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9 協力

「そんなにスミレに負けたくないんだね」


 俺は涙目の美桜さんに言った。


「うん……このままじゃつらくてもうベアキャット抜けるかも」


「え!?」


「……やっぱりそれがいいよね。辞めちゃえば少しは楽になるか……」


「それは困る!」


 5人揃ってこそのベアキャットだし、学年の「二大美女」の一人である美桜さんが辞めれたら大打撃だ。マネージャーとしてそれは阻止しなくては……


「だったら、私のこと慰めてよ。メンバーのメンタルケアもマネージャーの仕事でしょ?」


 そうなんだろうか。確かにそうなのかも知れないけど……


「どうすればいいんだよ」


「そうやねえ……デートしようか」


「はあ?」


「マネ君とデートしたら気が晴れるかも」


「俺のこと好きじゃないんだろ。なんでデートするんだよ」


「だって……スミレのことが好きなマネ君なのに、私とデートしたいんだって思ったら、少しは自信になるし」


 そんなことで自信になるのかよ。だったら仕方ないかもしれない。


「わかったよ。デートしよう」


「ほんと!? やったー! マネ君とデートだ! ふふ、スミレに自慢しようっと」


「お、おい……スミレに言うのか?」


「言わなけりゃ、意味ないでしょ。私はスミレに勝ちたいの!」


「そうだけど……」


 もし知られてしまったらまずいよなあ。


「どうする? スミレに言うならしない?」


 美桜は小悪魔風に言ったが目は不安そうだった。俺に断られたら本気で自信を無くして辞めてしまうかもしれない。


 それに俺が美桜さんとデートすると知ったら、スミレはどう反応するだろう? もし、何も反応しないようなら本当に脈は無いということで。そのときにはあきらめるしかないかもしれない。でも、少しでも嫉妬してくれたら……


「わかったよ」


 気がついたらそう答えていた。


「ほんと? スミレに言ってもいいの?」


「ああ。どう反応するか見てみたいし」


「なるほどねえ……確かにそうやね。うん、私とデートすることがスミレとの仲も進展させるかも知れないよ。だから協力しよう」


「協力?」


「そう。私はスミレに勝ちたい。マネ君はスミレを振り向かせたい。そのための協力ってわけ」


「なるほどな」


「よし! スミレをぎゃふんと言わせよう!」


 美桜さんは盛り上がった。しかし、いいのかな、この作戦。でも、このままじゃ何の進展も無いし、やってみる価値はあるかも知れない。


◇◇◇


 翌日の放課後。部室に来てみんなで机を片付ける作業をしているとまた遅れて美桜がやって来た。


「美桜、今日も遅かったね」


「ごめんごめん、また告られてて……」


「二日連続? モテるねえ」


 葵さんが言う。


「モテないってば。昨日も振られたし」


「は? 振られた?」


 みんなが美桜さんを見た。


「うん。マネ君に告ったらスミレが好きだからって」


「「「はあ?」」」


 それ言うのかよ……俺は頭を抱えた。


「み、美桜。どういうこと? だ、大樹に告ったって……」


 スミレが口をパクパクさせながら聞いた。


「だって、私、地味な子好きだし、マネ君いいなあって思っただけやから」


 そこは嘘つくのか。さすがに「スミレに勝ちたい」とは言わないようだ。


「で、でも、大樹は断ったんだ」


「うん、俺はスミレだけだから」


「そ、そうよね……」


 スミレは動揺しているような気がする……確かにこれは効果がありそうだ。


「でもねえ、デートする約束はしたし」


「はあ?」


 美桜さんの言葉にスミレが驚く。


「なんで振られてるのにデートするのよ」


「まずは友達からってことだよねえ、マネ君」


「そ、そうだな……俺、美桜さんのことよく知らないし。それで断るのも良くないと思って」


 俺も適当なことを言う。


「あきれた……あんた、スミレ一筋じゃ無いわけ? その点だけは認めてたのに」


 椿さんが俺をにらんできた。


「いや、一筋だよ。でも、可能性は低いしさ」


「あきらめるって言うの?」


「あきらめはしないけど、少し視野を広げてもいいかなと。せっかく美桜さんがこう言ってくれたんだし」


「そうなのよねえ。マネ君、やさしい」


 美桜さんはそう言って俺の腕にしがみつく。


「ちょ、ちょっと!」


 スミレが慌てて俺から美桜さんを離した。


「なによ、別にいいやん。スミレはマネ君のこと、いらないんでしょ?」


「いらないとは言ってないから。幼馴染みなんだし」


「でも、恋人にはならないんでしょ」


「それは……そうだけど」


「ならいいやん。幼馴染みに彼女ができたって」


「う……」


 スミレは唇をかみしめて美桜さんをにらんだ。


「はいはい……じゃあ、それぐらいにして。レッスン始めるよ」


 椿さんが言う。


「ちょ、ちょっと! でも大樹が――」


「デートするだけでしょ。それぐらいで慌てない。スミレは彼女じゃないんだから、文句言う資格無いよ」


「う……」


 椿さんの言葉にスミレが何も言えなくなった。


「じゃあ、俺は飲み物買ってくるから」


 俺は逃げるように部室を出た。


◇◇◇


 今日もレッスンの間は俺は廊下で待機だ。今日は昨日よりも椿さんの声がよく聞こえてきた。


「スミレ、遅れてる!」


「ごめん」


「スミレ、そこ間違ってるよ」


「うん」


「スミレ! 集中して!」


「……」


 スミレは調子が悪いようだ。俺と美桜さんの話に動揺したのだろうか。


 レッスンが終わって部室に入ると顔色が悪いスミレと不機嫌な椿さん、それとすごく上機嫌な美桜さんが居た。


「マネ君、今日も衣装の予算の打ち合わせして帰ろうか」


「そうだな」


「デートのことも話したいし」


「そ、そうだな」


「……私、帰る」


「あ、スミレ!」


 スミレはすぐに部室を出て行った。


「ふふ、効いてるねえ」


 スミレが居なくなると美桜さんが俺に言った。


「美桜、ほんとは大樹君に興味なんてないんだろ?」


 葵さんが美桜さんに言う。


「えー? どうかなあ?」


「あからさますぎるわよ。あんた、そんなにスミレが嫌いなの?」


 椿さんがにらみつける。


「嫌いなわけないやん。スミレのこと尊敬してるよ。だからこそ、勝ちたいの」


「だからといって、大樹マネに手を出すのはやりすぎではないでしょうか」


 今度は友梨香さんが言った。


「なんで? スミレは付き合うつもりないんやし、別にいいでしょ」


「……それで、大樹君もなぜ美桜に協力してるのかな?」


 今度は葵さんが俺に聞いた。


「スミレに悪いとは思ってる。でも……俺もスミレを振り向かせたいんだよ」


「バカマネはほんとにバカね」


 椿さんがあきれたように俺に言った。


「でも、効果あったやん。だから、マネ君のためでもあるし。ひいてはスミレのためにもなるんやから」


 美桜さんが言った。


「……まあ、好きにしたら。でもベアキャットに迷惑掛けないでよ」


「掛けないから。ウチもマネ君に本気やないし」


「当たり前でしょ、まったく……」


 椿さんがあきれながら出て行った。


「美桜、大樹君相手なんだから節度は持って行動してくれよ」


 葵さんが言う。


「わかってるし……」


「それならいいけど」


 葵さんも部室を出て行った。


 残った友梨香さんが美桜さんに言う。


「ミイラ取りがミイラにならないようにしてくださいね」


「なるわけないでしょ」


「そうでしょうか。ちょっと怪しいかと」


「怪しくないし!」


「ならいいですけど」


 友梨香さんはそう言って出て行った。


「はぁ……もう、みんな心配症なんやから。ハハハ」


 美桜さんは笑った。


「……いいけどさ。美桜さんは大丈夫なの?」


「何が?」


「みんなからああいう風に言われて。傷ついてない?」


「……私のこと心配してくれるんや」


「それはもちろん。だって、俺のためでもあるのに、美桜さんがいろいろ言われてるのはね」


「そうやけど……うぅ、ウチはミイラにはならんから……」


「ミイラ?」


「はあ……なんでもない。いいからデートどこ行くか考えようよ」


「そ、そうだな」


 それから俺たちはデートの計画を話し合った。



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