82 炎上
日曜日。朝から俺のスマホが振動した。椿からのメッセージだ。
椿『バカマネ、SNS見てる?』
大樹『いや、まだ見ていない』
椿『ベアキャットで検索してみて』
俺は言われるがままに検索する。すると俺とスミレが手をつないでいるの写真が大量に出てきた。
『ベアキャットのスミレ、彼氏発覚』
『ベアキャット、マネージャとセンターが熱愛』
『朝からスミレが彼氏と手つなぎ登校 #ベアキャット』
「なんだよ、これ……」
さらに反応を見ていくと
「スミレ、彼氏いたんだ。上手に隠してるよねえ」
「スミレに騙された!」
「ベアキャット好きだったのに……」
「もうスミレ応援しない」
完全に炎上していた……
それを見ているとき、インターフォンが鳴った。スミレだ。
「おはよう、大樹。ん? どうしたの?」
俺の青ざめた顔を見てスミレが異変に気がついた。
「スミレ、ちょっと来てくれ」
「う、うん……」
俺の部屋にスミレを入れ、SNSを見せる。
「なるほどねえ……」
スミレはそれを見ても驚くようなことはなく、冷静だった。
「みんなには迷惑掛けちゃったかな」
「ごめん、俺のせいで……」
「なんで大樹のせいよ。私たちのせいでしょ。でも、この件は私に任せて。大樹は何もコメントしなくていいから」
「そういうわけには――」
「何か聞かれたら、学期末ライブで私が説明するから何も言えない、って答えておいて」
「わかった……」
学期末ライブか。水曜に予定されている終業式後のライブだ。
「あ、ベアキャットの公式SNSにもライブの時に説明するって書いておいて」
「わ、わかった」
俺は早速書き込む。その反応は賛否両論だった。
『説明責任を果たしてください』
『何があっても応援します!』
『ミーアに乗り換えます』
『スミレに裏切られた』
『メンバーに手を付けるマネージャーはすぐクビに!』
『デマだと信じてます』
うーむ……本当だと分かったときが恐いな。そのとき、またスマホが振動した。スミレ親衛隊隊長・黒山だ。
黒山『坂崎マネージャー、噂は真実なのか?』
俺はさっき決めたように反応する。
大樹『学期末ライブでスミレが説明するから今は何も言えない』
黒山『その反応、やはり真実だろ』
俺は何も答えなかった。
黒山『スミレ親衛隊は学期末ライブの応援はボイコットさせてもらう』
……そうなるよな。俺はこのことをスミレに伝えた。
「別にいいでしょ。彼らがいなくなっても」
「スミレ……」
「私、親衛隊とかいらないし。大樹がいればそれでいいから」
「そ、そうか……」
「だから大樹、今日も楽しもうよ」
「え!? スミレ? こんなことがあったのに……」
「あったからこそよ。えい!」
そう言ってスミレは俺に抱きついてきた。俺はあっという間に組み伏せられ、上からスミレのキスを浴びる。
「ん……ぷは……」
唇を離したスミレは言った。
「なんか燃えない?」
「何が?」
「だって、みんなが私に彼氏がいるかやきもきしてるのに、当の私たちはこうやってイチャイチャしてるんだから」
「ま、まあ、そうだけど……」
確かにスミレ親衛隊からしたら許せない光景だろうな。
「みんなが夢見るスミレちゃんとのイチャイチャ、大樹が独占だよ」
「自分で言うのかよ」
「だって、そうとでも思わないとやってられないでしょ。どう? 大樹も燃えてきた?」
「当たり前だ」
俺は何とも言えない優越感を感じながらスミレとイチャイチャした。
だが、そのイチャイチャが終わると、スミレは言った。
「大樹、悪いけどライブまでは別々に行動しようか。一緒にいたら大樹も大変だろうし……」
「そうだな……」
登校や下校は別々か。
「ライブが終われば夏休みだし、毎日家に来るから」
「そ、そうか……」
夏休み、一線越えそうだな。いろいろ準備しておくか。
◇◇◇
月曜日は海の日で祝日。この日もSNSではさらに炎上は盛り上がっていた。俺は見なくてもいいSNSをつい見てしまっている。スミレは家で自主練に励んでいた。
そして火曜日。俺はスミレとずらして学校に行くことにする。やはり学校が近づくにつれ視線を感じる。そして、校舎に入るとスミレ親衛隊長の黒山とその仲間達がいた。
「坂崎大樹! 話がある」
「……俺には無いです」
「坂崎!」
「ライブで説明するって言いましたから。そう決まった以上、俺からは何も話せません」
「貴様!」
黒山が俺の胸ぐらをつかんでくる。だが、俺は何も言えなかった。
「ここでお前が説明しないなら本当にボイコットだぞ」
「……そういう判断をされるなら仕方ありません」
「そうか。じゃあ、ボイコット決定だ。他の親衛隊にも呼びかけておくからな」
まずいな。ボイコットがどこまで広がるか……
教室に入っても俺は見知らぬ生徒からたくさん質問を受けたが全て「ライブで説明するから今は話せない」で押し通した。
◇◇◇
昼休み。俺は部室に向かう。今日はベアキャットメンバー全員が集まっていた。
「困ったねえ、スミレ」
美桜が言う。
「別に私は困ってないけど」
「そうなの?」
「うん。だって、大樹と一緒にいられればそれでいいから。でも、みんなには迷惑掛けてるよね。ごめん」
「迷惑なんて、そんなことありません!」
友梨香さんが言った。
「そうだね。ボクたちは大事なベアキャットを守るのみ。スミレはもちろん、大樹君もね」
「そうね。人気が無くなったらまたゼロからやり直せばいいし」
椿も言う。
「みんな……ありがとう」
スミレが頭を下げた。
「でも、ライブでの説明はスミレに任せてるけど、いいの?」
美桜が言う。
「うん、ライブ前に少し時間くれれば大丈夫。私が自分の言葉で説明するから」
「そう。ならいいけど。相談には乗るよ」
「ありがとう。でも、もう言うことは決めてるし、大丈夫だから」
「そう……」
スミレは既に何を言うかは決めてるのか。
「……俺が少し心配なのはスミレ親衛隊がボイコットを決めてて、他の親衛隊にも呼びかけるって言ってたことだ」
俺はみんなに言った。
「それは大丈夫。ウチの親衛隊は参加するって言ってたよ。他も同じく参加らしいから」
美桜が言った。
「そうか」
じゃあ、スミレ親衛隊だけがいないことになる。スミレへの声援が少なくなるな。
「スミレ、当日のライブがつらいと思うけど大丈夫?」
椿が聞いた。
「私は大丈夫だから。伊達に自己評価低いわけじゃ無いし。自分の声援が一番少なくても当たり前って思ってるから」
「さすがスミレ。強いなあ」
美桜が言った。
「強くないよ。私だって叩かれると凹むし。でも、今回はそう言うのとは違うから。大樹とのことだもん」
そうスミレは言った。




