20話:氷武者が夢の跡2
こちらが剣を構えるようにセンヒョウコウも武器を構える。いや、正確には生みだした。
前世で言うアルマジロやセンザンコウに近いフォルムを持つこのセンヒョウコウは、同じように強固な外殻を持つ。ただでさえ強固なその外殻は不溶氷と言う特殊な氷を纏う事で圧倒的な防御力を持つ。
防御力だけでは無く、熊の様な腕に不溶氷を纏い、まるでカギ爪の様な武器を生み出した。
背を低く構えたセンヒョウコウの突進斬りを黒鱗刃で弾き、未天の埋星を腹に叩き込む。
芯を捕らえたはずの攻撃は甲高い音を響かせ弾かれた。
「硬すぎないかしら!?」
正真正銘大真面目にカウンター気味に狙った攻撃が弾かれた。現状で下準備無しに出せる最高火力が0ダメージと来た。
センヒョウコウの抱きつくような切り払いをバックステップで躱しつつ、両手のハンターショットで貫通弾を撃ちだす。
撃ちだされた貫通弾は腕の氷のクローで止められてしまいダメージとはいかない。
硬い……。あのまず氷の防御力を突破しなければ中身にはダメージが入らない。未天の埋星や貫通弾すら有効打にならないとは思いもしなかった。純粋な防御力が高いのもあるが……。
手数で装甲の薄い部分を狙おうとステップで近づき黒鱗刃を振るう。速度を乗せ、通り抜けざまに斬りはらうあの高速技だ。
しかしその刃は届かなかった。腕のクローで逸らすか体を動かし、装甲の硬い部分で受けられる。
まるで鎧を纏った達人の武者と戦っている気分だ。分かっていた……分かっていたはずだ。根本的にこのモンスターと俺は相性が悪いと。
生半可な速度は防御力と捌きで防がれ、中途半端な威力の攻撃は効かない。
「……いや、たかが1つ策が潰れただけじゃない」
出し尽くしたか?否!否だ!真正面から戦うのだけが戦いじゃない。
木々の中へ潜り、ハンターショットの発射物をフックショットへ切り替える。木々を縫うように高速で移動し隙を狙う。
視覚に紛れ込み、一気に加速する。狙うのは厄介な腕だ、あれを破壊してそのまま斬り飛ばす!
両足の大乱風の足環が風を発生させ、さらなる加速を産む。黒鱗刃がセンヒョウコウの左腕のクローを切り裂く。更に返す刃でクローの刃へダメージを入れる。
右腕のクローを未天の埋星で弾き、反動で距離が離れた所をフックショットを左腕に撃ち込み、今度は未天の埋星で巻き取りの加速を乗せて叩き込む。
その攻撃は命中し、クローは砕けて内部の腕にも相応のダメージを与えられた。
代償として俺の腹には杭のようになったセンヒョウコウの右腕が刺さっていた。
「ケホッ」
口から血が噴き出る。体の発する危険信号を無視し、黒鱗刃で刺さっている不溶氷を砕く。まだ嵐旋風効果が残っているのでセンヒョウコウを蹴って一気に距離を取る。
「ゴボッ……ケホッ」
体から一気に気力が抜け落ちていき、明確に死が迫ってくる。右手の黒鱗刃を地面に突き刺し、震える手でポーチから赤い紋様が刻まれた薄い緑の結晶を取り出しすぐに黒鱗刃へぶつけて砕く。
結晶が砕けた瞬間周囲に緑の粒子が飛び散り、傷ついた俺の肉体が一瞬で全快する。
「使いたくはなかったのだけれどね」
俺が独自に作り出した回復薬。奥の手の1つであり、値段も相まっておいそれと使えない物だ。これはハンターでは無くとも問題なく肉体を再生させる。今回使ったのは中級……本来プラーナを使えない一般人やモンスターすら治療するこの結晶はあまりにも価値が高い。
原理的には変質性結晶体に意図的に効果を付与し、それを意図的に破砕する事でその効果を周囲へ適応するという物だ。回復爆弾と言った方が分かりやすいか。
生体素材を使用している鎧も同様に回復したのですぐに戦線復帰できるが、今のうちに疲労回復の錬金薬を飲んでおく。
飲み終わった所で瓶を放り投げ、黒鱗刃を握り直し構える。
「待ってくれるなんて優しいのね。それともこんな生き物は初めて見た?」
とはいえ回復結晶にばかり頼ってはいられない。ピュールクリスタルは今でこそそれなりに量を持っているが、一個使うごとに破産の文字がちらつくからな。
「白蓮……戦闘参加及び全属性許可」
『了解した』
基本的にピンチの時か雑魚の足止めを任せている白蓮の戦闘参加を許可する。
普段から参加させない理由は俺が怠けないようにとか、できればタイマンで戦いたいとかそんな理由だ。
白蓮が火炎放射を放つ、炎がセンヒョウコウの視界を奪い、熱が不溶氷を溶かす。溶けにくいとはいえ高熱にさらされれば効果がある。
炎につつまれた隙に接近し、腹甲と背甲の隙間を未天の埋星を叩きつける。氷の薄いこの部位を狙った攻撃は見事に通り、やっと有効打が入る。
センヒョウコウが黙っている訳も無く、炎が無くなった瞬間にまるで太刀の様に生成した不溶氷の刃が俺に襲い掛かる。
1撃目を下に弾き地面へ、2撃目を上へ弾く。地面に埋まっている左腕へ未天の埋星を振り下ろし、弾かれるのを釘でも打つように両手の黒鱗刃で未天の埋星を全力で叩く。
不溶氷の籠手は割れ、命がけで与えた先ほどの傷を未天の埋星の刃がさらに深く切り裂いた。
振り払うような右腕の切り払いを危なげなく避け、貫通弾を連続で先ほど斬りつけた左腕へ撃ち込む。
俺が離れた瞬間白蓮の電撃がセンヒョウコウを襲う、しかしこれは不溶氷によって流された。どうやらあれは絶縁体らしい。
「ブレスは火、攻撃なら岩」
『了解した』
光と迷ったが乱反射でこちらにもダメージが来そうだ。注意が俺から離れた所でフックショットを使用し離脱する。
ある程度距離を取った所でジャーキーを数枚取り出し、無理くり口に突っ込んで頬張る。肉体を欠損レベルで修復した後はかなり腹が減る。スタミナゲージとHPゲージの上限が減ってるような感じだ。
簡易で刃を研ぐシャープナーをポーチから取り出し、手早く武器を手入れを行う。少々乱雑に扱ったので休息の間に修繕しておきたい。
口の中の血をジャーキーの香辛料で相殺し、下級回復薬で全て飲み込む。
首飾りの銀煌の緋妖精を取り出し、再使用可能となっているのを確認して胸の谷間に戻す。
「さて、もう一度行くとしますか」
名称:回復結晶
レア度:Ⅲ~Ⅴ
分類:錬金物
アルテイシアが創り出した全く新しいハンター用回復薬
見た目は赤い紋様が刻まれた薄い緑の結晶で折ったり砕く事で瞬時に物によっては重傷すら治癒することが出来る。
ハンターでなくとも回復効果を得られる
ただし材料費がかかる為おいそれとは使えない。
下中上の三段階の物があるが上はアルテイシアの師匠も「決して誰にも見せてはいけない」と言うほど。基本的に良いものほど分厚くなる
効果範囲は材料の量(特にピュールクリスタル)で決まる。




