84 エピローグ
夏休みになった。俺と椿は毎日一緒に部室に向かう。それを見られても文句を言うやつはいなくなった。むしろ一人で歩いていると「スミレはどうしたの?」と言われ心配されるぐらいだ。
ベアキャットのあのライブは動画サイトで何十万回も再生されている。だが、スミレがそれを見ることは無かった。最初の説明シーンが恥ずかしいそうだ。
夏休みは朝から部室でベアキャットの練習。隣の空き教室ではミーアキャットの練習が続く。おれはどちらも行き来しながら、マネージャー業を続けた。
「ワン、ツ-、スリー、フォー、ワン、ツー、……」
今は振り入れ中。椿のかけ声が続く。曲はZARDの「負けないで」。実は24時間テレビの熊本会場で披露することになったのだ。熊本限定で地上波でも放送されるらしい。それに向けて椿が考えたオリジナルの振り付けを練習している。
「スミレ、そこ逆!」
「ごめーん!」
相変わらずスミレのミスは多い。
「振り入れ遅いのに本番じゃみんなを圧倒するからねえ、スミレは」
休憩時間になり、美桜が言った。
「圧倒って……そんなことないよ」
「ありますよ。私はあの『アイドル』の動画を毎日寝る前に見て悔しさを忘れないようにしてます」
友梨香さんが言った。
「確かにそうだね。あのときのスミレは凄かった。大樹君も惚れ直したんじゃないか?」
葵さんがからかって言う。
「俺は毎日惚れ直してるから」
「うわあ、バカマネが惚気た」
椿が言った。
「別にいいだろ、付き合ってるんだし」
「まあそうだけど。でも、私と付き合ってるときもそういう惚気言って欲しかったけどね」
椿が甘えるように俺に言った。
「え、椿? 付き合ってた?」
スミレが驚いて言う。
「ほら、彼氏役の時ね」
「ああ……」
「あのときは私もいろいろ甘えたし、楽しかったなあ」
「え!? 椿が大樹に甘えたの!?」
スミレが驚いて言った。
「うん。バカマネが甘えて欲しいって言ったから」
「はあ?」
スミレが俺をにらむ。
「ち、違うんだ!」
俺は言い訳するが、甘えて欲しいって言ったのは真実だから言い訳できない。
「ウチは逆に甘えて欲しかったけどなあ。おっぱい触る? って聞いたけど触ってくれなかったし」
今度は美桜が言い出す。
「な!? 大樹にそんなこと言ったの!?」
「うん。あの頃はマネ君とイチャイチャしてて楽しかったなあ」
「だ、大樹……」
スミレがまた俺をにらんだ。
「ち、違うから……」
「私にも大樹マネが恋愛を教えてくださったのですが、結局途中までだったので最後まで行きたかったです」
「さ、最後って……友梨香、何言ってるの?」
「だって、ハグまでしか出来なかったので。キスまではしたかったなあと」
「はあ?」
スミレが再び俺をにらんだ。
「えっと……」
「ボクも思い出すね。大樹君とのデートは楽しかったな」
今度は葵さんが言い出す。
「デート!? 葵、大樹とデートしたの!?」
「そうだよ。クレープ食べさせあったり」
「はあ!?」
再びスミレが俺をにらむ。
「それは……アハハ」
俺は笑ってごまかすしか無くなった。
「大樹……あとでちゃんと説明してもらうからね」
「う、うん……でも、俺はスミレだけだから!」
「そんなの当たり前でしょ、まったく……」
俺は耐えられなくなり逃げることにした。
「俺、ちょっとミーア見てくる」
「大樹!」
俺は部室を出て隣の空き教室のミーアを見に行った。ちょうどミーアたちは休憩中だったようだ。
「「「お疲れ様です!」」」
三人が挨拶してくれた。
「はい、お疲れ。頑張ってるかい?」
「「「はい!」」」
いやあ、ここは素直な子ばかりで落ち着くなあ。そう思ったときだった。
「坂崎マネージャー、私ってスミレ先輩に似てます?」
スミレに憧れ、髪型から何からすべてスミレに寄せている宮川紅葉が俺に聞く。
「うん、似てるんじゃないか?」
「そうですか……坂崎マネージャーってスミレ先輩と付き合ってるんですよね?」
「そうだよ。改めてどうしたの?」
「いえ……だったら、スミレ先輩と似ている私のこと、坂崎マネージャーはどう思ってるのかなあって……」
そう言いながら宮川紅葉は俺に近づいてきた。残りの二人は「キャー!」と言いながら二人で手を取り合って俺たちを見ている。
「い、いや……可愛いとは思うよ」
「やっぱりそうですか。スミレ先輩と似てますしね」
「う、うん」
「私、スミレ先輩の代わりをしてもいいですよ」
「はあ?」
宮川紅葉はさらに俺に近づいてくる。そのとき、扉が開いた。
「大樹、何してるのかな?」
スミレだ。宮川紅葉はすぐに俺から離れた。
「あ、いや……」
「紅葉ちゃんも何してるのかな?」
「さ、さあ……」
「大樹、ミーアの部屋入るのしばらく禁止ね」
「ス、スミレ! それだとマネージャー業が――」
「関係無いから。いつも私のそばにいること」
「わ、わかった……」
「じゃあ、行こう」
スミレは俺の手をつかんで、部屋を出る。すると、そこにベアキャットメンバーがいた。
「マネ君、浮気しちゃあかんよ」
「バカマネ、最低ね」
「マスタ-、見損ないました」
「大樹君、これはダメだね」
結局、俺は針のむしろか。
◇◇◇
帰り道。スミレが言う。
「大樹、今までは私も冷たかった時期があったし、これまでのことは水に流すわ」
「そ、そうか。ありがとう」
「でも、これからはダメ。大樹は私のものだからね」
「わ、わかった」
「私も大樹のものだし、好きにしていいよ」
「そ、そうか……」
「で、今日はなにしたいの?」
「そうだなあ……」
俺はスミレに耳打ちする。
「へ、変態!」
スミレは俺を鞄で殴った。
「ご、ごめん! ダメだった?」
「い、いいけど、こんなことしたってみんなに言わないでよ」
「もちろん!」
よし、家に帰ってスミレにあんなこと、こんなことをするとしよう。
(完)




