
「そう、ありがと」
これでも前世で自炊生活してたしこっちで良いもの食べてた上にこうしてレシピが増えて行くからねぇ。
昼食時で混み始めているのもあり少しハイペースで食事を済ませて代金を置いて全員で店を出る。
白蓮はおんぶするような形で引っ付いている。
「次は雑貨屋に行きましょう。大体の物はそこで揃うので覚えておいて下さい」
「えぇ、分かったわ」
マハマの飯屋から数分歩くとその雑貨屋に着いた。商店通りでも大きな店で少し離れた場所からでも呼び込みをしている若い女の子が見える。
こちらに気づいたのか少女がこちらに手を振って近づいてくる。
「セシリアさん!ハンターさん!良ければ見ていきませんか?」
「丁度行こうとしてたんですよ。改めて、こちらハンターのアルテイシアさんです」
「あ、私はエリカです!」
「初めましてエリカちゃん。アルテイシアよ、よろしくね」
握手のため手を差し出すと笑顔で返してくれた。
「おばさんは中ですか?」
お互いに手を離したところでセシリアがエリカちゃんに聞いた。
「はい!呼んできますか?」
「いえ、中に入らせてもらいます」
話の流れから察するに、エリカちゃんのおばあちゃんかお母さんあたりかな。
エリカちゃんに案内され店の中に入ると様々な商品が並んでいた。ジャンル毎に綺麗に区分されており、傷に効く葉等が置かれた薬草の棚やハサミと言った小道具の棚が並んでいる。
棚の間の通路を進み奥へ行くと40代前後と思われるエリカちゃんに似た女性が座っていた。
「こんにちは、エリサさん」
「あら、いらっしゃいセシリアちゃん。そちらの方は……」
「ハンターのアルテイシアです。初めまして」
「エリサです。せっかくならサービスするから是非買って行ってね」
「はい、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
買うなら何がいいか……薬草関係とロープにピッケルかな?釣竿は手持ちのがあるからいいか、食べ物は売ってないみたいだしこれぐらいかな。
「これでお願いします」
「はーい。割引と端数はサービスで全部で120イニーね」
数枚の紙幣をエリサさんに渡す。
イニーと言うのはハンターギルドが発行している通貨で1イニーが100円程になる。つまり今回の会計は12000円くらいって事だ。
「アルテイシアさん。あなたは錬金術師だと聞いております。1つお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「……エリカちゃんについてですか?」
「はい……良ければあの子に錬金術を教えてあげてもらえませんか?」
「ふむ……いいでしょう。その代わりにこの店での取引時そうですね……2割引していただきましょうか」
「ありがとうございます!でも……よろしいんですか?」
「構いません。ただ、ハンターとしての仕事の無い日等になるでしょう。そこはご理解を」
「はい、分かりました」
「エリカちゃんもそれでいい?」
「はい!よろしくお願いします!」
「よろしい、では詳細なすり合わせは後日にしましょう」
セシリアと共に店を出て次の目的地に向かって歩き始める。
「良かったのですか?錬金術の……初歩とは言え、普通に習う場合はかなりの費用となるはずです」
「一言で言うなら……夢の為……かしら」
「夢……ですか?」
「私の夢は色々な場所をハンターとして見て回る事。今は研修期間で、この村のお世話になってるけど研修期間が終わった後もずっとこの村に居続ける気は無いわ。別にこの村が嫌いと言う訳じゃないのよ?今日見て回っただけでも活気があって良い村だと思う。でも、私は先に進みたい」
「そうですか……では、エリカちゃんには頑張ってもらわないとですね」
「そうね、薬を売ったらちゃんとした教育も受けられるでしょうし私より腕の良いベテランのハンターも来られると思うしね」
そんな話をしながらも次の目的に着いた。
この村は穀倉地帯で小麦がメインだが別にそれ以外を作っていない訳ではない。
麦ばかりを作っていては連作障害になるし麦が暴落したら目も当てられない、その為自給自足できる程度の農作物を育てる畑があるのだ。
目の前に広がっているのがそれであり、とうもろこしや大豆と言った穀物や、根野菜や葉野菜も多く育てられている。
「ここのまとめ役のロコルさんが……あそこですね。挨拶に行きましょう」
セシリアが指す先には木造の休憩所と思われる物があり、そこでは数名の農家が休憩していた。その中の一人に近づいていき声を掛ける。
「ロコルさん、今よろしいですか?」
「あぁ、いいよ。朝見たハンターさんだね」
「こんにちは、アルテイシアです」
「ロコルだ。ここら辺の農区のまとめ役をしてる」
「実はこちらのアルテイシアさんから提案があると」
「提案ね、聞くだけ聞きましょうかね」
「では、こちらで幾つかの薬草などを育てていただきたいのです。勿論お代はお支払いします」
この村では薬草を入手する事はかなり難しい。月一でやってくる行商で薬や各種薬草は手に入るがそれでは俺一人が使っては足りなくなる。
そこで畑の一部を使わせてほしいというお願いだ。恒久的に薬草が手に入るのならばかなり美味しい取引と言える。
「薬草……薬草ねぇ……するってぇとあんたは薬師か何かかい?」
「これでも錬金術師です」
自分で作った傷薬をポーチから出して振って見せる。
「なるほどなるほど……金は兎も角として条件があるんだがいいかい?」
「聞きましょう」
「金とは別で薬を納品してほしい。傷薬もだが毒消しのような物があればうれしいな」
農作業中の怪我や毒虫に嚙まれた際使う薬が欲しいんだろう。
「なるほど、その条件で行きましょう」
「交渉成立だな」
結論としては固定の料金を毎月支払い、俺が調合できる品をリストで送り希望された品を翌月納品する事となった。
「ちょうど今新たに耕してる場所があるからそこをそのまま使えばいいな」
「では、よろしくお願いします」
「あぁ、任せてくれ」
錬金術を学ぶにはそれなりに裕福な中流階級でないと学べません。
それで学べるのは基礎だけなので実はぼったくり。基礎は大切だろって?それはそう。
初級で見習い中級以上の腕があれば一人前でそれで食っていけます。




