75 デート
路面電車に乗って、俺たちが向かったのはアミュプラザ熊本。いわゆる駅ビルだ。デートに行くことになったが、どこに行っていいのかよく分からなかった俺は美桜に相談した。美桜は「うーん、バスセンターとか、アミュプラザとかじゃない?」と答えたので、行ったことが無いアミュプラザに行くことにしたのだ。
「……スミレはここに来たことあるのか?
「無いよ。学校からだ帰り道と逆方向だし」
「友達と遊びに来たりとか無いのか」
「無いねえ、一年前からはずっとベアキャットで忙しかったから。土日も家で自主練してたし」
「そうなのか……彼氏とかと来たりしなかったのか?」
「か、彼氏!? それ大樹が聞く? 私はずっと大樹だけなのに……」
「でも、俺の告白断ったろ」
「そうだけど、あれは自信が持てなかったからだし、でも今は……あ、今の無し。聞かなかったことにして」
スミレはごまかすように言った。なんだろう……自信が持てなかったから告白を断った。でも今は……そうか、自信を持つように昨日言ったんだった。ということは……告白を断る理由は無いと言うことだ。つまり……俺はそこから先を考えると緊張が止まらなくなった。
「と、とりあえず入ろうか」
「そ、そうね」
俺たちは駅ビルに入った。
「まず何か食べる?」
「そうだな」
俺たちは六階のフードコートに向かった。
◇◇◇
「来た!」
フードコートの柱の陰から双眼鏡を覗く美桜が言う。隣の椿もスミレと大樹に気がついて隠れた。
「やっぱりここに来たかあ」
「それにしても、こんなのぞき見みたいなことして趣味悪いわね」
椿が美桜に言った。
「だって、面白そうやん。スミレとマネ君がどんなデートするか。私が覗きに行くって言ったから椿も付いてきたんでしょ?」
「私はあんたが暴走しないように見張る役よ。あの2人がどうなるかにベアキャットの未来がかかってるんだから」
「確かにね。マネ君は縁の下の力持ちで支えてもらって、スミレは元気出して踊ってもらわないと困るし」
「あ……あのバカ、とんこつラーメン頼んでるし。デートなんだからもっとオシャレなのにしときなさいよ」
「スミレはピザかぁ。美味しそう」
◇◇◇
それぞれ好きなものを食べようということで、俺はとんこつラーメンに、スミレはピザにした。
「全然違うもの頼んじゃったね」
「そ、そうだな」
デートがこれでいいんだろうか……明らかに失敗したような気が……
だが、ラーメンはとても美味しく、あっという間に食べてしまった。スミレはゆっくりと食べている。まだピザは半分ほどだ。
「うーん、ちょっとお腹いっぱいかな」
「え、もう!?」
スミレはホントに小食だな……
「大樹、一切れ食べてくれる?」
「ああ、いいけど……」
「はい、あーん」
スミレはピザを一切れとり、俺に食べさせようとした。
「い、いや、自分で食べられるから」
「そ、そっか。そうだよね……」
そう言うとスミレはしょぼんと下を向いた。
「あ、嘘、嘘。スミレに食べさせてもらいたいなあ」
「ほんと?」
「ああ。頼むよ」
「はい、あーん……」
俺は口を開けスミレに食べさせてもらった。
「どう?」
「お、美味しい……」
「だよね!」
スミレは嬉しそうだ。
「……じゃあ、次は大樹お願い」
「え?」
「あーん」
そう言ってスミレは口を開けた。なんかエロい……
「い、いいのか?」
「うん。早く……あーん……」
俺はスミレの口にピザを入れた。
「はむ……うん、美味しい!」
「さっき食べてたのと変わらないだろ」
「変わるよ! 大樹が食べさせてくれたんだもん」
「そうだけどさ……」
◇◇◇
「うわあ、お互い食べさせっこしてる!」
美桜が足をばたばたさせて騒ぐ。
「何かムカつくわね」
「あら~? 椿は嫉妬?」
「してないわよ。ただ、バカマネがデレデレしてるのがなんかむかつく」
「それって嫉妬やないの?」
「違うから」
「ふーん……椿ってさあ、ほんとのところ、マネ君のこと、どう思ってるん?」
「別に……」
「じゃあ、マネ君が付き合おうって言ってきたら付きあうん?」
「まあ、どうしてもって言うならね」
「あらー、そうなんや。いつの間に好きになったん?」
「なってないから。ただ、それぐらいにはお互いのことをわかってきただけ」
「それって好きってことやん」
「違うし。でも……スミレがいらないっていうなら私がもらうから」
「ずるい! そのときはウチがもらうんやから」
「美桜がそう言っても大樹は美桜を選ばないだろうけどね」
「ひどーい! ん? 今、大樹って言わなかった?」
「あ……」
「なんや、二人のときは名前で呼んでるん?」
「ち、違うから! バカマネはバカマネよ!」
「顔真っ赤にして、かわいい」
美桜は椿の頬をツンとつついた。
◇◇◇
次は映画だ。7階の映画館に向かった。
「大樹はどの映画観たい?」
「考えてなかったな。スミレは?」
「うーん……やっぱり恋愛映画かな」
そう言って指を指す。ポスターを見る限り男子1人、女子3人の映画みたいだけど、大丈夫かな。
「どの席にする?」
スミレが聞いてくる。
「どこでもいいけど……」
「じゃあ、カップルシートでも?」
「別にいいよ」
「じゃあ、そうするね」
スミレが席を選んだ。
俺たちはポップコーンを買って、映画館内に入った。
「カップルシートっと……ここか」
間に区切りが無い席だ。
「うん、いいね!」
スミレが左の席に座る。俺は右の席に座った。
「な、なんか近くないか?」
スミレが俺の方に近寄って座っている気がした。
「そう? 嫌だった?」
「嫌なわけ無いだろ」
「じゃあ、いいね」
「う、うん……」
なんか今日のスミレ、積極的だな。
◇◇◇
「うわあ、くっついてる!」
美桜が小声だが興奮した口調で言う。
椿と美桜は最上段からカップルシートの大樹とスミレを見守っていた。
「スミレがあんなに甘えてるところ、初めて見たわね」
「ほんとよねえ。やっぱ好きなんやろなあ」
「じゃないとあの距離は無理よ」
「だねえ」
やがて映画が始まる。内容そっちのけで2人は大樹とスミレを見守った。
(あ、手つないだ!)
美桜が椿の耳元で言う。
(見つめ合ってない?)
(うわ、キスしそう)
(映画館でやっちゃうか? いけ!)
(……さすがにバカマネじゃ無理よね)
(残念!)
2人は盛り上がっていたが、やがて大樹とスミレの方は動きが無くなってきた。
(暇やねえ)
仕方なく映画を見始める。だが、映画のストーリーはおかしな方向に進んでいた。3人の女子と一人の男子の物語だが、そのうちの2人の女子がくっつき始めたのだ。
『女の子同士でいいのかな……』
『好き同士だもん。性別は関係無いわ……』
『好き……』
『私も……』
女子同士のキスがスクリーンに大写しになった。
椿は恥ずかしくなって目をそらす。美桜も目をそらしたことで椿と目が合った。すると、美桜は目をつぶってキスしようとしてくる。椿は慌てて美桜の顔を押しやった。
映画が終わると椿が言う。
「なんてことしようとするのよ、美桜」
「だって……椿がしようって感じだったから」
「違うわよ。まったく……」
「ウチ……椿がしたいんだったらいいよ」
「馬鹿なこと言ってないで――あ、出て行くわよ」
2人は慌ててスミレと大樹を追いかけた。




