21話:氷武者が夢の跡3
全力の踏み込みで両足に古の風を纏い、森を駆け抜ける。大乱風の足環が使える状態ならフックショット移動よりも早い。速度だけを求めるならの話だが。
白蓮とセンヒョウコウの戦いは離れていても戦闘音が聞こえるので探す手間が省けた。
戦場に戻ると、俺との戦いでは使っていなかった纏っている不溶氷を飛ばすと言った遠距離の戦いをしている。
俺は接近戦をしていたし使わないのも当たり前か。
「白蓮!」
スタミナを回復させる錬金薬と、保険で中級回復薬、残りのジャーキーが入ったポーチを空に投げる。
「ご苦労様」
『しばし休む』
ポーチを空中でキャッチし、そのまま白蓮が離脱する。
誰かが一度でも深刻なダメージを受けたなら、無事な片方が戦闘を引き継ぎ体勢を立て直すまで持たせ、戻って来たらもう一人が休息に入る。これは最初から決めていた事で、白蓮が休息を終えるまでは一人で戦う事になる。
「まぁ、普通一人で戦うわけだしね」
三本の剣を何時ものように構え、改めてセンヒョウコウと対峙し直す。
こちらをしっかり見据えるセンヒョウコウがおもむろに両腕を地面に叩きつける。センヒョウコウと俺の距離はそれなりに離れている。瞬時に考える……地面を揺らした?これ程離れていては意味は……。
センヒョウコウと目が合う。明確な殺意を俺に向けるその眼を俺は信じた。すぐに銀煌の緋妖精を使用し空へ舞う。
間一髪で地面から生えた2つの氷の槍が、一瞬前まで俺の居た場所を貫いていた。
背中を冷や汗が流れる。
明確に、確実に、殺せる角度、サイズ、発射速度の氷の槍だ。
「……そんなに私を殺したかった?」
返答は天を突くほどの咆哮で帰って来た。あまりにも大きい咆哮は剣を、大地を、大気を震わせた。
銀煌の緋炎状態を解除し、着地した瞬間まるで居合の達人の如き不溶氷の剣による居合が迫る。
「二度と不覚は取らないわ」
両手に持つ黒鱗刃で弾き、物理的に不溶氷の装甲で覆えない左足の股関節部分を狙い未天の埋星を鞭のようにしならせた尻尾で高速で振り下ろす。
未天の埋星を弾くための左腕に先読みし黒鱗刃を傷口に刺し止める。未天の埋星が見事に股関節に深く刺さり、黒鱗刃によって左腕が切断される。
「なっ!」
未天の埋星が筋肉で止められ抜けない、一瞬驚きによって思考が止まる。
そんな俺の一瞬の隙をセンヒョウコウは逃すことなく、俺の尻尾を斬り飛ばした。
「あ”ぁあ”あ”っ……」
強烈な痛みが走る。歯を食いしばり、ハンターショットの貫通弾を頭に1発づつ撃ち、斬られた尾を拾いつつ下がる。
25m程離れ、普段は使わない緊急用ポーチを開く。
トカゲのように尻尾を自切するのとは訳が違う。肌や手足や髪よりも大切にしてきた尻尾なのだ。
「もういい……もういいわ」
ポーチから先ほど使った物とは大きさも、模様も何もかもが違う大きな回復結晶を取りだし、噛み砕く。
周囲20m範囲に美しい緑の粒子が撒かれ、一瞬のうちに消え去る。
光が消えた後、まるで傷など元から無かったかのような長い尻尾を確認してから、斬り飛ばされた尻尾を一口で喰らう。
「あーあ……使っちゃった」
でもまぁ、仕方ないよね?”妾”の尻尾を斬り飛ばしたんだから。
無惨に殺しても。
力を足に集中し、一気に加速する。風が地を吹きすさび、炎の翼がさらに加速させる。
一瞬のうちに氷ねずみへたどり着いた私は、そのまま刺さっていた大きな剣を掴み、振りぬいた。
足が半ばまで斬れ、血が左足を染め上げる。
地面に血が滴ることは無く、まるで氷の氷柱のように垂れさがっている。
氷ねずみが首を垂れる様に倒れ、無事な右腕と右足で何とかバランスを保っている。
「全部は斬れなかったんだ。妾ったら力みすぎちゃった」
もう焦る必要も無い、ゆっくり歩いて近づき氷ねずみの横に立つ。
「苦しいでしょ?妾ももう怒ってないから……一息で殺してあげるね」
大きな剣を両手で持ち、最上段に構え、首に振り下ろす。
その次の瞬間、その命は首と共に断ち切られていた。
「あぁ……ちょっと欠けてる。硬いんだもん、おやっさん許してよね」
すべてが終わったと確信した瞬間頭に登っていた血が抜け、冷静な俺が帰ってきた。そして先程までの言動に頭を抱える。
「…………やっちゃった……いや、まずは目の前の事からにしよう」
先に目の前の素材の解体が先だな。終了の狼煙に青い煙を出す発煙筒を使い、白蓮へ合図を送る。
待っている間に斬り飛ばした部位を回収し、一か所に纏めておく。
『戻ったぞ』
「お帰りなさい、解体していくから素材を運んで行ってくれる?後、できれば八重を連れてきて頂戴」
『承知した』
さて、解体するとしよう。硬質な甲殻も動かない状態なら綺麗に剝げる。
腕、爪、腹甲、背甲殻そして、それらに不溶氷を生成する氷結線が主な部位と言えるか。
解体作業を開始してしばらくした頃、北からまるで銃を撃ったかのような音が複数回断続的に聞こえる。
「銃声?でもこんなに広範囲に?」
何か……悪い予感がする。剥ぎ取りを急ごう。
大きな物は既に回収してる。
残りは斬り飛ばされていない右足だ、少々重くなるが足を斬り飛ばして担いでいこう。
音は次第に近づいてきている。生き物の気配はない、いや……無さすぎる。
望遠鏡を取り出し、北を覗く。
「あぁ……嘘でしょ」
この世界において、モンスターが住まう領域の樹木はかなりの硬度を持つ。丈夫で、硬く、生半可な人間の武器では傷つかない種すらある。
そんな樹木達がまるで割りばしを割るように縦に割れている。ただでさえ、今の気温は冷凍庫並みだ。それでも元気に成長している樹木達もすごいが、その樹木がポップコーンでも作るかのようにポンポンと割れている。
すぐに移動を開始する。フックショットや風と火を併用し、最速で空中を移動しセーフハウスへ向かう。
寒冷地帯に生息するセンヒョウコウすらあの冷気に耐えられなかったと考えるなら、指輪があってもどれだけ耐えられるか分からない。できるだけ急いで帰るべきだ。
「はぁ……憂鬱ね……」
種別:地獣種
サイズ:中型
使用属性:氷
モーション
氷纏:腕や甲殻に氷を纏う
氷飛礫:纏っている氷を飛ばす飛び道具
氷錐:氷を纏っている腕で地面を突きある程度離れた場所に通当てのように氷の槍を生やす
タックル:氷を棘のようにして突進
引っ掻く:片腕で行ったり抱きつくように行う事もある
氷刃斬:腕の氷を刃とし、切り払う




