71 辞任
月曜日。期末試験の初日だ。俺はあんなことがあったし、スミレを迎えには行かなかった。スミレも俺の家には来なかった。俺は朝、一人で登校した。
クラスが違うし、電車が違えばスミレに会うことも無い。試験の初日は無事終わった。試験期間中はベアキャットの活動も全て休み。俺はすぐに家に帰った。
翌日もスミレに会うこと無く試験は終わり、水曜日の試験最終日。ようやく全ての試験が終わって、開放感漂う教室で、椿が俺を迎えに来た。
「バカマネ、行くわよ」
「そうだな」
バカマネか。確かにバカなマネージャーだったな。だが、それも今日で最後だ。俺は部室に向かった。
部室で机を片付けているとスミレがやってきた。でも、スミレは俺に話しかけることも無かった。そのまま練習が始まり、そして時間が過ぎた。
「じゃあ、今日はここまでにしようか」
スミレの声が響き、解散の雰囲気が漂ってきたとき、俺は言った。
「みんな、少しいいか?」
「マネ君、何? またイベント決まった?」
美桜が聞く。
「いや、そうじゃない。個人的な話だ」
「個人的? どうしたん? スミレと付き合いだした?」
美桜が茶化す。
「そうなれば良かったんだけどな……みんな、急で申し訳ないんだが、俺はベアキャットのマネージャーを辞めさせてもらおうと思う」
「「「「え!?」」」」
全員が驚きの声を上げた。
「短い間だけど、楽しかった。ありがとう」
俺は頭を下げた。
「ちょ、ちょっとマネ君! 冗談だよね?」
「大樹君、何を言ってるんだい?」
「マスター、考え直してください!」
美桜と葵さんと友梨香さんが口々に俺に言ってくる。椿とスミレは黙ったままだった。
「悪いな、もう決めたんだ。引き継ぎはちゃんとやるから。あとで連絡する。今日は最後まで机を片付けるから安心してくれ。じゃあ、俺は外に出てるから」
俺は部室の外に出た。だが、スミレも外に出てきた。
「何やってるんだ、早く着替えないと――」
「大樹、この間のせいなの?」
「違うよ。その前から決めていたことだ」
俺は嘘を言った。
「どうして? どうして急に――」
「悪いな。でもこれが最善だと思う。ベアキャットにとっても、俺たちにとっても」
「大樹……」
「ほら、はやく着替えないとみんな困るぞ」
「う、うん……」
スミレは部室に戻っていった。
しばらくして部室の扉が開いた。
「よし、じゃあ、あとは俺に任せてみんなは帰ってくれ」
俺はそう言ったが、みんなは帰ろうとしなかった。
「ウチはマネ君が辞任を撤回するまで帰らないから!」
「私もです!」
美桜と友梨香さんが言う。それを見てスミレと葵さんも動かずにいた。
だが、椿が言った。
「そんなこと言ったらバカマネが困るでしょ」
「椿……」
「とりあえず今日は帰るわよ」
「椿はそれでいいの?」
美桜が聞く。
「よくないけど、いったん考える時間が欲しいわ」
「……わかった。ここは椿に従う」
美桜が教室の外に出て行く。友梨香さんとスミレ、葵さんも出て行く。最後に椿が出て行った。椿は結局俺には何も言わなかったな。まあ、そんなものか。
◇◇◇
ベアキャットのメンバー5人は久しぶりに帰りに全員でスタバに来ていた。バスセンター2階のスタバのテラス席だ。
「スミレ、マネ君、ほんとに辞めるの?」
美桜が言う。だが、スミレはうつむいたまま何も言わなかった。
「でも、一体何があったのでしょうか。こんな急に。おかしいです」
友梨香が言った。
「……まあ、だいたい見当は付いてるけどね」
その言葉に全員が椿を見た。
「何が原因か、椿は知っているのですか?」
友梨香が聞く。
「おそらくね。バカマネは金曜日にスミレの親衛隊と会ってる。そのあとから様子がおかしかったから」
「私の親衛隊?」
「あー、噂の件か」
美桜が言う。
「噂?」
「スミレが生徒会長に立候補するってやつ。それを流してるのが親衛隊じゃないかって話」
「それじゃあ……」
「おそらく、噂を流すのをやめる代わりにマネージャーを辞めろって親衛隊に言われたんでしょ」
「そんな!」
「それでほんとに辞めるって……」
友梨香が言う。
「ほんと、バカよね」
「……いや、大樹君らしいよ」
葵がつぶやいた。
「……私、親衛隊に会う。会って撤回するように言うから!」
スミレが言う。
「それはやめておいた方がいいわね。スミレが会うとなるとますますあいつらは調子に乗るわよ」
「でも……じゃあ、どうしたら……私は噂なんて意識してないのに……」
「それをスミレがバカマネに直接伝えたら?」
「言ったんだけど……」
「じゃあ、もっと想いをバカマネに伝えることね。スミレはバカマネがマネージャー辞めてもいいの?」
「良くない!」
「それをしっかり伝えれば大丈夫よ」
「う、うん……」
「親衛隊の方は私たちで何とかするわ」
椿が言う。
「私たちで?」
美桜が椿を見る。
「そう。私と美桜でね」
「ウチ!?」
「そうよ。美桜は自分の親衛隊とつながりあるんでしょ。そこを利用させてもらうわ」
「……それはいいけど。何するん?」
「大丈夫よ。私が言うことをただ伝えてもらえればいいから」
「それならいいけど……」
「スミレは今日にでもバカマネの家に行って、はっきり想いを伝えること。わかった?」
「うん……行ってみる」
スミレは右手をぎゅっと握りしめた。
「……大丈夫、ですよね?」
友梨香がみんなに言う。
「あたりまえやん。マネ君は絶対戻ってくる!」
美桜が言った。
◇◇◇
スミレは家に帰らずにまっすぐに大樹の家に向かった。インターフォンを押すと瑠璃が出てきた。
「スミレさん、どうしました?」
「大樹、いる?」
「あ、お兄ちゃんは今日は友達の家に泊まるって、さっき連絡来ましたよ」
「え!?」




