76 告白
俺とスミレは微妙な感じになりながら映画館を出た。それにしても危なかった。映画の途中で目が合って、キスしそうになったのだ。かろうじて俺は我慢することが出来た。でも、我慢する必要があったのかはよく分からない。
「大樹、なんか甘い物食べようか?」
「そ、そうだな」
俺とスミレは一階に降りて阿蘇ソフトクリームを買う。阿蘇の乳牛で作られたミルク味の濃いソフトクリームだ。
「どこで食べる?」
「そりゃ外だろ。俺たちはいつもそうしてきたし」
「さすが幼馴染み。分かってるね」
小さい頃から俺とスミレは暑い中でアイスを食べるのが好きだった。だから俺たちは建物の外に出た。
◇◇◇
「あ、いたいた」
建物の外に出た椿と美桜はちょうどやってきた葵と友梨香に合流した。
「あんたたち、ほんとに来たん?」
「だって、君たちが実況するから気になってね」
「私もです」
美桜が大樹とスミレの様子をスマホで実況してたから、それを見ていた葵と友梨香はいても立ってもいられなくなり現場に来たのだ。
「どこにいます?」
「あそこ。噴水のところ。アイス食べてるでしょ?」
「あ、いましたね。距離、近いです……。普段と全然違います」
友梨香が言う。
「何を話してるんだろ。聞こえないから、もっと2人に近づこうよ」
葵が言った。
「そうだけど、バレないようにしないと」
「大丈夫。2人の世界に入ってるみたいだし」
そう言って葵はどんどん近づいていく
「ちょ、ちょっと!」
そう言ったが葵は止まらない。仕方なく椿と美桜、友梨香の3人も付いていった。少し離れたベンチに背中あわせで座る。ここなら何と言っているか聞こえそうだ。
◇◇◇
「アイス美味しいね」
「そうだな」
俺とスミレは熱心にアイスを食べる。だが、そこにあまり会話は無かった。さっき見た恋愛映画が俺たちの間に強い印象を残している。映画の中で幼馴染みカップルは最終的に告白して結ばれたのだ。俺もここで決めたい。そう思っていた。
ふと、スミレを見ると口元に白いものが付いている。
「スミレ、アイス付いてる」
「え? どこ?」
「拭いてあげるから」
俺はハンカチでスミレの顔を拭き取った。
「あ、ありがと……」
当然凄く接近してしまう。俺たちは見つめ合った。だめだ。もう我慢できない。
「スミレ、俺はスミレのことが好きだ」
「う、うん」
「スミレも俺のことを好きなんだよな?」
「そ、そうだね……」
「じゃあ、俺たち、付き合わないか?」
俺は再び告白した。
スミレは俺に釣り合わないと思っていたみたいだが、もうそれは解消したはずだ。ということは何も断る理由は無い。ということは……
「ご、ごめん」
「はあ!?」
俺がそう言うと同時に、後ろでガタガタっと大きい音がした。振り返ると、なぜかそこにベアキャットのメンバー4人がいた。スミレもメンバーたちに気がつく。
「美桜、椿、葵、友梨香まで……どうしたの?」
「いや、どうしたもこうしたもないでしょ! なんでそこで断るのよ!」
美桜が俺たちの前に来てスミレに言う。
「だって……私と大樹が付き合いだしたら親衛隊とか絶対騒ぐし、大樹に迷惑がかかるかなって……」
「はあ? それを乗り越えてこその恋愛でしょうが!」
美桜が怒る。
「そうです! それでもスミレが付き合わないっていうのなら、私たちだって大樹マネと付き合う権利があるんですからね!」
友梨香さんが言う。
「そんな……」
「そうだよ、スミレ。大樹君だって、ずっとスミレに縛られているわけにはいかないって思うんじゃないか?」
「そうだけど……」
「そうね。バカマネ。スミレが大樹と付き合わないって言うんなら私と付き合ってよ」
椿が言った。
「いや、そこは私でしょ!」
美桜が言う。
「わ、私も立候補します!」
友梨香さんも言った。
「じゃあ、ボクも立候補しようかな」
葵さんまで言った、
「ちょ、ちょっと!」
スミレは焦ったようにみんなを見た。
「さあ、マネ君。私たち4人から誰か選んで。ちなみに私はマネ君のほっぺにキスしたし」
美桜が言った。
「はあ!?」
スミレが驚く。
「私はマスターに恋愛を手取り足取り教えてもらいました」
友梨香さんが言う。
「手取り足取り!?」
スミレがあっけにとられた。
「ボクは偽装恋人だったからね。今度は本物になりたいね」
葵さんが言う。
「私も大樹には一時期恋人役してもらってたし」
椿も言った。
「だ、大樹……」
スミレは俺を見たが止めることはしなかった。メンバーが真剣に俺を見つめている。しかたない、選ぶしかないか。
「……じゃあ、椿で」
「よっしゃーっ!!」
椿がガッツポーズを見せる。
「えー、マネ君、信じてたのに……」
「マスター、残念です……」
「やっぱりボクじゃダメか」
3人はがっかりした様子を見せた。それを尻目に椿が俺の手を取る。
「さすが大樹ね。私の良さをよく分かってるわ。じゃあ、今日から本物の恋人同士ね、大樹」
椿はここぞとばかり大樹と呼ぶ。
「そ、そうだな」
椿はニコニコしながら俺に腕を絡めてきた。
「だ、だめー!」
スミレが慌てて俺と椿の間に割り込む。
「なによ、スミレ。あんたが大樹のこといらないって言ったんでしょ?」
「違うから! いらないとか言ってないし!」
「じゃあ、何よ。付き合うの?」
「う、うん……つ、付き合う……」
スミレが小さい声で言った。
「え? 聞こえないけど?」
「付き合うの!! 大樹は私のものだから!!」
スミレは大きな声で言った。
「最初からそう言えばいいのに」
椿がほっとしたように笑顔を見せた。
「そうやね、スミレ。素直にならんと」
「はい、やっとですね。安心しました」
「さすがスミレだよ。最後は答えを出したね」
「みんな……」
「安心して。全部演技だから。みんな、スミレに素直になって欲しくてやっただけよ」
「そ、そうなんだ……びっくりした。みんな、大樹と付き合いたいかと……」
「そんなことはないから大丈夫よ。ね?」
椿が言う。他の3人は微妙な顔をしていたが、否定はしなかった。
「ほら、バカマネ。改めて言いなさい」
椿が俺に言った。
「……スミレ、俺と付き合ってくれないか?」
「はい、喜んで……」
「スミレ……」
「大樹……いろいろ迷惑掛けてごめん!」
そう言ってスミレは俺に抱きついてきた。
◇◇◇
帰り道。俺とスミレは2人で手をつないで路面電車に乗っていた。
「大樹、これからは恋人同士としてよろしくね」
「ああ、スミレ、よろしくな」
「……ところで大樹」
「なに?」
「4人の中でなんで椿を選んだのかな?」
「え?」
「いつも椿とお昼食べてるでしょ」
「そ、そうだけど……」
「好きなの?」
「ち、違う! 俺はスミレだけだし」
「ふーん……じゃあ、なんで椿を選んだの?」
スミレの顔はニコニコしているが、目が恐い。
「椿が一番分かってると思ったからだよ。あれが演技だってことを」
「そういうこと……」
「ああ。なんだかんだで椿はスミレのことを第一に考えてるからな」
「ふうん。でも、椿、自分が選ばれたときガッツポーズしてたような……」
「あ、あれも演技だよ。ハハハ……」
「ところで椿が言ってた彼氏役って何?」
「あれはその……」
このあとたっぷりしぼられた。




