80 リベンジ
その日の放課後。俺はベアキャットの練習開始を見届けた後、ミーアキャットが練習する隣の空き教室に向かった。
「「「よろしくお願いします!」」」
俺が入ると3人が俺に挨拶した。
「はい、よろしくな。じゃあ、今の状態を見せてくれ」
「はい!」
曲が流れ始め、3人は踊り始めた。うん、相当良くなっている。以前は踊るだけで精一杯なところがあったが、今はそれを越えて、自分たちの表現が出来ている感じだ。
曲が終わり、宮川紅葉が俺に言った。
「坂崎マネージャー、どうでしたか?」
「すごく良くなってたよ」
「「「ありがとうございます!」」」
3人は手を取り合って喜んだ。
「あとはそうだな……貪欲さかな」
「貪欲さ……」
「そう。ベアキャットには自分を見て! という貪欲さがある。とにかく自分を見て欲しい、そういうアピールを考えてくれ」
「「「はい!」」」
偉そうに言ったが、結局は抽象的なアドバイスしか送れなかった。
休憩時間になると3人はお互いに修正点を言い合っている。うん、これが続いているのはいい傾向だ。
休憩が終わり、再びミーアキャットのダンスが始まった。その途中でそっとスミレが入ってきた。俺の隣で一緒にミーアのダンスを見る。
一曲が終わった時点で、俺は「スミレ、どう思う?」と聞いた。
「紅葉はまだステップが堅いわ、足の動きに気を付けて」
「はい!」
「蘭はリズムが少し早くなってるところがあるからそこに注意して」
「はい!」
「撫子はもっと大きく踊ること。せっかく手足が長いんだからそれを生かして」
「はい!」
「でも、みんなよくなってるわよ」
「「「ありがとうございます!」」」
「じゃあ、もう一回行くか」
「はい!」
俺は曲を再び流す。するとスミレが俺の耳に口を近づけて言った。
(もう行くから)
(わかった。ありがとう)
(うん。またね、愛してる)
(俺もだ)
スミレは出て行った。
二回目のダンスが終わり、休憩になった。また、三人はお互いにだめ出しを始めた。
だが、それが一通り終わると、宮川紅葉が俺に聞いてきた。
「坂崎マネージャーってスミレ先輩と付き合いだしたんですよね?」
誰かに聞いてたのか。
「うん、そうだけど」
「キャー! やっぱりそうだったんだ!」
沢村蘭が言った。もう一人の西崎撫子は驚いた顔をしている。しまった、鎌を掛けられたか。
「ですよねえ。なんかすごく距離が近くなりましたもん」
宮川紅葉が言った。
「そ、そうかな……」
「そうですよ。いいなあ、すごくお似合いです。スミレ先輩と坂崎マネージャー」
「そうか? スミレに対して俺は冴えない感じだと思うけど」
「普通に見たらそうかも知れませんけど……」
やっぱりそう見えるよな。
「でも、私たちは坂崎マネージャーのことを少しは知ってますから。だからスミレ先輩が好きになるのも分かりますし。だから、お似合いですよ」
「そ、そうか……でも、これは黙っててくれよ」
「はい、わかってます。もしバレたらファンも大騒ぎですよね」
「まあな」
特にスミレの親衛隊。あいつらは狂信的なまでにスミレを推してるし。俺のことも嫌っている感じだった。となると、もし付き合ってるって知られたら何をしでかすか分からない。
◇◇◇
ミーアたちの練習が終わり、俺はベアキャットの部室に戻った。そこには以前のようにスミレと葵さんが残っていた。だが、俺が来たのを見て葵さんが言う。
「じゃあ、ボクはここで失礼するよ」
「うん、ありがとう、葵」
葵さんは帰っていった。教室には俺とスミレだけになった。
「大樹、まずはリーダーとして聞くわ。ミーアはどうだった?」
「いい感じに仕上がってきてる。これなら誰にも文句は言わせないだろう」
「うん、そうね。じゃあ、スミレとして聞くけど……ミーアの誰かと仲良くなったりしてないでしょうね?」
「はあ? なるわけないだろ、まったく……」
「そう? だって紅葉は私に似てるし、仲いいんじゃないの?」
「そんなことはない。別にそんなに親しくないぞ」
「そうなの? 前、カラオケでは横に座って仲良く話してたように思うけど」
「良く見てたな」
「見てたよ。あれ見てすごく嫉妬してたんだから」
「そ、そうなのか……」
「うん。距離近い! 私と代われ! って思ってた」
「そ、そうだったんだ……」
「そうよ。私、ずっと大樹を見てたんだから……」
「スミレ……」
俺たちは初めて部室でキスをした。なんか禁断なことをしているようで、妙にそわそわする。
「……と、とりあえず片付けようか」
「そ、そうね……」
俺たちは机を片付け、鍵を返しに職員室に向かった。
◇◇◇
翌日の木曜日。今日はスミレと葵さんの自主練だ。だからいつもより早く俺たちは家を出た。路面電車で学校近くまで行き、そこから歩くいつもの道。だが、そこでスミレは手をつないできた。
「ス、スミレ。まずいって。もうすぐ学校だぞ」
「大丈夫。朝早いから人も少ないでしょ」
「そうだけど、多少はいるぞ」
「接近して分からないようにつなげば大丈夫」
そう言ってスミレは接近してくる。
「近づきすぎたらそれでバレるだろ」
「そっか……」
ようやくスミレは手を離し、俺と少し距離を取った。
「そういえば昨日、ミーアにもバレたからな」
「え、嘘……」
「ほんとだよ。距離が近すぎるって」
「そ、そっか……自分ではそんなつもり無かったんだけどな
「だから気を付けないと」
「う、うん……」
俺たちは朝の部室に向かった。
◇◇◇
放課後。また俺はミーアたちの部室に行き、練習を見守る。そこにスミレもやってきた。二人でダンスを見てスミレが3人にアドバイスを送る。昨日と同じ光景だ。
「以上、注意してね」
「「「はい!」」」
「じゃあ、私は行くから」
「スミレ先輩!」
そこで話しかけたのは宮川紅葉だ。
「なに?」
「坂崎マネージャーとお付き合い、されてるんですか?」
「……そうよ」
「「「キャー!」」」
三人は騒ぎ出した。
「どっちから告白したんですか?」
沢村蘭が聞いた。
「俺からだよ」
「うわー! でも幼馴染みだったんですよ? ずっと好きだったんですか?」
「まあな」
「「「キャー!」」」
三人は再び騒ぎ出した。それを見てスミレがあきれて言う。
「私たちのことはいいでしょ。三人はリベンジライブに集中すること」
「「「はい!」」」
「でも……リベンジライブが終わったらいろいろ聞いてもいいですか?」
宮川紅葉がスミレに言う。
「ダメに決まってるでしょ! ……恥ずかしいし……」
スミレが顔を赤くしながら言った。
「うわあ……あのスミレ先輩が乙女に……」
お調子者の沢村蘭が言った。
「うるさい!」
「すみません!」
「まったく……先輩をからかうのもいい加減にしなさいよ」
「「「はい!」」」
「もう……大樹もいろいろ言っちゃダメだからね」
「分かってるよ」
「じゃあ、行くから。また後でね」
「おう」
スミレは去って行った。
「うわあ……すごく……すごく尊いです、お二人」
宮川紅葉が言う。
「そうか?」
「そうですよ、私も彼氏欲しくなりました!」
沢村蘭が言う。西崎撫子も激しく頷いていた。
「まあ、ミーアもリベンジライブを成功させて人気者になれば、彼氏なんて選び放題だぞ」
「え、選び放題……」
ゴクリ、とつばを飲み込む沢村欄。
「そうだぞ。美桜なんて……いやそれはいいや。とにかく練習開始だ」
「「「はい!」」」
ミーアたちのその後の練習はさらに気合いが入っていた。




